第33話 異常事態

(なにはともあれ、魔力は手に入れた!)


俺は、分身達の中にいるオリジナルのメイラを睨み付ける。


(メイラ…、ここにいるサクタロウ達を守るためにも、俺はお前を倒さなければならない!女の子に手を上げる様なことをするのは心苦しいが、仕方がな—)


「ふへへ…、良いもの見ちゃったよ。帰ったら、自作小説のネタに使おうっと。タイトルは、『東の島国で男愛に堕ちるアウロラ』」


(…………。)


…うん。やばい自作小説を書かれる前に、なんとしてもここで倒さねば。


(…よし!)


戦う覚悟を決めて拳をグッと握りしめる。


煙の様に静かにユラユラと揺れていた漆黒の魔力が、猛火の如く激しく揺らめく。


(おお、行くぞー!)


握りこんだ手を解放し、


「ハァアーーーーッ!!!」


気合を発するとともに、掌をメイラに向けた。


「っ!!」


「っ!!?」


「こ、これは…!?」


すると、


俺の手からなんかすごいものが出て、上空へと向かい、


メイラ達に直撃して、あーしてこーして、


そんで、なんやかんやで敵を倒す…——



—はずだった!!



「…何をやっちょるんじゃ?リオンさん」


実際には、


俺は大声で気合を発して空中に掌を向けたまま突っ立ってただけで、掌からは何も出てないし、何も起きていなかった。


(あ…あれええ~~!?)


魔法が発動しない、なぜだ?


漆黒の魔力が溢れる自身の手を見る。


(なんで何も起きないんだ!?)


バトル漫画みたいに、気合いでエネルギー波的なものとか出てくるもんじゃないのか?


(やり方の問題か?よし、とりあえず…)


リオンの脳内記憶を検索だ。


わからないことは検索する、これぞ現代人の基本!


(魔法…リオンの魔法…っと、あったこれかな)


それらしき記憶を見つける。


しかし…


(なんか変なもやで見れないんですけどおお!?)


文字通り、頭の中が靄がかっているのである。


(閲覧規制でもかけてんのか!?ええい、他の記憶はどうだ!)


諦めずにリオンの脳内記憶の検索を続ける。


『 魔法  使い方  初心者 』


で脳内に検索エンジンかけてるけど、


やはりなぜか魔法の使い方に関する記憶がうまく見れない。


(もしかして、俺がリオンの記憶をまだ完全に見れる状態じゃないからか!?)


辛うじてリオンが魔法を使ってる僅かな記憶は見れるのだが、所々ぼやけて何となくしか見れん。


(なんかすごそうな力なのは、わかるんだが)


発動方法がわからん。


せっかく魔力があるのに、魔法の使い方がわからないという困った事態になるとは。


(困った…やべ、どうしよう)


死んだ魚の様な目で途方に暮れて動かずにいると、


「あれ、リオンの手から出てるのって……魔力だよね!?」


(やばい、メイラにバレた!)


「ハッ!もしかして、さっきサクタロウ達が抱きついていたのは、魔力を送るため!?」


(ちっ、気付いたか!)


「愛し合う男と男の熱い抱擁シーンと見せかけて、私の純真な心を利用してあざむくなんて…」


(純…真…?)


ってなんだっけ?


「ゆ゛る゛さ゛ん゛!!」


(ガチギレですやん)


「ふぁ~わわっ、敵に魔力を復活させる機会チャンスを与えてしまうとは…、私の阿呆ッ!」


(まったくだ。意外と阿呆で助かったよ)


「くっ、まさかリオンが男たちに抱きつかれて元気になるなんて…ッ」


(おいコラッ、嫌な言い方すんじゃねえよ!)


状況的に間違ってはいないけど、違う。


「ええいっ、とにかく!分身達との総攻撃でリオンを倒すよ!」


メイラと分身達の杖が一斉に俺へと向けられる。


(やばい! くそ、どうする!?)


「リオンさん、じっとしてどうしたんじゃ!?メイラの攻撃が来るぜよ!」


ほとんどの魔力を使い果たしてぐったりとうつぶせに倒れていたサクタロウが、ガバっと顔を上げる。


俺は顔だけで振り返りって小声でボソっと聞いてみる。


「…サクタロウ、魔法ってどうやって出すの?」


「な、なにいいいいい!?」


俺の質問に、絶望的な顔で固まるサクタロウ。


すまんな、異世界ビギナーなもので…。


同じくへとへとで伏していた家老達は、俺の声が聞き取れなかったものの、良くない事態が起きているのだと感じ取り、怪訝な顔を上げる。


「そんなの、魔力をもわあ~っとで、魔法をドーン!じゃ」


「わかるか!」


抽象的すぎるわ。


(初心者にもわかりやすく論理的にだな…)


と、レクチャーを受けてる時間はなさそうだ。


メイラと分身達の杖の頭が光り出し、各々の前に魔法円を出現させる。


今にも魔法の総攻撃が来そうだ。


「今度ばかりは、もうだめじゃ~!万策尽きたぜよ」


頭を抱えて項垂れるサクタロウ。


メイラ達の呪文の詠唱が終わり、彼女たち前に出現した魔法円が更に強く光る。


その一つ一つの光の強さから、今までよりも魔力を込めて威力を上げた攻撃が来る事を予感させる。


「そうだ!サクタロウ、もう一度俺に抱き着け!そうすれば、あのアホ…メイラは攻撃を止めるかもしれない。」


ここで全滅を免れるためだ。また地獄を味わうが背に腹は代えられん!


(さあ、こいやあ!)


「いや、むさくるしい男に二度も抱き着くのはちょっと…」


(いまさら何言ってんだ!?俺だって嫌だよ!)


「ふぁっ!?わ、私をなめるな!も、もう同じ手には引っかからないよ!」


(ちっ、だめか)


微妙にいけそうな気がするんだがな。


「こ、これ以上あいつらが何かする前に…、私の分身達!全力で一斉に攻撃するよ!」


(やばいやばいやばい! マジでどうする!?)


「消し炭にしてあげるよ、リオン!」


(ああ、こりゃまじで…終わった)


せっかく魔力を手に入れたのに、何もできないままやられてしまうのか…―




【…ふん、情けない奴だ。 退け、俺がやる】


(え?)




「いくよ、私の分身達! 撃てーーっ!!」


メイラの号令により、ジャホン国の町の上空に描かれた多数の魔法円から多彩な魔法攻撃が一気に放たれる。


「わああああ、来たぜよ!!」


『ぎゃああああああ!!』


完璧に避ける隙間もない攻撃魔法の弾幕に叫び声を上げる家老達。


無数の炎の短剣や雷の槍、光の鎖の他、まだ見た事もない数々の魔法による色とりどりの派手な空襲が俺達の目の前一面に広がって降り注ぐ。


成す術も無く、ただ蹂躙されるその瞬間を待つだけかと思いっていると、


一瞬にして視界が暗転した。


(…へ?)


派手な魔法攻撃の弾幕が襲いかかるという最悪の景色が暗闇に塗り替えられ、視界が黒一色へと変わる。


(もしかして、俺死んだ?)


と思ったが、次の瞬間にはそうでないと理解する。


霧が晴れていく様に暗闇が明けると、


(—っ!!?)


俺達どころか町ごと一掃しかねないメイラ達の攻撃魔法が、全て無くなっていた。


(…わ、 WHAT THE F〇CK!?)


一体全体何がどうなったのか。


まるで、まぶたをほんの少し閉じて開いたら、そこにあったすべて物が一瞬にして消え去ったかの様であった。


「何が、起きたんじゃ…」


「た、助かったのか…?」


サクタロウと家老達も困惑し、


「ぁ…っ、ああ…あの魔法は」


メイラは、驚きと恐れを含んだ顔になっていた。


「なんか知らんが、すごいぜよ!やればできるじゃないか、リオンさん!」


サクタロウは立ち上がると、そう言って俺の肩に軽く手をかけてきた。


すると、


「…人間、誰に口を聞いてるつもりだ?」


「へ?」


(…ゑ?)


俺の意思とは関係なく、口が動いた。


「俺に気安く触るな」


ギロリと怒気を含んで一層鋭くなった俺の眼が、サクタロウに向けられる。


「は、はいぃ!!」


パッと肩から手を離し、急いで数歩後ずさるサクタロウ。


(…えっと)


俺の口と眼が、勝手に動いてるんですけど。


「…ふん。」


サクタロウから視線を離した俺の眼は、次に漆黒の魔力が出ている自分の手に視線を移す。


(いやいやいや、怖いわーー!!)


どうなってんの?俺の体。


(俺の口は勝手にしゃべるし、俺の眼は勝手にガン飛ばすし、無言で自分の手をジッと見てるしぃ!?)


この世界で散々怖い目にあってきたが、自分の体が勝手に動くのはホラー展開すぎるだろ。


混乱したまま慌てて自分の意思で自分の体を動かそうとするが、


(あれ、あれ!?)


体の感覚がない。


気付けば、精神と体の繋がりが無くなり、意識が虚空の中をフワフワと浮かんでるような不思議な感じだ。


だが視点だけそのままで、まるで自分の体の中でテレビ画面を見てる様な異様な状態である。


俺の体は変わらず自分の手をじっと見たまま動かない。


(鬱病のサラリーマンじゃあるまいし、いつまで無言で手を見てやがるんだ!動け、動け動け、動いてよぅ!)


…だめだ。


コイツ…、動かないぞ。


(どうしたものか…)



「…相変わらずうるさい奴だ。初めに会った時、常に冷静で 何があろうと動じるなと、言ったはずだ」


(…え?)


小声でしゃべる俺の口。


それは、俺に対して語り掛けているのだとわかった。


「こうも言ったはずだ。『常に構えず自然体で構えろ』それが俺のモットーだとな」


武術の達人かよ。


(…って、その頓智とんちみたいなモットーは…、ちょっと待て、お前まさかっ!?)


俺はようやく、今俺の体に起きている異常事態を理解する。


「…さて」


そう呟くと、


俺の目は自分の手から、上空に浮かぶメイラへと視線を移す。


「ひ…っ!」


短い悲鳴を上げて、杖にしがみつくメイラ。


刃物を突き付けられたかの様な鋭い視線に含まれた殺気を感じ取り、小さな体をガタガタと震わせる。


俺の体から厳然な気配が醸し出され、その場にいる者全員に底無しの深みと重苦しくなるような威圧感を与えていた。


「……っ!」


俺の体が纏う異様な雰囲気からサクタロウは俺の変化を察し、


「あわわ…」

「わわ…」

「わわあ~…」


家老達はその場の空気に抑えつかられているような言い知れない重圧感で固まり、


カラカサ君にいたっては、長い体を真っすぐにしてこうべを垂れていた。


「相手は、『100年に一人の天才』と謳われた西の国の魔導士の小娘か。」


俺……いや、


この体のはそう呟いて胸の前で腕を組むと、


威厳と風格を感じさせる低い声で、例のあのセリフを言い放つ。



「…ふん、くだらん。」



(リ、リオン本人やないかーーい!!)


まさかの、【終焉の王 リオン・アウローラ】ご本人の登場であった。
























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