06 自称天才錬金術師のありがたいお言葉を日記帳へ書く
待てといわれて学園内のカフェに居る事にした。
以前の私なら、下民にまざって待つなど以ての外と思ったんだろうなと、思いつつ肘を付いて周りを見る。
私の隣にはメイド姿のノエが緊張した顔で立っている。
「ねぇノエ?」
「はい、なんでしょうおじょうさま!」
「座ったら?」
「い、いいえっ! 立ってます」
「そう、何度も言うけど疲れたら座ってね、…………席余っているし」
私は客が一人も居ないカフェでノエに返事をした。
学園内に身分の上下はない。
あるとすれば、教師と生徒の差である。が基本な学校である。
外の階級は表向きは持ち込まない事が決まり。
様々な科の生徒達が賑わうカフェは、私が入るとそれまで賑わっていたのに、一斉に帰っていった。
露骨すぎる。
店員さえもカウンターに居ない。
厨房にでもいるんだろう。
扉が開くと、客が来たというベルがなる、さっきまでは客である学生は私の姿をとらえると、回れ右して帰っていくのくり返し。
今来た客は帰らずに私の座っている席まで歩いてきた。
横目でみると、胡散臭い格好をしたディーオである。
「昼過ぎというのにガラガラだな」
「ええ、なぜか私の顔を見ると皆様用事を思い出したのかお帰りになるので」
わざと嫌味たっぷりで答える。
気にした様子も無いディーオは私の向かいに座った。
「さきほどの受付での事といい、お前の我侭は有名だからな、だから今年の担任は天才のボクになった」
「なんでディーオ先生が?」
「天才であるボクは、貴族のクソみたいな嫌がらせは何とも思わないからな」
「まるで、私がクソみたいな嫌がらせをするような人みたいに聞こえますね」
私の答えに、口を開いて閉じるディーオ。
その目は違うのか? と私を見ている。
その質問には答えない。
一ついえることは、今後はしないと心に誓う。
「所で、態々私へ嫌味をいいに来たんですか?」
「そこまで暇じゃないんでな。約束の紹介状だ明日の昼は工房にいるらしい」
一枚の紙をテーブルの上へと置いた。
紙には住所が書かれていたので、そのままノエへと手渡した。
馬車に行き先を告げるのが彼女だし。
「さすが、仕事が速い。あっ」
「なんだ?」
「手土産とかいる? ディーオ先生の知り合いなのよね」
「エルン君から手土産を貰ったら相手は困るだろうな」
「どういう意味だ」
思わず聞いていた。
「なに、食べ物なら毒でも入っているかと思われるし、高価な物だったらお返しに十倍の値段の物を出さなくてはいけないからな」
「どういう意味かしらっ!?」
もう一度同じ言葉を言うと、ディーオの口元が小さく開き、これまた小さく笑う。
何か珍しい物でも見れた感じで思わず怒りがどこかへ消えた。
「先方には、工房を使いたい生徒が行くとしか伝えてない。
調合も任せていいなら、三枚ほど金貨を渡せ。
それ以外のいらぬ気は回さなくていいだろう。
さて、ボクはもう行く」
本当に私に会うだけだったのか、席を立つ。
「え、もういくの? 飲み物ぐらい飲んでいけば行けばいいのに、奢るわよ」
「遠慮しておこう。君が立派な錬金術師になるのを祈っているよ。
いや、まずは卒業できる事を祈っているよ」
一言余計な事を言うとさっさとカフェから出て行った。
錬金術師かぁ……。
別になりたくて入ったわけじゃないのよね、リュートと一緒に過ごすために入った科だし。
そういう意味では入りたくて入った事になるのかしら。
◇◇◇
あれから学園にもう用事はないので、ノエと一緒に家へと帰った。
今日の晩御飯はシチューである。
今日も一人寂しく食べ終わると、ノエに先に寝るからねと伝えて寝室へ入る。
鍵の付いた引き出しから日記帳を出すと私はペンを走らせる。
ちなみに羽ペンだ。
今日の出来事と、シチューの味そして、今の心境を書きなぐる。
日本の味が恋しいといえば恋しいけど、帰りたい気持ちは二割程度だ。
もし、崖から落ちた時に死んでいたとすれば。
その前だったら戻ったら海の中。
運よく助かっていても、据え膳上げ膳の今のような生活ではなくなるからだ。
友人や家族に関しては霧がかかったように思い出せないのも、あまり帰りたくならない事に繋がっている。
どっちの世界でも友達というのが居ないのなら、楽して暮らせるほうがいい。
ただ、顔も思い出せない弟だけはちょっときになる。
命までかけて祈願したんだから、絶対受かってないとおねえちゃん呪うからね。
日記帳を閉じると、引き出しにしまい鍵をかけた。
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