第8話 会議の後に
会議が閉会し、会議室を後にして幹部達と別れた俺は、記憶を頼りにリオンの自室に向かう。
火の付いた蝋燭が立つ燭台が壁に等間隔に並べられた薄暗い廊下を歩き、この世界の文字で【リオン・アウローラ】と書かれた金属製のドアプレートが貼られた部屋の前にたどり着く。
部屋に入って、内側から施錠する。
(…ここが、リオンの部屋か。)
部屋は広いが、中には必要最低限の物しかなく、無駄が無い印象だ。
ドアから入って奥の向かい側には黒いカーテンがかかる窓、右側に幅広い机とその横には分厚い本がびっしり収められた大きな本棚、左には衣装ケースや姿見があり、その奥には白いシーツに一切のシワが無いベッドが置いてある。
部屋の奥へと進む。そして、俺はそのまま奥のベッドに座…─らず、顔面からダイブした。
(うわぁぁぁぁん! もうやだ~、お家帰りたーい!)
ベッドに顔を埋めて、声にならない叫び声を上げる。
先程まで緊張と恐怖に耐えていた俺の体が、ダイブした途端震えだした。
(あばばば…こ、今回は何とかなったが、次はどうなるかわからん!ただでさえ、正体がバレるリスクがあるというのに、さらに、会議中に幹部が暴れ出す危険もあるだと!?そんな中を、自分の身を守る術がない俺はどうすればいいっちゅんじゃい! )
会議中、今回のグラキルスの様に、何気ない発言が誰かの怒りに触れて争いに発展するかもしれん。魔法とか使われたら、こっちはどうしようもない。
(あんなやばい連中の集まる会議で何を発言しろと!? )
やばいぜ、俺。 何とかせねば。
(せめて、リオンの魔力が回復して魔法が使えればな…。)
いつ回復するかわからない魔力に希望を抱いていると、
─ドンッ、ドンッ
と、ドアがノックされた。
(うっ…誰か、来た!)
俺は急いで姿勢を正し、キリッと顔を引き締めた。
(一体誰が来やがった…?)
施錠したドアを開けに行こうと近づくと、
—ガチャッ
(ん?)
―バンッ
(ブヘッ!?)
施錠が勝手に外れたかと思えば、勢いよく開いたドアに俺の顔面にぶつかった。
「リオン様!ご無事でしたか!?お怪我は…あれ?」
慌てた様子で部屋に入ってきたクロエだが、視界に俺がいないので頭に疑問符を浮かべる。
「部屋に気配がしたから、いらっしゃると思ったのに…」
首を傾げるクロエの後ろで、俺は顔面からドアを引き剥がして、そのまま閉めた。
「あっ、リオン様、そこにいたんですか!…何してたんですか?」
キョトンとした顔で聞いてくる。
「…何でもない。気にするな。」
(お前にドアぶつけられたんじゃい!この丸眼鏡)
今日は眼鏡かけた奴に攻撃される日なのか?
「それで、お前はどうしたんだ?」
「そうでした!会議中、グラキルス様が暴れて、それにリオン様が対処したと聞いたので、心配になって!」
(耳が早いな。会議が終わってから、そんなに時間は経ってないぞ。)
「他の幹部達が割って入れない程の凄まじい戦いで、リオン様はひどい傷を負ったって…さっきヒミカ様に聞いて急いで駆けつけました!」
(なんか話が、脚色されてない?)
「…………お怪我は、されてない様ですね。」
「…あぁ。」
だって、別に戦ってないし。座ってただけだし 。 …危うく大怪我するとこだったが。
「…よかった~~。」
緊張した顔から、へにゃっと表情が崩れるクロエ。
(本当に心配してたんだな…。リオンはいい部下を持ったな。)
そうだ、とクロエは何かを思い出して言う。
「魔王城帰還祝いに、久しぶりに飲みませんか? 実は上等なワインを用意していたんですよ。」
「ほぉ…。 貰おうか。」
「はい!今、持ってきますね!」
そう言うと、クロエは嬉々と部屋を出て行った。
(上等なワインを用意してるとは、リオンは本当にいい部下を持ったな!)
俺は今日だけで、いきなり知らない世界に飛ばされて、命の危機に晒されたんだ。
飲まなければやってられるか!
(おつまみは何かないかな?)
お菓子でも隠してないかと部屋を漁ろうとすると、
「あの…、リオン様」
クロエが緊張した面持ちで、部屋に入ってきた。
(もう、持ってきたのか。早いな…え!?)
クロエの後ろに続いて入ってきた人物を見て驚く。
「…ふむ。 遅くに失礼するよ、リオン。」
そう言って入って来たのは…魔王軍幹部会議の議長、クレアであった。
クロエめ…、上等なワインじゃなくて、
(なんだろう? あっ、もしかして、一緒に飲むのかな? )
と思ったが、
「残念ですが、リオン様。今日の帰還祝いは、なしです。」
クロエが残念そうに言う。
どうやら一緒に晩酌をするわけじゃなさそうだ。
(じゃあ、何の用だ?…なんか嫌な予感がするんだが。)
「何だか二人の時間を邪魔して、すまないな。今度、私から埋め合わせをさせてくれ。」
「いっ…いえいえ、お気になさらず!」
クレアに恐縮するクロエ。
「それで、用件はなんだ?…クレア。 」
臆する様子を見せず、堂々とした態度で話す。クレアに対しても、多分このしゃべり方でいいと思う。
「…ふむ。帰ってきて早々にすまないが、明日の朝、大陸の東にある『島国』に行き、そこにいる魔王軍の部隊と合流してくれ。」
(東の島国?)
「今しがた連絡が来たのだ。勇者とその仲間達が、【東の国】へ向かっているらしい。」
(……ほえ?)
「おそらく、勇者とその仲間達は【東の国】の人間軍と協力し、現在、魔王軍が占領している島国『ジャホン国』を奪還するつもりなのだろう。」
(東の島国、ジャホン国…)
なんだその、めっちゃ聞いた事あるような無いような名前の国は。
「知っての通り、勇者は魔王軍幹部に匹敵する程の実力だ。」
(え、そうなの!?)
へえ、勇者って強いんだな~…。
「リオン、お前には 勇者討伐を頼みたい。」
(…OH、 マジか。)
またしても、むちゃな事を命じてきやがった…。
「任せたぞ。我ら魔王軍幹部、その中の三傑の一人…『終焉の王』 リオン・アウローラ!」
(やめろぉ! 何だその二つ名は!?)
魔族最強のクレアから直々に下された任務に、『終焉の王』(仮)は…
「…ふん、任せろ。」
(ひゃぁぁ!)
一切動揺を見せず、冷静(を装って)に承るしかなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます