休日の過ごし方⑤
「ふー。ご馳走様」
「まさか、二匹も食べるとは。リノでも一匹だったのに。男の子ってやっぱりすごいわね」
「おいしかったからな」
アリアたちは半分でいいといったので俺は二匹、リノは一匹の魚を食べた。
まあ、魚はデカかったが、アリアたちの調理のおかげでおいしかったから二匹ともぺろりと食べられた。
「午後からどうするんだ?」
「私はもう少し雪苺を探すつもりよ。ジャムも作っておきたいし」
「俺も手伝う! もっとたくさん採るんだ!」
「私も、たくさん、収穫する」
三人は雪苺がかなり気に入ったらしい。
さっきもかなりのスピードで食べてたしな。
どこの世界に行っても女の子は甘いものが好きなようだ。
「じゃあ、俺もそれについていこうかな。ミーリアとキーリは?」
「私は午前中で疲れたから午後は家でゆっくりするわ。この前ミーリアに貸してもらった本も読みかけだし。それに、もう誰も来ることはないと思うけど全員で村を空けるのはあまりよくない気がするしね」
「それなら、私も一緒に帰ります。私も読みかけの本があるので」
キーリとミーリアは村に戻るようだ。
確かに、キーリの言う通り長い間村を空けるのは問題かもしれない。
このあたりは魔の森の影響を結構受けているからあまり雪が積もっていないけど、最寄りの村なんかは相当雪が積もっているはずだ。
俺は見たことがないが、なんでも人が埋まるくらいには雪が降るらしい。
ジーゲさんたちが来たタイミングはほんとにギリギリだったようだ。
そんな状況でこんな何もない村まで訪ねてくる人はいないはずだが、確かに長い間留守にするのもあまりよくないかもしれない。
「あ! そうね。じゃあ、私も……」
「来客予定があるわけではないので、二人いれば十分ですよ。前みたいに先ぶれが来ればアリアに連絡しますから。アリアは三人と一緒においしい雪苺を取ってきてください」
「……そう? じゃあ、任せるわ」
アリアは村に戻るべきか考えたようだが、どうやら果物の誘惑が勝ったらしい。
俺たちと雪苺を一つでも多く手に入れるために動くことにしたようだ。
「……みんな甘いものが好きだったんだな。知らなかったよ」
「まあ、甘いものはこの国ではぜいたく品だからね。こうやって冬の雪苺やはちみつとかをのぞいたら国の南の方で作ってる果樹園で採れる果物か、他国から輸入するしかないもの」
「そっか。じゃあ、魔の森の奥に果物でも生ってれば、一攫千金になりそうだな」
「果物が生えてるの!?」
アリアが食い気味に聞いてくる。
ほかの四人も興味津々といった様子で俺のほうを見ている。
(これは、失敗したかもしれない)
俺は背中に冷たい汗が流れるのを感じた。
「ま、魔力濃度が切り替わると環境も大きく変わるからな。奥に行けば南国みたいな環境になっている場合もある」
「そこに行けば果物がたくさん手に入るのね!?」
「そういう場所があればな。ない可能性もあるから」
「でも、ある可能性もあるのよね」
「……あぁ」
「よし! 俺、明日から探索をもっと頑張る!」
「私も、がんばる」
ちびっこ二人がやる気になったようだ。
よく見ると、キーリどころかミーリアまで瞳に炎が見える気がする。
(この話はするんじゃなかったかな。いや、みんな魔の森の危険性はすでに気づいているから無茶はしないか)
期せずしてやる気になってしまった。
だが、これまでで危険は痛いほどわかっているからみんな無茶はしないだろう。
しないといいな……。
***
「おーい。そろそろ終わりにして帰らないか?」
「……そうね。たくさん採れたし、そろそろ帰りましょうか」
日が傾き始めたころ、俺はアリアに声をかけた。
俺の持っているかごにはあふれそうなほど雪苺が入ってるし、アリアの持っているかごにもこれでもかというくらいの雪苺が入っている。
というか、かごが悲鳴を上げているように見えるんだが、ちゃんと村まで持つのか?
「おーい。帰るのかー?」
「私たちの、カゴは、もういっぱい」
「うーわ」
俺たちの声が聞こえたのか、少し離れたところで採集をしていたリノたちが俺たちのところまでやってくる。
リノ達のカゴを見て俺は思わず声を上げてしまった。
彼女たちのカゴには山盛りの雪苺が入っていた。
「そんなにとって、溢れたらもったいないじゃない」
「魔術で、保護してるから、大丈夫」
「……なるほど」
アリアはそう言って雪苺狩りを再開した。
スイはアリアのカゴに魔術をかける。
これは確か、状態保持の魔術。
いつの間に覚えたのか。
「ほら!レインも早く探して。日がくれちゃう!」
「レイン兄ちゃんのカゴもいっぱいにしようぜ!」
「そうね。それがいいわ」
どうやら、アリア達は採れるだけ採るまで帰るつもりはないらしい。
(『収納』の魔術のことは言わない方がいいだろうな)
俺は晩ご飯までに帰れることを祈りつつ雪苺狩りを再開した。
***
「報告は以上です」
「ご苦労様」
私は執事長にねぎらいの言葉をかける。
彼にはアリアの開拓村を訪ねた商人の身辺調査をしてもらっていた。
商人としては中堅だが、堅実な商売をしているようで、評判は悪くない。
「問題なさそうなものでよかったですね」
「あぁ。アリアたちの不利になるような取引はしなかったようだしね」
私はあの村が戦略上重要な場所になると考えている。
あの『土液』の純度は遺跡で見つかる最高品質のものに勝るとも劣らないものだった。
アリアから買い取った分だけで今までは使えなかった魔道具や魔剣がいくつか使えるように修復できたのだ。
それだけでも相当な利益だといえる。
それを作り出すことができる錬金術師がいるのだ。
彼一人で戦争の趨勢が変わってしまうくらいの切り札となりうる。
なんとしてもわが領につなぎとめておきたい。
そう思って、あの村とのつなぎをするものを選定している最中に商人が一人あの村に向かったとの報告が入ってきたのだ。
つなぎをするものの選定の前にあの村との行き来を制限するべきだった。
辺境の開拓村など、誰も訪ねないだろうと思っていたのだ。
まさか、『土液』の鑑定をお願いしたこの領一番の錬金術師が話を漏らすとは思わなかった。
「いっそあの商人をつなぎの人間にしてしまうかね」
「あの商人をですか?」
あの商人はある程度アリアたちと信頼関係を築けたらしい。
その証拠に、かなりの量の『土液』を預かっており、その『土液』で錬成鍋というかなり高価な商品の注文をされている。
それ以外に衣料品や嗜好品などいろいろなものの注文を受けたらしい。
一定以上の信頼関係が築けていないと衣料品などは注文しないだろう。
「あの商人とアリアは今回の件で一度やり取りがある。下手に別のものを無理やりつけるより、私からのお墨付きを与えてあの商人を専属にしたほうがアリアとしてもやりやすいんじゃないかい?」
「……確かにそうやもしれませんな」
一度とはいえ自分が選択して取引を行った相手だ。
全く面識がない相手を無理やりあてがわれるより印象はいいだろう。
それに、あの村のことを知っているものは少ないほうが情報が漏れにくくていい。
護衛の冒険者はそのまま商人の護衛として雇ってしまうか。
「それでは、王都から来た手紙もあの商人に持たせますか?」
「……まあ、それでいいだろう。どうせアリアは断るだろうし」
少し前、王都からアリアあてに書状が届いた。
この書状は王都で開催される武闘会の招待状だった。
王都では毎年、成人して一年目のものの腕試しの場所として武闘会が開かれる。
成人して一年の成果を見せるとともに、新しい貴族のお披露目も兼ねている。
勘当されたとはいえ、貴族の末席に名を連ねているアリアにも招待状が届いた。
基本的に、この武闘会に参加しないものは貴族ではないとされるので、勘当されたものはこの武闘会への参加を断ることで完全に貴族ではなくなる。
まあ、貴族でなくなりたくないがために参加する者もいるが、この大会は参加者の生死は問われない。
貴族であれば、もし殺してしまえばそのものの家ににらまれてしまうので、まず死ぬことはない。
だが、アリアに家の力はない。
私では繋がりが弱すぎて彼女の後ろ盾にはなれない。
貴族のしがらみも面倒なものだ。
つまり、アリアが殺されてしまっても誰も文句を言わない可能性が高いのだ。
無理やり参加したら殺されてしまうこともある。
「そのように取り計らっておくれ」
「かしこまりました」
執事長は深々と頭を下げて部屋から出て行く。
私は少し嫌な予感がしたが、あの子もばかじゃない。
ちゃんと断るだろう。
「……バカなことはしないでおくれよ」
私は雪が降り積もっている街を見ながら、かわいい姪っ子のことを思い出していた。
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