第13話 告白

「懐かしいなあ」

室内を見回してラウルは感慨深げに言った。


アルフィンの所から帰ってきた私達は、ソファに並んで座り、ラウルの入れてくれたお茶を飲んでいた。

「ねえラウル…」

私は気になっていた事を聞いてみる事にした。

「あなた、私の呪いの事を調べてくれていたのでしょう?どうしてもっと早くここに来なかったの?」

私は十年前からこの森に戻ってきていたのに。

「———変な意地があったんだよね、呪いを解く方法を見つけるまでは会わないって」

苦笑するように笑みをもらすとラウルは私を見た。

「今は後悔してるよ。あの王子に目を付けられる前に貴女を手に入れておけば良かった」

「手に入れるって…」

思わず顔が赤くなるのを感じる。

「…その、いつから…私の事……」

「子供の時からずっとだよ」

大きくなったラウルの手が私の手を取る。

「貴女はよく俺の事を自分の子供みたいだと言っていたけれど。その度に悲しくて悔しくて。早く大人になって求婚しようと思っていたのに、その前に死んでしまうから…」

「求婚って…幾つ歳が離れて…」

「年齢なんか関係ない」

ラウルが掴んでいた私の手を引き寄せた。

バランスを崩して、ラウルの胸に飛び込んでしまう。

「———毎晩一緒に寝る貴女にこっそりキスするくらい、幼い時から本気で好きだったよ」

「……え?」

キス?寝ている時に?

全然気づかなかったんですけれど?

というかキスってどこに?!

「フローラ様」

ラウルの息が耳元にかかる。

「王子にどこまでされたの?」

は…?

「どこまでって…」

「唇は許したの?」

「なっ…」

「どうなの?」

抱きしめられているから表情は見えないけれど…多分あの怖い顔をしているんだと思う。

「…抱きしめられて…頭にキスされただけよ…」

「本当に?それだけ?」

「本当だってば」

「———王子様は真面目なんだな」

頬に柔らかなものが触れた。

「…っ」

「他の男に触れられた事は?」

「ないわよ…」

「良かった」

顎に指先がかかり、顔を引き上げられ———

「間に合った」

深い黒い瞳が視界いっぱいに広がる。


「———ん…」

抗議の声をあげようにも唇を塞がれ———強く抱きすくめられて身体を動かす事も出来ない。


「…貴女に会いに来なかった…もう一つの理由」

ようやく離れた唇から吐息混じりの言葉が零れる。

「会ったら…自制できなくなるから」

もう一度———今度は優しく口づけされる。

ラウルの唇は頬、耳へと移動し、軽く耳朶に噛みついた。

「…っ…ラウル!」

「公女様にこれ以上はしないよ。俺の今の立場もあるし」

もう充分色々されているんですけれど。

「でもキスまではさせてね」

「…人の気持ち無視して…」

「フローラ様の気持ち?好きな人がいるの?」

「いないけど…あなたの事だって…」

十八年振りに会った、子供のように可愛がっていた弟子にいきなりこんな風に迫られて…この身体で初めてのキスを奪われて。

「じゃあこれから意識して。今は俺の方がずっと歳上なんだし」

「…断りもなくキスする人とは…」

思い出してラウルの顔を見た。

「…ねえ、前の私が寝ている時にキスしたって…どこへ…」

「もちろんここに決まってるでしょ」

また唇にキスをされる。

「———幾つの時に…」

「最初は六歳だったかなあ」

六歳!?

「…あなたって子は…」

「気がつかない貴女が悪い」

「……」

それは否定できないけれど。

「———二回の初めてのキスを同じ相手に奪われるとか…」

「え、本当に?」

あ、喜ばせてしまった…。

「嬉しいなあ」

本当に嬉しそうに顔を綻ばせると、ラウルはまた私を抱きしめた。


「ねえフローラ様。今日は泊まっていっていい?」

「ダメに決まっているでしょ」

「明日は森を調べたいんだよね」

「森を?」

「森の奥の、封印の場所まで行きたいんだ」


「え…」

私はラウルを見上げた。

「何をしに…?」

「この森にどれくらいの魔物が封印されているかの調査だよ」

「やめて…危ないわそんな事」

あの場所は私ですら近寄らないのに。

「俺こう見えても魔導師として相当強いよ?」

「そういう問題じゃないわ」

「貴女の呪いを解くのに必要なんだよ」

「だからって…あなたを危険な目に合わせてまで私は呪いを解きたいとは…」

「そういう考えはダメ」

ラウルのキスが私のこめかみに落ちる。

「行くなと言われても勝手に行くからね」

「じゃあ私も一緒に行くわ」

「大丈夫だよ俺一人で…」

「———私のために誰かが知らない所で危険な目に合うのは嫌なの」

思わずラウルの裾を強く掴む。

———お師匠様はそのせいで死んでしまったのだ。

弟子であったラウルまで同じ目にあったら私は……


「…じゃあ明日一緒に行くから。今日は泊めてね」

あ———


結局この日ラウルは泊まっていく事になった。

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