辺境伯が村にやってきた!①

「あ、キーリ。こっちにも薬草あったわよ」

「ほんとだわ。ありがとう、アリア。『採集』」


 俺たちは今日も鍛錬のために朝から魔の森に来ていた。

 鍛錬を始めてからそろそろ1か月くらいになるか。


「こっちにも、あった」

「スイもありがとう。『採集』」


 アリアは相当数の荷物を担げるようになり、今は持ち運ぶべき荷物の5倍以上の重りを持ち運んでいる。

 見た目は全然変わってないのに無茶苦茶強くなっているというのは何とも不思議なものだ。


 スイも、かなり魔力の操作になれたようで、アリアからかなり離れても強化魔術は揺るぎもしない。

 気づいたときにはキーリ達と一緒に薬草の捜索に交じっていた。

 俺がスイくらいの魔術の熟練度の時は視界から外れると魔術が途切れてた気がするんだが、彼女は魔術の天才かもしれない。


「レイン兄ちゃん。向こうの方からグレイウルフがやってくるよ」


 リノが俺のもとに走ってきてそう告げる。

 リノはもう余裕でグレイウルフを撒いてこれるようになった。


 リノがこうやって報告に来てからゆっくり撤退準備しても十分にグレイウルフから逃げ切れる。


「そうか。もう昼飯時もとっくに過ぎてるし、一度家に帰るか?」

「そうですね。『祝福』の魔術はあと1時間くらいならかけ続けられそうですが、先におなかがすきそうな気がしますね」


 ミーリアは、最近やっと魔術の設定値を使えるようになったが、先に自分の魔力残量を正確にわかるようになってしまった。

 彼女の『祝福』が一番魔力を消費するので、どうしても彼女が一番最初に魔力切れになる。

 そんな彼女の魔力残量がわかるということは活動上限がわかるということだ。

 ずれもあんまりないから、予定がすごく立てやすい。


「よーし。みんな帰るぞー」

「わかったわ」


 俺が声をかけると、採集をしていた3人が隊列を作り、帰路についた。

 結局、走る必要もなく、村につくまでグレイウルフには追い付かれることはなかった。


***


「帰ってきたわね。キーリ。工房のほうに運んでおいていいわよね」

「お願い。昼食前にやっちゃうわ」


 帰ってきた俺たちはいつも探索の片づけをしてから昼食の準備をする。


「今日はキノコが少し取れたから昼食はキノコ多めのキノコスープにする予定だから」

「やったー!」


 半月も同じ作業をこなしていればみんな慣れたもので最近は森で食材を取ってくるくらいの余裕が出てきているので、食事が少しだけ豪華になってきた。

 もう少し余裕が出てくれば動物の狩りをしながら散策をしてもいいかもしれない。


 魔の森は植生が豊かだ。

 年中いろいろなものが取れて、野生動物なんかも普通にいる。

 彼らは魔物から逃げ隠れしているので、かなり用心深く、普通の森の動物より見つけるのは大変だが、狩猟するのは不可能ではない。


 今まではその辺を教えても魔物に途中で遭遇すれば逃げる以外の手段がなかったが、これくらい魔術ができるようになれば全員で魔物を倒すことができるだろう。

 そろそろ、魔物の倒し方を教えてもいいかもしれない。


「なあ、みんな。少し聞いてもらっていいか?」

「なに? レイン。ちゃんとレインのスープは具多めで作るわよ」

「あー! レイン兄ちゃんだけずるい! 俺も俺も」

「わかってる。リノのも具が多めで作るから」

「やったー!」

「そうじゃなくて。いや、スープは具多めがいいけど、今言いたいことはそれじゃない。そろそろみんなに魔物の倒し方を教えようかと思って声をかけたんだ」


 一瞬、5人は凍ったように固まる。

 そして、俺に詰めよってくる。


「ほんとにいいの!?」

「やったー! 俺、ズバッと敵をやっつける魔術が使いたい」

「攻撃魔術、早く、使いたい」

「私にも魔物が倒せますか?」

「どうやったら魔物って倒せるの?」


 予想以上の喰いつきに思わず一歩引いてしまう。

 それだけ魔物を倒せるっていうのがアリアたちにとっては重要なことなのだろう。


 鍛錬を始めた理由も魔物に殺されそうになったことだしな。


「そんなにいっぺんには答えられないんだが。とりあえず、教えるのはいつも昼食の後だっただろ。あと、スイは強化魔術が解けてる。魔力が拡散しちゃうからそっちを先にやってくれ」

「「「「「あ」」」」」


 5人は俺から一歩離れる。


「そ、そうだったわね。じゃあ、荷物を運んじゃうわ。スイ、また魔術が切れるといけないから付いてきて」

「わかった」

「私も、魔術成分の抽出をさっさとやっちゃうわ」

「じゃあ、私はそのうちに昼食の準備を始めておきますね」

「俺も昼食の準備を手伝う!」


 そういって5人はそれぞれの仕事に入っていく。

 俺はいつも通り、キーリの抽出作業を手伝うために工房へと向かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る