第14話 勇者
超巨大大陸【パンゲラ大陸】。
4つの国に別れ、それぞれを
東の国【シラーン国】
南の国【ナンダーロ国】
北の国【ドコーダ国】
西の国【ダレーダ国】
という。
―東の国【シラーン国】―
都の中央にはどっしりと大きく、摩天楼の如く高く巨大な城があり、その城の主の権力と地位に揺るぎは無いと言わんばかりに、周囲にその存在感を示す様に建っていた。
その城の主である【東の王】は、高い位置にある玉座から謁見に訪れた【勇者】とその仲間二人を見下ろしていた。
勇者が通例の挨拶を終えると、東の王は不満そうな顔で勇者に語りかける。
「…勇者よ。 王であるワシを前にしているのだ。 頭の物を外したらどうかね。」
鎧兜で顔が隠れた勇者の頭部を指差す。
「あっ、これは失礼致しました。」
(何をやってんすか…。)
自身の失態に気づき、いそいそと頭の兜を外す勇者を、横で仲間の一人【ブライン】が内心つっこむ。
「よい、しょっ。」
勇者は兜を外すと、中に収まっていた長い髪を下ろして靡かせた。
「…ほう。」
勇者の素顔を見た東の王が息を呑む。
「失礼致しました。 どうかご無礼を御許しください。 長い旅路で少し疲れてぼーっとしていたので。」
勇者【ヘレナ・クリサライト】は、はにかんでそう言い、頭を下げて謝罪する。
(王様に挨拶するのに、ぼーっとしていたって言うのもどうかと思うんすけど…)
言い訳とも取れるヘレナの謝罪に、ハラハラするブラインであったが、
「‥おほん。 まあ、我が国の要請に応え、遠い西の国から遥々ここ東の国に来たのだ。 疲れていたのなら、しょうがないな。うむ。」
(いいんすかい!)
ブラインの心配も空しく、素顔を見せたヘレナに頬を赤らめた東の王は寛大な心で許したのであった。
「さすがヘレナさん。 」
ヘレナのもう一人の仲間、
小柄な体に似合わない大きなローブを身に纏い、眠そうな顔をした女性【メイラ】が、ぼそっと感心した様に言う。
「王をも虜にする美貌の持ち主、まさに魔性の女。」
「それ、勇者に言う台詞じゃないすよね?」
その魔性の女(勇者)は、二人にドヤァと勝ち誇った顔をして見せる。
「いや、ドヤァじゃないすよ!」
「おほんっ!」
東の王が、わざとらしく咳払いをする。
ヘレナ達三人は何事もなかったかの様に、改めて姿勢を正す。
「まあ、遥々本当によく来てくれた。 まさか、あの勇者が、こんな美しい女性だったとは思わなかったがな。」
「…恐縮です。」
「これでようやくジャホン国の魔王軍と戦うための兵が揃った。 我が【東の国の人間軍】と【勇者一行】、力を合わせればジャホン国の魔王軍を倒すことができるだろう。」
そう言うと東の王は、視線をヘレナ達から自分の隣に立つ人物へ移す。
「我が軍の準備は出来てるであろうな?レシンよ。」
「はい。 我が軍はいつでもジャホン国へ攻める入る用意は出来ております。」
レシンと呼ばれた人物が、落ち着いた様子で王に応える。
レシンの返答に満足した王はうなずくと、再びヘレナ達の方を向く。
「紹介しよう、。 彼は、【レシン】。我が東の国最強の武人だ。」
「よろしく、勇者とその仲間よ。」
レシンは軽く頭を下げて挨拶をするが、その眼は頭を下げている間も真っ直ぐヘレナ達に向けられていた。
(隙がない。 なるほど、これが噂の『二の打ち要らず』と言われる東の国最強の武人…)
一目でレシンの強さを理解するヘレナ。
「さて、互いの紹介も済んだことだ。 早速ジャホン国をどう攻めるかの話をしようではないか。」
「その前に我が王よ、一つお知らせしたいことがあるのですが。」
「…なんだ?」
「ジャホン国にいる私の間者によると、今ジャホン国には、【ヒミカ】の他にもう一人、魔王軍幹部がいるとのこと。」
「なんだと!?」
『…………っ!?』
レシンの情報に、東の王とヘレナ達が驚く。
「世界中で散らばって動いているはずの魔王軍幹部が一ヶ所に二人もいるなんて、 めずらしい事だよね。」
メイラが、眠そうな顔のまま意外そうに言う。
「誰だ、そのもう一人の幹部は!?」
東の王が椅子から身を乗り出さんばかりに、レシンに詰め寄る。
「終焉の王 リオン・アウローラです。」
「なっ!?」
『え!?』
東の王とヘレナ達がさっきよりも大きく驚く。
「あの三傑の一人か…ッ」
「…マジすか」
「かなりめんどくさい事になったね。」
東の王、ブライン、メイラがそれぞれの反応を示す中、
「……そう、やっぱり…」
ヘレナは、俯いて呟く。
「どうされます? 我が王よ。 如何に勇者一行が協力するとはいえ、魔王軍幹部二人を相手にするのは厳しいのではないかと。」
レシンが、その言葉とは裏腹に落ち着いた様子で東の王に問う。
「う、う~む…」
魔王軍の幹部と同等の強さを持つと言われる勇者と自軍が協力すれば、魔王軍幹部の一人であるヒミカとその配下の魔族を倒しせると踏んでいた東の王。
(魔王軍のいなくなったジャホン国を、再び我が東の国の手中に治めようと考えていたが…)
予想以上の強力な敵の増援に意志が揺らいだ。
(相手は、魔王軍幹部二人。【龍蛇の女王 ヒミカ】と【終焉の王 リオン】…)
人間軍を震え上がらせる二体の魔王軍幹部の通り名を浮かべる。
(今行っても、無駄に兵を失うだけだ。 そうなれば、東の国の弱体化に繋がり、 魔王軍だけでなく、他の国にもこの国を攻める隙を与えかねん。)
人間軍と魔王軍の戦いの真っ只中。しかし、東西南北の大国は常に緊張状態にあり、魔王軍と戦いながらも、他の国を警戒しなくてはならない。
(西の国が勇者を送り込んでくれたが、あくまで魔王軍を倒すまでの話。その後、パワーバランスによっては、西の国が東の国とジャホン国を取り来る可能性だってある。)
何にせよ、予想外の出来事に判断を誤っては後でこちらが損する。
そう考え、ジャホン国攻めを止めると東の王が言おとした時—
「お待ちください!」
ヘレナの声が響く。
「な、なんだ?」
度肝を抜かれた東の王。
「…そうなるすよね~」
「まあ、そうだね。」
はあ~…と、どこか諦めたかの様なブラインとメイラ。
レシンは何の反応も見せず、ただ黙って声の主である勇者を見ていた。
「敵の幹部が増えようと、何も問題はありません!」
ヘレナが強く言い放つ。
「問題ないって、そんなわけ―」
「西の国からは、勇者である私とその仲間、そして優秀な『騎士の一団』を連れて参りました。」
勇者の仲間であるブラインとメイラの二人とは別に、ヘレナ達に同行した西の国の騎士達。
勇者ヘレナが団長として率いる対魔族の戦闘の部隊である。
「東の国には、最強の武人であるレシン殿と、東の国の人間軍。私達が協力すれば、戦力としては申し分ないはずです。 寧ろ、今こそ魔王軍の戦力を一気に削る好機ではないでしょうか?」
力強い声で王を説得するヘレナ。
「あぁ~、こうなったら相手が首を縦に振るまで終わらないすよ。」
「恐れ知らずの頑固ものだもんね、ヘレナさん。」
ブラインとメイラがやれやれと溜め息混じりに話す。
「しかし勇者よ、魔王軍幹部二人を相手にするとなれば我が軍の損失はかなりのものに…それに、お前達もただでは—」
「大丈夫です!」
「えっ、え?」
王の言葉を遮るヘレナ一言に、王がたじろぐ。
「魔王軍幹部二人は、私が一人で相手します!」
ふんっと胸を張って力強く言うヘレナ。
『いや、いくら何でも一人では無理がある!!』
それに、仲間の二人がつっこむ。
「え、え、… 頑張るよ?」
「頑張るって問題じゃないすよ!?」
「美人な見かけに反して、脳ミソ筋肉なのですか?」
「え~~!?」
仲間二人に詰め寄られ、不満そうに口をへの字にするヘレナ。
「…………………。」
その様子をげんなりした顔で見る東の王。
「だ、大丈夫なのか?本当に」
別の意味で、不安を覚える東の王。
「我が王よ。」
黙って成り行きを見ていたレシンが口を開く。
「勇者の言う通り、これは、魔王軍幹部を二人も倒す好機かもしれません。それも、あの三傑の一人を倒したとなれば、この戦争における我が国の功績は大きい。そうなれば、他国からも一目置かれる事でしょう。」
「そうかも知れんが、この国の兵を多く失っては、国の弱体化に―」
「それも心配には、及びません。」
レシンは顔を王の耳元まで近づけると、声を落として言う。
「 魔族を倒した後、ジャンホン国の民を全て我が国の兵にすれば良いのです。」
「…確かにそうだな。 兵の補充はあるわけだ。」
王はレシンの提案を聞き、呟く。
(ジャホン国を手に入れたら、もともとそのつもりだったが、はたして勝算はあるのか…)
「何の内緒話か知りませんが」
ヘレナ達には聞こえない様にボソボソと話し合う王とレシンに、ブラインが言う。
「ヘレナさんは魔王軍幹部に対抗できる最強の人間。それに駆け出し勇者時代から一緒に戦ってきた俺とメイラもいます。俺達のサポートもあるっすから、ここはひとつ、勇者と俺たちの力を信じてくださいよ。」
ブラインが、親指を立てて見せる。
「………わかった。 」
東の王は少し悩んだ後、意を決してヘレナ達の方を向く。
「では、 東の国の王の名の下に命じる。勇者とその仲間達、そして我が兵、レシンと東の国の人間軍よ。 ジャホン国にいる魔王軍幹部二人と魔族を殲滅せよ!」
『はっ!』
「御意。」
敬礼するヘレナ達と、東の王の横で小さく頭を下げるレシン。
「必ずや、魔王軍幹部を討ち取って見せます。」
勇者ヘレナは真っ直ぐな目でそう言い、
(…リオン、待っていなさい!)
静かに心を燃やすのであった。
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