第12話
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四越デパートの担当と広報がさっそく取材に来たが一様に感嘆の声で、まさかのまさか・・大変楽しみだと言って帰っていった。高麗陶器仕様の3点というのはある陶芸本に載っていた写真をヒントに、超能力で頭を整理してレベルをそれぞれ国宝と重要文化財クラスにセットして変化を加えたオリジナルである。異次元焼きでものの数分でできてしまったものだ。
大井戸茶碗はすべての伝世品で30個ということだが、ほとんどが大名物や名物になっている。その中でやっぱり喜左衛門井戸が圧倒的にNO1である。当初同程度という構想であったがそれぞれがレベルアップして、喜左衛門井戸の総合力180パーセント他の2点も国宝程度に変更した。せっかくの初個展でこれでもかというぐらいのアクセルふかしてみようと思ったのである。
ところが値段であるが加藤唐九郎の茶碗がバブルの時に2,500万円で売れたのを記憶している。志野焼きの鈴木蔵は今どのくらいしているのだろうか。
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1,000万円は超えたのかな。鈴木五郎や14代楽吉左エ門も同じレベルでではないかな・・さてどうしたものか・・サスケにすずも首をひねっている。いくらいいものを作っても受賞歴がなくそれに代々の窯を引き継いだのでもない、一般の名もない陶芸作家である。
思い切って井戸が3,500万円で他が1,800万円でどうかなと思った・・・ここで頼りになるのはいつものことながらゴン太である。[ゴンちゃん教えてくれるかな、じゃ~鳴き声1回で1,000万円井戸からいくよ~][ワンワンワン・・・]なんと十回吠えた。ひぇ~1億円かよ~・・ほかは5回だったので5千万円である。これ1個でも売れたら間違いなく日本一の陶芸家になってしまう。
このさいオリジナルの益子琳派もレベルを上げて、乾山に仁清を超えたものを展示することにした。これは日本陶芸史上画期的な発表になる。たぶん、現在の陶芸界では世界一と考えられるレベルである。
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でも冷静に考えたら、喜左衛門を超えるもので1億円は大安で他の2点も国宝級で5千万円はちょっと安いかなと思ったが、まあ最初は話題作りでもいいかと思った。現に予告を見て四越に多くの問い合わせが来ているということだ。
マスコミも話題のインパクトが強く、大騒ぎになっている。さて、一躍スター誕生で注目されるのが分かっているので、当日どのような格好で行くか・・英国屋でビシットきめていくかそれとも陶芸家風に作務衣で草履にするか。または普段着のチノパンでいくか考えたが武州三多摩の藍染作務衣に草履履きで行くことにした。アクセントとして藍染の布にチベット文様を刺繡したバンダナを巻いて行くことにした。
もちろんゴン太は普段は入れないが、特別許可を取って入れるようにしてある。1億円の値段を付けた言い出しっぺには見てもらうのは当然なのである。展示期間は予定より2日延びて12日になった。お金のに匂いがしてきたので、特別延長ということのようだ。
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船橋駅近くの陶芸展では益子琳派抹茶茶碗が1個250万円であるが四越デパートで展示をする新作はレベルを上げたので500万円になった。
問題は売れるかどうかだが、普通だったら集客から購入まで心配をしなければならないが、超能力で購入対象者に気を送り会場に来てもらって購入をしていただく。ただそれだけで全く心配はないのである。結果は見えているが初めての試みなので多少は王様を含めて気にしている。
展示は一般的な方法によるが、高麗茶碗の3点だけは高額なのでプラスチックケース入りにし、高台がわかるように裏からの写真を添付した。デパートの開店1時間前に展示場入りをして入念なチェックをしオープンを待った。
マスコミには前日取材に応じているので、当日は様子を見に来るだけと思われる。[ただいま10時30分四越開店の時間です。]短くも美しく燃えの音楽にのって入場が始まったが、展示場にいきなり20人程度の業者と思われる集団が押しかけてきた。
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当然に来場者リストに名前を書かない連中だ。金の臭いに集まって来たというか、それともお得意さんからの依頼で展示品を確かめに来たのも多いようだ。みんな申し合わせたように大井度茶碗の前で、ウヮーとかウォーとかの唸り声をあげている。
茶道の歴史が始まって以来の最優良品で、一国一城に値するものであるから騒ぐのは当然か。小壺600万円とか徳利ぐい飲みセット250万円とかがちょこちょこ売れ出したが、さすがに5千万円に1億円はまだ匂いもしてこない。たぶん偵察隊がお客様に連絡してからのことになるので、2,3日後が一勝負ありそうである。
益子乾山茶碗も3個売れたので、出足としては悪くない。と、そこに秘書を連れた大企業のオーナー風のお客様がお見えになった。[ふ~むこの3点はお前さんが作ったのかな?土味と釉薬は高麗のものと同じだが、骨董ではないんだな。][はい、私が最近作ったものに間違いありません。]
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[なかなかやるな写真で高台の裏はわかるのだが、実物を見ていいかな。]と透明プラスチックケースを開けようとした。それはう~んと口から出かかった時に、いつものいいタイミングで頭で足を小突いてきて、ワンワンワンとグッドの返事を素早く送った。[茶碗もいいがこの犬もいいな2億円出してもかまわないけどな。」とのたまわって頭をなでている。
3点の高台裏を自分でしっかり確認して王様のサインが記されているのも確認した。いきなり[この3個と他に10個を購入しようと思っているが、高麗は自分用で後はプレゼント用にする。支払いはパーソナルチェックになるがいいかな]ゴン太がすかさず頭で足をつついた。[もちろん結構ですが、作品は終了まで展示して銀行から引き落としできた時点ですぐにお届けに上がります。]
他の10個は簡単に選び秘書から小切手を受け取ると、税込み2億7千5百万円をサインをして支払いを済ませた。売約済みの札を素早く立て、注目の3点は完売である。
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[この次は犬のことでも話したいので、暇ができたら犬を連れて遊びに来てくれるかな][もちろんお伺いします]名刺を見たら電子機械会社の会長になっていた。[ありがとうございました。]ゴン太も最敬礼で、ワンワンワンと吠えて送り出した。
初日ですでに売り上げが3億円を超えて、美術品売り場の責任者がにこやかな表情であいさつに来た。従業員部屋にお茶とお菓子が用意してあるということだ、もうかりゃ下にも置かないというかこんなもんでしょう。交代で休憩を取ることにした。ここの様子が新聞にでるのが明日だから、明後日あたりが忙しくなりそうである。
[今日はゆっり休憩をしながらやってください]まあ有頂天にならずに謙虚にしていればうまくいくような感じがしてきた。騒ぎを聞きつけて一般客も様子を見に入ってくる。うるさ型のオバチャン連も高額品がたくさん売約済み身になっているので顔を見合わせている。
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[私は陶芸品の展示会を見るのが趣味でしょっちゅうここにきているけど、今までのもので最高のものね、特に最近の人間国宝がダメダメのボンクラばっかりだったけども、この作家さんは本物ね、ものが全然違うよ。とくに大井戸茶碗がすごいわ]
他のおばちゃんたちもうなずいている。狭い会場なので50点ほど並べたが21点ほどが売約済みになった。[さあゴンちゃん今日は焼肉だ、いっぱい食っていいぞ。足取りも軽く船橋に引き上げて行った。
さすけとすずと別れて駅前のイトーヨーカ堂でステーキ用肉9枚を買って、自宅で5枚を茹でてゴン太にやり2枚ずつ志野と分け合った。本来ならば3億円も売れて大宴会でもやっていいのだろうと思うが、初めての個展なので気疲れがしてしまって後回しにした。それと3億円の売り上げと言っても半分はデパートに持っていかれてしまうので、たまには新規顧客の獲得でいいがばんたびには出来ない感じもしている。
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次の日はオープンと同時に茶道具商に美術商のお歴々8人が入ってきた[是非にうちと取引をしてください。][もちろん即金で買い取ります。]どの業者も売れて何割のマージンを稼ぐのではなく、すべて買い取り・・・結構なことである。
[まあ、ご存じのようにここの提示額の6割が業者さん達とのおつきあいの金額です。][オリジナルの益子琳派もこれから人気になって値上がってゆくと思うけども、なんといっても高麗茶碗です。種類を増やして、焼いていただけますか。]
[ありがとうございます。販売できるものが出来上がりましたら、皆様にご連絡をさせていただきます。どうぞよろしくお願いします。]志野は今までのお客様の詳細を自分専用のノートに書き込み、もちろんこちらの業者達もチェックしてある。[志野どうだ、いけそうか。][なかなか有望だけど、それぞれ目利きなのではんぱなものは提供できないわ。]と気持ちを引き締めている。
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これで人間国宝以上の人気と実力を兼ね備えた作家になるわけだけども、実際は轆轤もひけずに窯焚きも異次元焼きだからあっという間に最適な方法で焼きあがってしまう。
すなわち写真などを見て構想を練りまた、他と作行がダブらないように気を入れると、自分の方向性が備わった形で作品ができてくる。したがって、雑誌などから作陶の様子の取材依頼があってもNGである。
業者達が帰ってからしばらくするとこんどは韓国人と思われる10人が入ってきた。陶芸の専門家とマスコミの取材のようでややうるさそう。韓国語でなんやかんやと盛んに言っているが全くわからない。陶工のリーダーと思われる年配者が通訳を使って質問をしてきた。しかし約束もしていない突然の訪問なので[プロヒールと作品の説明はしおりに書いてありますので他に何も申し上げることはございません。]と席を立ってしまった。韓国の陶工も大物がいなく、話す必要も全くないのである。
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