開拓民、始めました④
「こんなもんかな」
俺は山のように積み上げられた丸太を見て満足してそう呟いた。
森から少し距離があったので少し面倒だったが、簡単な家が建てられるくらいの量になっただろう。
別にここに住むわけではないが、自由に使っていいと言われたんだし、簡単な家くらいなら建ててもいいだろう。
簡単なものならいなくなる時に撤去して仕舞えばいいんだし。
「ちょっと! 何よこれ!」
俺が木材の加工に取り掛かろうとすると、大きな声がかけられる。
声のする方に振り向くと、さっきの話を聞かない女の子が立っていた。
確か、名前はアリアというんだったか。
「どうしてこんなところにこんなに丸太があるのよ!」
どうやら、俺の切ってきた丸太を見て驚いているらしい。
目の前に森があるんだから、丸太くらい見慣れているだろうに……。
「あそこに見える森から切ってきたんだよ」
「なぁ!?」
アリアは驚愕の表情をした後、顔を真っ青にする。
「魔の森から勝手に木を切ってくるとか、あなた何考えてるの!?」
「えぇ!? あれ魔の森だったのか?」
あの森に墜落したため、結構長い時間あの森にいたが、ほとんど魔物と出会わなかった。
だからてっきり普通の森だと思っていた。
魔の森なら木を切ったのはまずいかもしれない。
魔の森というのは森全体が何かしらの魔物の縄張りとなっている。
木を切り倒せば、そこからその辺りを縄張りとする魔物が森の外に出てきてしまうのだ。
人民聖王国ではその特性を逆に利用して軍を伏せた状態で魔の森の木を切り倒し、出てきた魔物を倒してその魔物の縄張りを開墾するという手法が取られていた。
まあ、魔の森を切り開きすぎて何もしなくても魔物が飛び出してくるくらいに魔物の濃度が高いエリアまで開拓してしまっていたからもうその辺は形骸化してしまっていたのだが。
まあ、とりあえず、魔の森の木を切ってしまうと魔物が飛び出してきてしまう恐れがあるのだ。
「本当に! これだから男っていうのは! 私は他のみんなに連絡して対策を考えるからあんたは少しでも防衛力を上げておいて!」
「わかった……」
アリアはそう言ってきた方へと戻っていく。
(当分ここに腰を下ろす必要があるかな)
魔の森を刺激してすぐ魔物の襲撃があるかはわからない。
すぐに襲撃があったとしても、魔の森の魔物は一度で襲撃が終わるとは限らない。
一度刺激してしまうと最悪数ヶ月は魔物の襲撃を受けることになる。
(自分のせいで村が一つ潰れるとか、寝覚が悪すぎる)
今この村が窮地に立たされているのは俺が迂闊だったせいだ。
その尻拭いくらいはする必要があるだろう。
(でも、この村、柵も堀もないけど、今までどうやって魔物の襲撃を阻んできたんだ?)
見渡す限りの平原には防衛施設のようなものは見て取れない。
ほとんどはボロ家だったが、中央にある少し大きい家だけはしっかりした作りで何度も補修した痕跡があるので、昨日今日住み着いたというわけではないだろう。
(まあ、とりあえず、防衛の準備だけはしておくか)
俺はそう思ってとりあえず、魔術を使って堀を作り始めた。
***
「ちょっと! このバカ! なんてことするんだよ!」
「ちょっとリノ」
俺が収納から取り出した弓の調整をしていると、後ろから女の子の声がした。
声からしてアリアではないだろう。
振り向くと、緑髪の少女が俺を睨みつけている。
今にも殴りかかってきそうな様子だが、そんな彼女を彼女の姉と思しき女性が必死に止めていた。
おそらく彼女たちはこの村の住民で、俺が魔の森に手を出したと聞いて文句を言いにきたのだろう。
後ろからさっきのアリアという少女も追いかけてきている。
俺は彼女たちに向かって頭を下げた。
「すまなかった。魔の森と知らなかったんだ」
「知らなかったで済ませられるかよ! 魔物に襲われたらどうしてくれるんだ!」
「魔物なら全部俺が倒す。それでどうか許して欲しい」
「!?」
俺がそういうと、リノと呼ばれた少女は言葉に詰まる。
顔をあげると驚いたような顔で俺の方を見ている。
当然のことを言ったまでなんだが、何に驚いているんだろう、彼女は。
「魔物を倒すと仰いましたけど、どうやって戦うつもりですか? 魔物は強力です。あなたがたとえ弓の名手だったとしても、弓矢で魔物を倒すことはできませんよ」
「そうか? やり方しだいだと思うけど」
「魔物も倒したことがないような人が一体何を――」
「ワオーン」
俺たちが言い争っていると、魔の森のほうから鳴き声が聞こえてくる。
そちらのほうを見ると、十匹以上の狼型の魔物が一直線にこっちへ向かって駆けてくる。
遠くてはっきりとしたことは言えないが中型犬くらいのサイズだと思う。
まあ、中型犬でもあの数にやられれば人間なんてひとたまりもないだろうが。
「グレイウルフ……」
アリアがそう呟く。
どうやら、あの魔物はグレイウルフというらしい。
「に、逃げないと」
リノと呼ばれた少女が姉と思しき女の子の服を引っ張る。
だが、姉のほうは腰が抜けたようで、ぺたんと地面に座ってしまったままだ。
あの程度の魔物なら別にそこまで恐れることはないと思うんだが。
俺はそう思いながらも手に持った弓を引き絞る。
「ちょっと、あなた矢も持たずに何を……」
「『風矢』『風刃』」
俺は魔術で作った矢をグレイウルフの群れに向けてはなった。
矢は一直線に飛んでいき、グレイウルフの一頭に突き刺さる。
突き刺さった直後、矢を起点に無数の『風刃』が四方八方に飛び散り、グレイウルフの群れを倒した。
その場にはグレイウルフだった魔石だけが残されている。
「すっげー!!」
俺が弓を下ろすと同時に、後ろから大きな声が聞こえてきた。
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