思わぬ人との再会、そして……④
「……ありがとう、……ございます」
王子が出ていくと、天誅の女性が感謝の言葉をかけてきた。
取ってつけたような「ございます」という敬語が今のマーレンと彼女の距離を表しているようで、少しだけ寂しく思う。
でも、これは仕方がないことだ。
こうなるまで行動できなかったマーレンにも非があるのだから。
「いいえ。これは私なりのケジメですから」
「ケジメ、ですか?」
「私はあのバカ王子のせいで傷ついていくあな……親友を救うことができませんでした。私が後先のことを考えすぎてしまったから……。結局、その親友は私の前からいなくなってしまいました」
私は振り返り、天誅の女性の方を見る。
隠蔽の魔術がかかっているのか、ローブの奥の顔は見えないが、マーレンは天誅の女性と目があった気がした。
「だから、今度同じようなことがあったら必ず行動しようと決めてたんです」
「……あなたは、大丈夫なんですか?」
「……大丈夫です。今はあの王子とは別の派閥ですし、いざとなったら教会にでも逃げ込もうと思います」
教会の一員としてきているということはミーリアは教会に身を寄せたのだろう。
マーレンも教会に身を寄せればまた昔のように一緒に過ごせるかもしれない。
マーレンにも家族や友人がいる。
その人たちと別れるのは寂しいが、ミーリアとまた一緒にいられるのであれば、それもいいかもしれない。
そう思っての発言だったのだが、ミーリアは何かを考えるようにかおをふせる。
何か困ることでもあるのだろうか?
もしかしたら、ミーリアはもうマーレンと一緒にはいたくないとか……。
「……そうですか。優しきあなたに、これをさづけましょう」
「? これは?」
「お守りです。本当にどうしようもなくなった時は、それを強く握って、ワタ……助けを呼んでください」
天誅の女性はそう言って自分のつけていたネックレスをマーレンに差し出す。
キラキラと虹色に輝く宝石のついたネックレスだ。
魔力を感じるので、もしかしたら魔道具の一種なのかもしれない。
「……悪いんだが、そろそろ……」
天誅の男性が話しかけてきた。
今まで気づかなかったが、外が騒がしくなってきている。
『魔物』という言葉も聞こえてくることから、また魔物が攻めてきたのかもしれない。
「……わかりました。いいですか? 教会に行く前に絶対に呼んでくださいね?」
「……わかりました」
マーレンは断ろうかと思ったが、真剣な様子の天誅の女性を見て受け取ることにした。
これ以上、彼女たちを引き止めるわけにはいかない。
「それでは、また、どこかで」
「……えぇ。また……」
マーレンはそう言って天誅の女性を見送った。
そして、すぐに天幕の外は静かになった。
おそらく、あの二人が魔物を倒したのだろう。
「私も、頑張らないと」
マーレンはさっきもらったネックレスをギュッと握りしめる。
ミーリアはマーレンの知らないうちに遠くへといってしまった。
それどころか、今回は命を助けられてしまった。
回復魔術が使えなかったはずのミーリアが回復魔術を使ってだ。
しかも、今まで見たこともないくらい強力な回復魔術だった。
おそらく相当修行を積んだのだろう。
今のマーレンではミーリアの親友などと名乗れない。
(まずは魔力の訓練をしないと。それから、お父様の手伝いをして第三王子派をもっと盛り上げていかないといけないわね)
またいつかマーレンがミーリアの隣に立てるように。
マーレンがミーリアの親友だと名乗れるように。
◇◇◇
「すみません。レイン。あの魔道具を彼女に渡してしまって」
「大丈夫だよ。彼女、ミーリアの親友なんだろ?」
俺たちはミーリアの友人を治療した後、森の方へと来ていた。
ミーリアは気にしているようだが、今回ミーリアに預けていた魔道具は以前アリアに渡した監視用の魔道具の予備の予備だ。
あっちが防犯携帯くらいの性能だとすると、あれは防犯ベルレベルだ。
録画機能とかはついていない劣化品だ。
その分必要とする魔力もすくなくて済むという利点もある。
今こめている魔力がなくなるまでに数年かかるはずだし、それまでに充電(充魔?)にいけば大丈夫だろ。
劣化品とはいえ、どんなに遠くとも危険を知らせることができるし、所在地を親機に飛ばすことができる。
防犯ベルというより、盗難防止法のGPSタグかな?
古代魔術師文明の頃にはどんなふうに使われていたかはわからないからこの使い方が正しいのかはわからない。
どちらにせよ、現代の技術では再現は不可能だ。
今回は一緒に行動するし、何かあったとき用の保険としてミーリアに預けていた。
今回はアリアに渡してた方の魔道具を使ってなくてよかった。
あっちだと流石にミーリアの友人に渡すわけにはいかなかったからな。
もしあっちだったら渡すのを止めてただろう。
あれは俺と母さんの思い出の品でもあるんだから。
「さて、さっさと大元を叩いて帰ろうぜ。アリアたちも待ってるだろうし」
「そうですね。みんなには迷惑もかけたので、結果を報告しないといけません」
魔物の出現は止まっているが、どっちからきたかはさっき軍の人に聞いたからわかる。
魔物は細かい指示を聞いてる風ではなかったので、このまままっすぐいけば発信元に着くと思う。
「よし。魔物狩りだ」
「はい」
俺たちは森の中を進んだ。
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