一人暮らしの理由

 まだ言葉にはしてないけれど、行動で想いを示した。



「……リア、これが俺の答えなんだよ。信じてくれ」

「大二郎。ごめんね」

「いや、俺の方こそ紛らわしい事をしてすまなかった。でも、会長とは約束だったし……誕生日を祝って貰ったからな。それだけは理解して欲しい」


「そうだね、スズさんの気持ちだもんね。それを無碍むげになんてできるはずもない」



 良かった。理解して貰えたようだ。

 そして、誤解も晴れた。

 一件落着だな。



「まあ、その会長も用事で帰っちゃったし……。せっかくだから、リア、一緒にシティタワーへ昇るか?」


「え……あの高いビル?」


「そ。あれな。眺めが最高なんだ。時間はまだ十六時だから入場も出来る」

「へえ、眺めが良さそうだね。うん、いいよ」



 リアが俺の腕にくっつく。

 よし、出発だ。



 ◆



 徒歩十分程度でシティタワーの中へ。

 エレベーターは45Fの『展望回廊』を目指していた。


 ぐんぐん上がっていくと、街並みも広がってきた。やがて海も山も広がって、市全体が見渡せるようになった。



「わぁ、凄いね、大二郎!」

「もうすぐ展望台だ」



 最上階に到着し、エレベーターを下りる。すぐに受付があって、そこで入場チケット(500円)を購入して入っていく。通路は結構、奥まで続いており徒歩十分程度でぐるっと回ってこれる。



「これが展望回廊……最高の眺めじゃん! 大二郎、ここってこんなに眺め良かったんだ」

「この位置だと弁天島もギリギリ見えるかもな」



 少し屈むリアは、俯瞰ふかん風景ふうけいを楽しむ。

 俺も釣られるように外を眺めた。



「う~ん、米粒かな」

「さすがに見えないか。リア、あんまり覗き込むと落ちるぞ」

「ガラス張りだし、大丈夫だよ~」


 とか言ってリアは、何故かコケそうになって前へ倒れそうになっていた。落下はしないが、少なくとも強化ガラスに顔面をぶつけてケガをするぞ! 俺は咄嗟とっさにリアの体を支えた。



「ほら、言わんこっちゃない」

「……あはは。この前、足捻った時の後遺症が残っていたみたい」

「おまぬけさんか」

「でも、こうして大二郎に抱っこして貰えたし、ラッキーかな」

「あ……すまん」

「いいよ、このままで。後ろから抱きしめられるの好き」



 ガラスとの衝突を避けるため、俺はリアを背後から抱いていた。まるで仲の良いイチャイチャカップル状態だ。はたから見たら、けしからん状況だろうが――俺はそれよりも、心臓がどうかなりそうだった。


 こんな景色の良い場所で……二人きりで、こんな密着して。


「…………」


 やばい、理性が吹き飛びそう……!

 思わずリアの胸に触れたりしてしまいそうなほど、俺は興奮していた。いかん、こんな所でそれはマズイ。歯止めを掛ける為にも話題を逸らす事にした。



「そういえば……まだ俺がなぜ一人暮らししようとしていたか話していなかったな」

「あー…、そっか。元々は一人暮らししようとしていたもんね」


「そうなんだよ。ぶっちゃけると、遥さんに憧れていたんだ」

「えっ、あの遥さんに?」


「ああ、あの人はね……本当に凄い人なんだ。会ったのは中学生の時だった。その時は、学校にたまたまプログラミングの授業の講師で来たんだけどね。詳しく聞くと、遥さんは高校生から一人暮らしして独立したようなんだ。で、今の会社を作った」



「す、すご! そっか、遥さんに憧れて……」

「そういう事。俺も遥さんのようになりたかったんだ。だから、あの人の下でバイトさせてもらってもいるし、あんな感じで仲も良いんだ。でも、比屋定財閥の関係者とは思わなかったけどな」


「ええ!? そうなの!?」

「ああ、らしいぜ」



 俺もさっき知ったけどな。

 そんな風に俺の『一人暮らし』秘話を話していれば、気分も落ち着いていた。……ふぅ、良かった。危うくリアを襲っちまうところだった。

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