アリアの帰還③

「村の方は変わりはなかった?」

「そうですね。大きな変化はなかったわ」


 パーティー用の料理を作りながらアリアとキーリが話をしている。


 アリアの帰還を祝うパーティーなのにアリアが料理を作るのかとも一瞬思った。

 だが、一緒に料理を作ることがいつも通りなのでこれはこれで俺たちらしくていいと思う。

 俺は料理は手伝えないので食器の準備とかをしている。

 これも悲しいことにいつも通りだ。


 こうしてみていると、アリアもいつも通りの様子だ。

 他の人がいない場所ではこの半月も平気そうにはしていたが、どこか強張った感じだった。


 だが、この村に帰ってきてからは昨日まで以上に元気にはなっている気がする。

 やはり、この村にいれば安心するのだろう。

 俺もこの村に帰ってきて「帰ってきた」っていう気分になったし。


 俺にとっても、もうこの村が故郷なんだろう。


「あ。とりあえず畑は作り始めてるわ。雪が溶け切った半月くらい前から始めたけど、予定の半分はもう終わっちゃった」

「早いわね」


 アリアの言う通り、予定よりかなり早い進捗だ。

 全員揃っていても半分終わらせるのにあと一か月はかかる予定だった。


「木のクワがかなり高性能だったのよ。兵士さんも驚いてたわ。去年の三倍以上のスピードで耕せてるわ。流石、錬成鍋で作った魔道具は違うわね。まだ春になったばかりだけど、もう開墾は終わっちゃいそう」


 この国では春の社交が始まるとき、つまり、武闘会が始まったときが春の始まりということになっている。

 春はまだ始まったばかりだから、それほど焦ることもない。

 だが、早く終わるに越したことはない。

 気候的に俺たちが出発するときにはまだ雪が残っていたのに、今では雪が完全に溶け切って春になっている。


 早くなった理由はやはり魔道具のクワらしい。

 普通のクワは鍛冶師などに作ってもらう。

 それでも畑を耕すことは十分に可能だが、錬成して作ったものの方がやはり高性能なのだろう。

 材料は魔の森の木だしな。


「木のクワの減り具合はどうなんだ?」

「うーん。残りが半分弱、ってところね。予定エリアを開墾したら無くなっちゃいそう」

「そうか」


 俺の質問にキーリは手を止めずに答える。


 木のクワは結局百本作った。


 開拓予定のエリアも考えて百本とした。

 少し余裕があると思っていたが、ギリギリだったか。


「追加で作っておいた方がいいかな?」

「うーん。アリアはどう思う?」

「え? 私?」


 俺に会話を振られてアリアは驚いた顔を見せる。


「そりゃ、アリアがこの村の代表なんだから。最終決定はアリアにしてもらわないと」

「うーん。追加するとすれば、探索が少し遅くなるのよね。追加しないと、予定のエリアを畑にできないかもしれない」


 アリアは確認するように言う。

 木のクワは材料が魔の森の木なので、材料を手に入れるのが難しい。

 前も木のクワを作っていた時は探索があまり進まなかった。


「リノには探索をかなり我慢させちゃったし、探索優先でいいんじゃないかしら? 辺境伯様に畑の面積を報告するのはもうちょっと先の予定だし、わざわざ追加は作る必要ないと思うわ。足りるかもしれないのよね」

「……えぇ。今のペースなら足りるはずよ」


 キーリは驚いた表情でアリアを見ている。

 料理の手も止まっている。


「なら、とりあえず、今ある分を使って畑を作っちゃって、探索を再開しましょう。どうしても面積が足りないようだったらそこから作っても間に合うでしょ……って何?」


 キーリが手を止めたことにアリアが気づき、アリアも手を止める。


「いや、アリア。なんか。すこし変わった?」

「え?」

「なんか、前はもっと……なんと言うか、思ったことをやってたじゃない? でも今は色々と考えてから判断してる」

「……まあ、王都で色々あったからね」


 アリアは少し俯く。


 王都では本当に色々あった。

 まあ、思ったことは色々あるだろう。

 他人が怖くなるくらいには印象的な出来事だったのだから。


「まだ、全然ダメダメだけど、レインだったらどうするかなって考えてから行動するようにしてるの」

「え? 俺?」


 アリアにいきなり名前を挙げられて俺は驚く。

 そこまでアリアに認められているとは思っていなかった。

 魔術の腕はともかく、判断とかは色々失敗もする。

 アリアに認めてもらえるようなことはないと思うんだけど。


「うん。いいんじゃないかな?」


 キーリまでそんなことを言ってくる。

 流石にそこまで認められていると怖くなるんだが。

 俺なんかよりすごい人はかなりいると思う。


「もっと参考にするのにふさわしい人がいるんじゃないか? 辺境伯様とか」

「お義母様は近くにいないもの。私の近くにいる人で、一番参考にすべき相手はレインよ」


 まあ、確かに、辺境伯様の養女になったとはいえ、そこまで時間を割いてはくれないだろう。

 大会社の社長がコネ入社した姪っ子のことなんて気にするはずはない。

 それは養子縁組をしても大して変わらないだろう。


 それにしても俺か。

 ……思った以上に信頼されてるらしいな。


「はあ。ほどほどにしておけよ? 失敗しても俺は知らんからな」

「大丈夫。信じてるから」


 アリアはそういっていい笑顔で笑う。

 まあ、この笑顔を守るために少し頑張るか。

 俺はそんな風に思って気を引き締めなおした。


「じゃあ、あとでミーリアたちにも確認して、反論が出なければ木のクワが無くなるか、目標のエリアを開拓し終わるまで一気に開墾しちゃいましょう!」

「そうね。そうしましょう」


 そういって、アリアとキーリは再びパーティーの料理に戻っていった。

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