第3話 いざ、魔王城へ!

 魔王城。 その名の通り、魔王の城である。


 魔族が地下から地上へ現れた日に、一緒に地下から出てきたと言われている巨大な城であり、魔王の他、九人の幹部とそれぞれ直属の部下が住んでいる。


 しかし現在、城の主である魔王は不在。


 そんな中で、世界中に散らばっていた幹部達が戦況の報告や作戦会議のため、その魔王城に帰還するのである。


 ——そして現在いま


 月が隠れた世闇の中、漆黒の翼を羽ばたきて夜の空を渡る紅き眼を持つ二人の魔族が魔王城を目指していた。


 バサッ…スチャッ

 バサッ…スチャッ


 城の屋上に着くと、二人は広げていた背中の漆黒の翼を小さく仕舞う。


「…ふん、魔王城に着いたか。」


「…はい、リオン様。 戦場よりのご帰還、お疲れ様でした。」


 暗闇の中、二人の紅い眼だけが怪しく光る。


 暗雲が流れ、隠れていた月が夜空に現れると、屋上に佇む紅き眼を持つ二人の魔族の姿を照らした。



「…ふん、長い道程だったがようやくたどり着いたな。」

(ぎゃぁぁぁぁ、着いてしまった!)


「もうへとへとですよ~。 汗もかいたし、シャワー浴びたいですよ~」


 半日も飛び続けた俺達は、汗だくになっていた。


 クロエは、大きな丸眼鏡のフレームを伝って汗を垂れ流しながら、自身を扇ぐように手をパタパタしている。


 俺はと言えば、この後に待っている最強の魔族達が集まる会議の事を考えると、更に嫌な汗が滝の様に流れる。


(ど、どどどどうしよう…)


 緊張と不安のまま、俺は黒と一緒に城内に入る。


 大きな広間に着くと、そこから別々にいくつかの通路が別れていた。


 クロエが姿勢を正して俺の方を向く。


「それでは、リオン様。 私はここで失礼しますね。 会議、頑張ってください!」


「‥あぁ、行ってくる。」


 この後、クロエは自室へ、そして俺は会議室へと向かうつもりだ。


(俺も、自室リオンの部屋に直行したい…)


 そして、そのまま引きこもりたい。


「いいですか、リオン様。 戦局が変わるかもしれない大事な会議ですからね! 」


 そう言うとクロエは、リオンの真似なのか、表情を引き締めて険しい顔を作る。


「前みたいに、『…ふん、くだらん。』て言って、会議をさぼらないで真面目に行ってくださいね!」


「お、おぅ。 ‥わ、 わかっている。」


 この子、なんていうか、部下にしては距離が近くないか? 上司にもズバズバ言うタイプなのかな。


 そんな注意を受けた俺はその後クロエと別れ、そのまま会議室に向かう。


(会議室の場所は…っと)


 リオンの記憶を見てみる。


 城内はかなり広く、いくつも分かれていて迷路みたいになっているが、リオンの記憶のおかげ迷わず会議室にたどり着くことが出来た。


 途中、大きな砂時計をこの世界の数字で囲った時計の様なものを見る。


 遅刻してるわけではないが、つい時間を気にしてしまう。


 会議の時間は近づいていた。


 行きたくもないが、早めに行った方がいいだろう。


(早めに席に着いて待つのは社会人として常識だしな。)


 ここでも常識なのかは知らないが。


 記憶を頼りに向かった場所に辿り着くと、両開きの巨大な扉が待ち構えていた。


(…ここか)


 両開きの巨大な扉を押して開け、顔をキリッと引き締めて中に入る。


 ギギギィ…と不気味な音を出しながらゆっくり閉まる巨大な扉を背に、室内を歩き出す。


 室内は広く、天井は高い。


 そして薄暗く、天井に吊るされた数本の燭台の蝋燭と窓から射し込む月灯りで部屋は照らされている。


 中央には、長い鋼鉄のテーブルが表面の黒い光沢を輝かせて置かれていた。


 テーブルの周囲には、左右に四つずつ、扉から見て奥の真ん中に一つ、計九つの椅子が置かれている。


(まだ誰もいないのか。)


 早く来すぎたのか中には誰もいないらしく、とりあえず俺は記憶にある自分の定位置…扉から見て左の奥の席に座る。


「…ふぅ。」


「お久しぶりですね。リオンさん。」


(うわあああああああおぅ!)


 突然声をかけられ、危うく変な声が出そうになったが、何とか抑えた。


 キリッと引き締めていた顔の表情もなんとか保つ。


 誰もいないと思っていたが、先客がいたらしい。


 俺の席から見て斜め右向かいの席に一人の人物が座っていた。


 髪が全体的に長く、白衣を着た小柄な人物であった。


(背が低くて気付かなかったか。)


「クケケ‥ さすがリオンさん。 僕が突然声をかけてもびっくりしない。 その冷静さ、見習いたいな‥」


 クケケ…と、顔を遮る長い髪の隙間から覗きこむ様に、俺の方を向いて笑う白衣の人物。


(さっそく やばそうなのが出てきたな。)


 記憶を探る。


 白衣の人物の名は、『ネヴァクルス』


 通称、ネヴァ。


 人間や魔族、動物の亡骸をゾンビにして操る、『ネクロマンサー』という奴らしい。


 顔まで隠れる長髪に白衣という見た目もさることながら、いつもクケケって笑うのが特徴。


「クケケ… それにしても今日は、ずいぶん早いですね。いつもなら、ギリギリに来るのに。」


「…まあ、たまには早く来るのも悪くないと思ってな。」


「そうですか…。クケケ…。」


(よし、こいつは クケケさんて命名しよう。)


 などと考えていると、


 ―バンッッ!!


(…っ!?)


「ガハハ 相変わらず、しけた部屋だな!」


 両開きの扉が勢いよく開いたかと思うと、大きな声と共に大男が入ってきた。


「はあ…、あなたは静かに入室出来ないのですか?」


「まあまあ、フレイムルさんが騒がしいのはいつものことですわ。」


「アハハ~☆ みんな久しぶりだね~」


 その後ろから、


 眼鏡をかけたいかにもインテリー系な優男と、


 雪の様な白い和服姿のおしとやかそうな女性、


 着せ替え人形の服みたいなフリルがある黒いドレスの少女が続いて入室。


 一人一人を記憶の中から検索する。


(…間違いない、どれも魔王軍の幹部だ。)


 大男以外、他の幹部は普通の人間とほとんど変わらない見た目をしている。


 だが、大男含め、そいつらからは、異様な気配と本能に「危険が危ない!」とバグった警報を鳴らせる圧力の様なものを感じさせ、どいつもこいつも歴戦のやばい奴らだとわかる。


「お? リオンがいるじゃねえか! ガハハ、俺より早いご着席とは珍しいじゃねえか!」


「まあ…、たまには、な。」


 落ちつけ、 動揺するな。ただ冷静に会話の受け応えをするだけだ。


 汗一つでも垂らせば怪しまれる。


 心臓の鼓動が早くなるのがわかる。音まで外に聞こえてるのではないかと思ってしまう。


(顔を引き締めろ、堂々とするんだ!)


 だが大男は何も気にせず、「そうか!ガハハ!」と笑いながら、俺から離れた席に座った。


(はあ~…、とりあえず深呼吸して鳴りっぱなしな鼓動を静かにさせるか)


 ばれない様に小さく息を吸って、吐いて…


 スウ~ ハア~


 スウ…


 ―バンッッ!!


「お前らァ! まだ生きてるかァ!」


(ブーーッ ブホッ!?)


 またもや勢いよく扉が開けられ、入ってきた大きな声に整えていた呼吸が乱れてむせてしまった。


「はあ、またうるさいのが来てしまった。」


 優男は、やれやれと溜め息を吐き、


「はぁい、まだ生きてますよ~。ふふっ」


 和服姿の女性は、小さく手を振りながら朗らかに応える。


 ニィ…と笑みを浮かべて、大きな声の主であるマントの付いた軍服姿の女性が入室する。


 マントを靡かせて、履いている厚底のブーツで床を鳴らしながら歩き、ドカッと大雑把に俺の隣の席に座る。


「…ん?」


 軍服の女性は俺を見つけると、意外そうな顔をした。


「あん? リオン、今日は早いじゃねぇか。」


「まあ…(以下略)」


(リオン、お前いつもどんだけギリギリに来てんだよ!このくだりだけで心臓がもたないわ!)


 「…ふ~ん」


 興味が失せたのか、俺から視線を外して椅子を背で押して安楽椅子みたいに揺らし始めた。


(…ふぅ。 これで俺を入れて七人か。)


 記憶の情報を検索しつつ、再び呼吸を整える。


 ―ギィ…


 静かに扉が開く。


 扉の方に視線を向けると、頭より下を白銀の鎧で纏った女性が立っていた。


 ガシャ…  ガシャ…


 鎧の女性が入室すると、部屋全体が静かになった。


 女性が歩く度に鎧から出る金属音だけが響く。


 鎧の女性は俺の後ろ通り過ぎると、長いテーブルの奥の真ん中に位置するに座った。


 議長席の女性が、自分の斜め右に座る俺を見る。


「…………………ふむ。」


「まあ、たまには早く来るのも悪くないだろ。」


 「そうか。」と言って、視線を全員に向ける。


 その視線が一つ空いた席に止まる。


「奴はまた来てないのか。 まあいい。」


 再び視線を全体に向け、議長である鎧の女性は宣言する。


「ではこれより、魔王軍幹部会議を始める!」










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