08 所詮は金なのだ

 掃除をしようと決まり、途方に暮れるナナ。

 といっても、流石にこの汚さは元の世界で一人暮らし暦が多分長かった私にも手に余る。

 ホウキすらないし。


 顔も服も真っ黒の私がとりあえず外へ出る。

 近くに居た子供たちが指を差して笑っている。

 手招きをすると、一人の男の子が近くに寄ってきた。


「なんだよ」

「君たち暇?」

「ちょっと仕事しない?」


 私は金貨を一枚見せびらかせる。

 子供たちは、すげーとか本物? とか色々言っている。


「な、なんだよ。知らない人にお金貰ったらダメって」

「ナナは知ってる?」

「最近引っ越してきた錬金術師のねーちゃんだろ、知ってる。

 でも、かーちゃんから、れんきんじゅつしってのはへんじんだから、あんまり関わるなって」

「そ、そう……。でも、仕事なら別よね」


 と、いう事で私は子供たちに仕事を頼んだ。

 まず、親の承諾。

 これは数人の子がやると言えば大丈夫だろう、内容は雑用なのも伝えた。


 許可を得てきた子供たちに一人銀貨三枚で仕事をしてもらう事に決定した。

 汚れた衣服を洗濯する仕事、空き瓶を洗う仕事、新しい衣服を買ってくる仕事、ゴミを持っていく仕事、掃除道具を買う仕事などなどだ。


 力仕事は男の子に、洗濯や衣服は女の子に頼んだ。

 その間に私とナナは工房内の要る要らない物を別ける。


 数時間後にはすっかり綺麗になった工房が出来あがり、私は最後の子供に仕事代を払う。

 扉が閉まると二階から新しい衣服に着替えたナナが下りてきた。

 私の顔を見ると申し訳なさそうに、今日何度目かの頭を下げる。


「何から何まですみません」

「いいのよ」

「あの、今日エルンさんが使ったお金は絶対に返しますのでっ!」


 私は手をひらひらとさせて断る。

 使ったお金は金貨にして七枚、結構な額である。

 いや、金貨七枚ですんで良かったというべきか、気づいたら子供たちが数十人ぐらいいたような。


「工房代として支払うつもりで居たし別にいいわよ」

「すみません……」

「じゃぁ仕事の話しましょうか」

「はいっ」


 私のほしい物は『魔よけの香』を強力にした『もっと魔よけの香』だ。

 錬金術レベルは初級でも作れるはず。

 ただレシピは一般公開されておらず、魔よけの香のベースに色々突っ込んだナナのオリジナル。


 ナナには悪いけど、一個ぐらいレシピ貰っても平気よね。

 材料は水の中和剤、金のスライム球に水のスライム球とにんにく、におい草、アルタナの水などなど、それを四日煮込み薄めれば完成だ。

 私が泊り込みでしたいとも思わないので、調合もナナに任せる。


 私が材料を言うと、ナナは口を半開きにして私をみている。


「な、なに?」

「いえ、す、すごいです。

 私エルンさんは錬金術師に興味ないんだって思ってました。

 学園も面白半分で入るだけと、それなのに、凄く勉強している」


 勉強もなにも、ゲームの知識だけだ。

 それも細かい所はうろ覚えだし、学園もリュートと一緒に居る為に面白半分で入ったのも間違いない。


「全く持って前半の部分その通りよ。このレシピも偶然しっただけだし、さほど錬金術師に興味あるわけじゃないわよ?」

「あ、あの質問いいですか?」


 私がいいわよという前に質問をしてくる。


「千年樹のりんごはどこで取れるんですか?」

「千年樹のりんごねぇ。文字通り遠くの森にある千年樹とよばれる大樹からよ、二年に一回しか実をつけないし、季節は十二月二十五日の一夜だけ。

 枝から採った分が消えずに残り、残りは一晩で消えるって話」

「じゃぁ、金の中和剤の作り方を教えてください」

「金の中和剤ね、火の中和剤と同じで鉱石から作るけど、他のと比べて日数がかかるわ。

 粉末にした物にアルタナ湖の水を加えていけばできるとおもうわよ、少量なら道具屋で買ったほうがいいわね、高いけど」


 他にも初歩的なレシピの作り方を聞かれた。

 覚えている物には答え、忘れた奴は知らないと答えていく。

 全てが終わると、ナナは大きな声をだした。


「勿体無いです! 私もっとエルンさんに教わりたいです。

 私小さい頃から何をしてもだめで、そんな中ミーナさんに会ったんです!」


 ミーナとは前作の主人公で、ディーオの話によれば錬金術師より冒険者になった人だ。

 ナナの熱弁は止まらない。


「ミーナさんは私に『何でもなれる可能性、それが錬金術師よ』と教えてくれたんです」


 ナナは何にでもなれるでしょうね。

 複数のENDあるし。


「それにせっかく友達になったのに……」


 私は頬杖ついて聞いていたが思わず手がすべる。


「え、友達って」

「違うんですか?」


 主人公補正というのか、この可愛らしい顔で言われると断りきれない私がいる。


「私、ナナをいじめていたわよ?」

「それは……、いえリュートさんにぶつかった私も悪いです……。

 それに、私が嫌いだったら今日だってこんなに助けてくれません」

「それはほら、目的の物が欲しいからよ」


 コンコンと扉がノックされる。


 私もナナも扉のほうへ顔を向けた。


「ああ、きっと私の所のメイドのノエね。

 夕方様子見に来てって言ったのよ」


 玄関までは私の座っているほうが近い。

 話を切るのに丁度いい、自然な流れで私が扉を開ける。


「お疲れ様ノ……エ……?」

「やぁナナ、頼んでいた物は出来……」


 私と相手は固まった。

 綺麗に振ったはずのリュートが目の前に立っているからだ。


「エルン……なんでここに。

 まさか、ナナに酷い事をしに」


 イラ、私がそんな人間に見えるとでも、見えるわよね。

 なるべく顔に出さないように答える。


「調合の依頼よ。リュート、彼方こそなんでここに来たのよ」

「俺も彼女に用があるから来ただけだよ。

 その、君が教えてくれた薬。調合しようにも俺じゃどうしようもないから」


 ああ、確かに。


「おじょうさまー、ご様子をうかがいに……リュート様っ!?」


 リュートの後ろからノエが小走りに走ってきた。

 いいタイミングに来てくれた、悪役錬金術師は華麗に帰るわよ。


「じゃ、ナナ。薬のほうだけど四日後に取りに来るから、ノエ馬車まで案内して」

「はいっこちらですおじょうさま」


 馬車なぞ用意はしてないだろうけど、ノエは空気を読んで私の前へと走り出す。

 いい子すぎる。


 背後でナナが待ってくださいっ! と叫んでから転んだ音が聞こえた。

 後ろを振り返ると、リュートが走っていったので、大丈夫だろう。


 そうよね、友達になりませんかって言われてちょっと浮かれたけど。元カレの恋人に友達になりませんかって、どうなのよ……。

 ここは優雅に去るのが一番でしょう。

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