武闘会に出場②

「さぁ! やってきました! 武闘会一日目!」


 会場には実況の女性の声がこだましている。

 あの声はこの闘技場に備え付けられた古代魔術師文明時代の魔道具によって拡大されているらしい。

 この闘技場全体が古代魔術師文明時代の遺跡で、昔からこんな感じに見せ物に使われていたのだとか。

 古代魔術師文明の人も思っていたより野蛮なんだなと子供心に思った記憶がある。


 私は闘技場の入場口のところまで来ていた。

 ここまでどうやってきたかは覚えていない。

 ただ、逃げられないのでここにきた。

 そんな感じだ。


 私の出番は一番最初らしく、闘技場に着くと、直ぐにこの場所に通された。


「やれることをやらなきゃ」


 私はレインがくれたネックレスについた宝石をキュッと握る。

 それだけで震えが少しだけ和らぐ気がする。


 この魔道具は修行用の魔道具だから魔力を今も吸い続けている。

 試合には外して来ようか悩んだが、つけてくることにした。

 なぜか、このネックレスをつけていると、レインに見守られているような気分になるのだ。

 もしかしたら、試合中、私がピンチになればレインが助けにきてくれるかもしれない。


「ふふ。そんなことありえないのにね」


 レインは今、開拓村にいる。


 開拓村からこの王都まで馬車で半月以上かかるのだ。

 そんな遠くに居るレインが私のピンチに現れてくれるはずがない。


「では、一回戦の出場者を紹介しましょう! ロール男爵家三男、デイル=ロール様!」

「「「「「わぁぁぁぁぁぁ!」」」」」


 歓声を受けて、反対側の入場口から同い年と思しき男性が入場してくる。

 彼は観客に手を振りながら闘技場の中央に設置された石の舞台に上がる。


 どうやら、私の相手はロール男爵家の三男らしい。

 ロール男爵家は私の生家であるフレミア家と関わりが強かった。

 その関係もあり、この対戦カードなのかもしれない。


「対するは、愚かにも貴族の祭典である武闘会に参加してきた開拓村の村長。アリア!」

「「「「「ブーーーー!」」」」」

「ひっ!」


 次に私の名前が呼ばれる。

 会場中からブーイングが聞こえる。

 みんなが私に対して敵意を抱いている。


 誰かの敵意が、ここまで恐ろしいものだとは思わなかった。

 ただ私は魔術が使えなかっただけなのに。

 まるで世界すべてが敵になったような気分だ。


 私が一歩たじろぐと、首から下げたネックレスが揺れる。

 そのひんやりとした感覚が、私は一人じゃないと思い出させてくれる。


「……」


 私は目を閉じて村のみんなのことを思い出す。


 ここを乗り切ればスイとリノに市民権を与えられる。

 もし開拓村が無くなっても、キーリやミーリアが路頭に迷わなくて済むようにいろいろと手助けができる。

 レインの呪いを解くために、遺跡がたくさんありそうなあの魔の森の近くの村はなくしたくない。


 そのためには、何としてもここで生き残って、貴族として村に帰らないと!


 再び目を開けた時、不思議と体が軽く感じた。

 ネックレスが力をくれているように感じるけど、きっと気のせいよね。


 私は一歩、戦場に向かって踏み出した。


***


「逃げずに来たとは、落ちこぼれにも貴族の矜持は残っていたようだな」

「逃げても意味がありませんから」

「ふん。敬語は使えるようだな。腐っても貴族ということか」

「おほめに預かり光栄です」

「ふん。光栄に思うことだな。僕は……」


 私はできるだけ丁寧に言葉を返す。

 私の生存確率を上げるためにも、対戦相手にはできるだけ気分を害してほしくない。


 私は会話を聞き流しながら闘技場の中を確認する。

 闘技場の観客席はまばらに埋まっている。

 ここに入れるのは貴族だけだ。

 さすがに、貴族崩れの惨殺ショーを好んで見に来る貴族はそこまで多くないようだ。

 もし満員だったら、この国の行き先が心配になるところだ。


 私とデイル=ロールが立っている石舞台は正方形だ。

 広さはそこまで広くなく、20歩ほどで端から端まで行ってしまうだろう。

 逃げ回るには少し狭い。


 この石舞台の外に出れば負けとなるが……。


(たぶん、私が外に出ようとすれば何かしてくるんだろうな)


 石舞台の周りには舞台をぐるりと取り囲むように騎士が立っている。

 おそらくだが、出ようとすれば彼らが持っている武器で押し戻されるのだろう。


 本当に悪趣味だと思う。


「ごほん。デイル=ロール様、そろそろ始めてもよろしいでしょうか?」

「おっと、すまない。いつでも始めてくれ」


 しばらくすると、審判がデイルの自慢話を止めに入った。

 さすがに、彼の話は長いと思われたらしい。


 うんうんうなづいているだけでよかったので、私としては願ったりだったのだが、そう簡単にはいかないようだ。


「では、両者、正々堂々と戦うように! 試合開始!」


 審判の掛け声と同時に、私の命をかけた戦いが始まった。

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