13.手土産は必須ですか

 全員揃ったので、改めて領地に向けて移動開始です。じいやも侍女達もゆっくり休めたので、馬車に乗り込む足取りは軽く見えました。当然ながら、私はシリルに跨っての移動となります。愛馬はじいやの馬車に預けました。


「私に乗れば早いのに」


 翼ある狼であるフィリスが不満そうに訴える。確かに彼女に乗れば数時間で実家に着きますが、迎えに来てくれた叔父様やお兄様達を置いていくことになります。何より、合流した使用人を置き去りにするのは良くありませんわ。


「ここから先は皆と一緒がいいの。もちろん、フィリスやノエル、シリル、パールも一緒よ」


 名を呼びながら順番に頭を撫でる。この為だけに小型化した聖獣達は、嬉しそうに喉を鳴らしたり表情を緩めた。こうしていたら、ただの愛玩動物よね。一匹で国を滅ぼすと言われる聖獣とは思えないわ。白狐の柔らかい毛並みを堪能していると、駆け出すシリルが先頭をきる。


「アマンダ、いろいろありがとう! すぐにまた来るわ」


「礼なら果物がいい」


「うふふ、今年は豊作だから期待してね」


 すでにお母様が手配してるでしょうけれど。手を振って門を出たら、ここからは気を張っていないとね。ウォレスからエインズワースの間は、魔物が出る。商人達も退治出来る装備や人員を揃えて往来する危険な地域だった。


「あ、グリフォンだ」


 フィリスが一声鳴いて飛び立つ。追い払うのではなく、捕まえに行ったのだ。グリフォンの羽毛は冬の寝具として人気が高い上、肉も良質だった。土産にするつもりだろう。白い羽を羽ばたかせた彼女を見送り、パールがぐるりと頭上を回る。


「忙しないわね。あら……美味しそう」


 人のことを言えないパールも、何かを見つけて方向転換した。目で追った先で、美しい毛色の斑兎を捕獲する。裕福な女性達憧れの毛皮だった。兎と呼ばれるが牛ほどの大きさで、突進されると騎士団も翻弄される危険な魔物だ。それをあっさりと二匹も捕まえ、意気揚々と戻ってきた。


「お疲れ様、馬車に乗るかしら」


 じいやが私の馬に乗り、空になった馬車に兎を乗せようとするが無理だった。明らかに重量オーバーだ。


「仕方ないわね。私が運ぶわ」


 鼻歌混じりに両足で兎を掴み、巨大な鳥は尾羽を揺らして飛んでいった。フィリスも無事グリフォンを捕らえたらしく、同じように領地へ一直線だ。もしかしたら置いて戻ってくる気かしら。


「パールもフィリスも落ち着きがない」


 ふんと鼻を鳴らすノエルは、しっかり小型化して馬車で休んでいた。歩く気はないみたい。そういえば、来る時もフィリスの背を利用したのよね。猫だからこれで普通なのかも。好戦的で強い敵が現れると飛び掛かるノエルだが、普段は寝ているばかりで動かない。


「ノエルは何か捕まえないの?」


「そんな子どもみたいなこと、しないよ」


 偉そうにそう言ったくせに、一時間もしないうちに珍しい虹色蛇を捕まえた。馬車の二倍近い蛇と格闘する姿は、ちょっと……引いたわね。ちなみにこの蛇のなめし革は、靴やバッグにすると人気があるの。


「僕も何か捕まえないと」


 焦るシリルの首筋を撫でて声をかける。私を乗せてるんだから、狩りは無理でしょ? 納得してないみたいだけど、私は毛皮に包まれるこの移動時間が幸せなのにね。

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