魔の森で鍛えよう!③
梯子をあがると、そこは何もない小さな部屋だった。
窓が大きいのでさっきの部屋よりは大きいように感じるが、天井も低く、部屋のサイズも食堂の四分の一くらいしかない。
十人も入ればぎゅうぎゅうになりそうだ。
一言で言うと、普通の部屋だ。
驚くようなものは何もないように思える。
「こっち!こっち!!」
「いい、眺め」
リノとスイは大きな窓のそばで私たちを呼んでいる。
その近くにはミーリアもいて、外の様子を眺めていた。
「うわぁ!」
思わず声が出る。
窓からは村や畑まで一望できる。
そしてその向こうには魔の森が遥か遠くまで続いている。
その眺めは、今まで見たこともないようなものだった。
「ちゃんと外が見えてるか?」
「レイン?」
気づけば私の後ろにはレインが立っていた。
「ここから魔の森を監視するようにしておけば、何か異変が起きてもすぐ対応できるだろ」
「そ、そうかもしれないわね」
レインにとってはこんなすごい景色も見慣れたものなのだろうか?
少し寂しく思うと同時に、彼が普段見ている景色を私も見て見たい。そう思った。
***
「じゃあ、荷物を移動させてくれ。机とかベッドとかの大物は俺が移動させておいたから」
「わかったぜ!」
「すぐに、やる」
アリアたちに何も告げずに家を作った。
アリアたちに話すと、めんどくさそうだったので先に作ってから話をすることにしたのだが、どうやらうまくいったらしい。
前世でも、何も用意せずに相談に行くと色々と無茶な注文をつけられるので、簡単に作れる部分は作ってから相談に行ったりしていた。
その癖が出てしまった。
まあ、かなり驚いてはいたが、うまく行ったようなのでよしとしよう。
そうだよな。書類と家では次元が違うよな。
だが作ったことに後悔はない。
今まで使っていた家は壊れかけていた。
家は最後の防衛ラインだし頑丈な方がいいと思ったのだ。
アリアたちが新しい家の中を探検している間にベッドやテーブルなどの大きな荷物は移動してしまった。
あの辺は『収納』の魔術でパパッと移動させたほうが楽だけど、まだ『収納』の魔術あたりはアリアたちにも話さないでおこうかと思っている。
現代魔術で再現可能な部分を超えた魔術は彼女たちが十分に自己防衛できるようになってからでないと危ない気がするのだ。
まあ、ほかにも隠してる魔術はあるし、隠してる魔術があることだけ告げておけばいいだろ。
***
私物が少ないせいか、荷物の移動はすぐに終わったようで、しばらくするとリノとスイが俺の方へ走ってくる。
「レイン兄ちゃん! 早く魔術教えてくれ!」
「私も、教えてほしい。こんな家を建ててみたい」
二人は俺の服を引っ張る。
「とりあえず、朝食にしないか? みんなに魔術について相談したいこともあるし」
「「えぇーーー」」
二人は不満そうな声を上げるが、お腹から「ぐ〜〜」という音も聞こえてきた。
お腹も空いているらしい。
「じゃあ、すぐに朝食を作りますね」
ミーリアがそう言って真新しいかまどに向かう。
こうして、また騒がしい一日が始まった。
***
「戦闘する際のフォーメーションを先に決めたほうがいいと思うんだけど」
「「「「「ふぉーめーしょん?」」」」」
朝食を終えて、テーブルに全員がついているタイミングで俺が声をかけると、5人はわけがわからないというように首を傾げる。
フォーメーションが通じないのか。
「そうだな。立ち位置とか、役割とかそんな感じだ。ぶっちゃけ、一年も真面目に魔術の練習をしていればオールマイティになんでもできるようにはなると思う。でも、昨日みたいなことがまた直ぐにおきないとはいえないだろ?」
「それもそうね」
昨日は危うく命を落とすところだった。
危険は俺たちの成長を待ってくれないのだ。
「だから、手っ取り早く強くなるために、ちょっとだけ危ないことをしようと思ってる」
「え? 危ないことを?」
「いや、そこまで危ないことじゃない。最悪俺もフォローに入るし」
青ざめるアリアにすかさずフォローを入れる。
「そ、そうね。レインが助けてくれるなら大丈夫か」
「まあ、それで、危険なことをするから、全員が個々に動くより、方向性を決めて補い合えるように鍛錬した方がいいと思うんだ」
「なるほどね」
どうやら理解が得られたようだ。
アリアとの会話で他の四人もちゃんとわかったようだ。
俺の話の続きを待っている。
「で、俺がみんなにおすすめするフォーメーションはこれだ」
斥候:リノ
前衛:アリア
後衛:スイ
支援:キーリ
回復:ミーリア
「ちょ、ちょっと待ってください。レイン。私が回復魔術を使うんですか?」
「そうだけど? 何か問題あるのか?」
俺がフォーメーションを発表すると、ミーリアが声を上げた。
「……レインは知らないかもしれませんが、私は徳が高くないので『回復』の魔術が使えないんです」
「え? なにそれ?」
「? レインも知っていますよね。特別徳の高い人でないと『回復』の魔術は発動しても傷を治せません。私も昔、『回復』を教えていただいたのに、小さな傷も治すことができませんでした」
魔術が発動するのに、傷が治らない?
なんだそれ?
「ちょっとやってみてくれるか?」
俺はそういって指先を少し傷つけ、ミーリアの前に差し出す。
「……わかりました。『回復』」
ミーリアが回復魔術を発動すると、光が傷口に集まっていく。
だが、光が消えた後、傷が残ったままだった。
「このように、魔術は使えているはずなんですが、傷が回復しないのです」
「あー。これはミーリアが傷の治し方を理解していないからだよ。ミーリアって今まであんまりケガとかしたことないでしょ?」
「え? まあ、そうですが……」
「回復魔術はね。体の仕組みや傷が治るメカニズムを知らないとちゃんと発動しないんだ。間違って過回復とかしないようにセーフティーがかかってるんだよ」
「は?」
ミーリアは素っ頓狂な顔をして俺のほうを見る。
いつも優しく微笑んでいる彼女のそんな表情を見るのは初めてだった。
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