第一章 VS ヒグマ バトル! 05
「今よ!奥義!心臓抜き!!」
その瞬間、にゅんよの体が蜃気楼のように揺らいだ。そのまま、鉛玉の左胸に飛び込む。
「なっ!」鉛玉は反応できない。瞬間的に膨張したにゅんよの野生に圧倒され、立ちすくんでしまったのだ。
この死合い、一瞬でも気を抜くことはできない。そんな中で、鉛玉は動きを封じられた。
次に鉛玉が見たのは、にゅんよが何か赤黒いものを右手に持っている姿だった。
「お、お前が手にしているのは…。」
拍動しているそれを見ながら、鉛玉はどうにか声を絞り出した。体に力が入らない。
「ふふ、あなたの、とても、とても大切なものよ。そう、あなたの心臓。どうして生きていられるのか、不思議よね。」
勝負はついたという確信が、にゅんよを饒舌にさせた。
「古来、武道とは壊すだけにあらず。同じくらい、治すことにも研鑽を積んでいるものなのよ。私の心霊空手も然り。あなたがわたしのことを少しでも知っていれば、そしてわたしの技についての知識があれば、今何が起こっているかも理解できるのかもしれないわね。今わたしが放った技は、心霊手術に類するもの。血を出さずにあなたの内臓に干渉したの。取り出したのは心臓。まだ動いているのは、あなたとの霊的なつながりが切れていないからよ。でもこのまま放置していたら、いずれはその絆が切れるわ。もちろん、その気になればわたしが切ることもできるわよ。」
鉛玉に苦痛はない。そのことがにゅんよの技、すなわち心霊手術の技術の高さを伺わせる。
痛みではなく敗北感に身を震わせながら、鉛玉は尋ねる。「そいつを、どうするんだ?」
観念したという表情。答えるにゅんよ。
「ふふ、私の目的は…。」
勿体ぶって心臓を手のひらで弄ぶ。くるくると回転させたあと、真顔になって鉛玉に向かい合った。「これよ。」
「!!」
鉛玉の眼が、驚きに見開かれた。
拍動する自分の心臓。そこに、鉛玉の名の由来となった弾丸が食い込んでいた。
「あなたが銃で撃たれたことは知っていたわ。それからわたしの霊視で、その場所はわかっていた。だとしたらすることは決まっているわ。こう見えて、無益な殺生は好まないのよ。」
そう言うとにゅんよは、弾丸をつまみ、そっと取り出した。
「これでわたしのするべきことはおしまい。」
呆然と立ち尽くす鉛玉にの左胸に向かいジャンプする。気がつけば、にゅんよの手から心臓は消えていた。すでに体に戻したということだ。
「俺の、負けみてえだな。」
地響きのような音をたてながら鉛玉が座り込む。ここに、ハムスター対ヒグマの勝敗は決した。勝者にゅんよが悠々と立ち去る姿を、鉛玉は、しかし、晴々とした顔で見送っていた。
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