カミヒコウキ
南山之寿
第1話 踊るカミヒコウキ
「只今、紹介に預かりました……」
新郎の上司が紹介され、新郎との簡単なエピソードと如何に優秀かという話を織り交ぜ、乾杯の音頭をとる。
本当に優秀なのか、そんなどうでも良い部分に気を取られてしまい、話は半分も頭に入ってこない。ひかりは、シャンパングラスの小躍りする気泡を眺め挨拶の長さにうんざりしていた。せっかくのシャンパンが温くなるなと考えていた。
「乾杯!」
ようやく挨拶が終わり、乾杯へと進む。決めれた時間の中、滞りなく進行させなければならないのであるから、司会者も大変だ。ひかりは、心配しても仕方がないことだとは思ったが。
ひかりは新婦の友人として披露宴に招かれていた。高校からの付き合いで、気心を知る数少ない友人だ。仲間内では、一番早い結婚であった。
ひかりは結婚に憧れてはいるが、自分にはまだまだ早いなと感じていた。そもそも、そんな相手がいないのだから無理に決まっている。
理想が高い訳では無いが少し変わっていると自覚はしている。友人に言わせれば少しどころでは無いというのだから、ひかりとしてはいまいち納得がいかない。
――花が似合う男性
ひかりの理想だ。似合うのはもちろんだが、花に好かれているという万人には分からない基準もある。動物に好かれる人なら、直ぐ見つかるのだろう。
新婦の赤城希とは、高校のダンス部で知りあった。創部して間もないせいか、厳しい上下関係の部活ではなく、和気藹々としたサークル的な部活であった。
公式大会とかがある訳でもなく、文化祭でパフォーマンスをするだけであったが、練習はそれなりにきつかった。
ひかりは、入学式のオリエンテーションでダンス部のパフォーマンスを見た瞬間、あれ位踊れたら楽しいだろうと惹かれ入部した。
希とは同じクラスで、部活の見学に行った時に、お互いに気が付き、どちらからともなく声をかけていた。
「一緒に入らない」
お互いの第一声は同時で、奇遇にも同じ言葉だった。
「普通は、同じクラスだよね、とか、自己紹介する
と思うんだけど。何だったんだろうね」
知りあったきっかけを話す時、必ずと言っていい程この結論に帰着する。何年経っても、変わらないのだろう。
「それ、この間私が言わなかったっけ」
ひかりが言うこともあれば、希が言うこともある。会話なんて、覚えてない位が調度いい。
「まさか、希が一番早くに結婚するなんてね。思ってもみなかったぁ」
右隣に座る、青山美咲が顔をクシャクシャにしながら、呟いた。
涙腺が弱いのか、感情移入が激しいのか。昔から、感動することがあると頬を濡らすことが多かった。今日は、特にだ。お酒のせいもあるかもしれないが、親戚のお姉さん以上の涙を流している気がする。結婚式から披露宴まで、泣いているのではないかと思うのは、気のせいだろうか。
「そうだよね。希は、結婚願望はそんなに無いって感じだったもんね」
ひかりもだが、参加している全員が驚いていた。希は短大卒業後、保育士になった。忙しいとは言っていたが、仕事は楽しかったらしい。恋人を作る気があったのかも疑問だった。
「幼なじみとはねぇ。ドラマみたいな感じだね」
左隣に座る、黒崎由衣がしみじみとつぶやく。高校の友人は、ひかりを含め4人参加している。ダンス部の同期だ。
青山美咲と黒崎由衣、正面に座る小柴奈々。ひかりは、このメンバーと居るときは、全ての嫌なことから開放され、自由を謳歌していたあの頃に戻れた気がして嬉しくなる。
ひかりを含め、同期5人に共通点があった。苗字に、色が付いている。ひかりの苗字は、『白石』。後輩達からは、戦隊ヒーローみたいな、ユニット名を付けられたことを思い出す。
披露宴が司会者の指揮に従って、心地良いリズムで流れていく。二次会には、ダンス部の先輩や、後輩も参加する。久々に会うので、ひかりも楽しみにしている。その前に、一仕事があるのが面倒なのたが、仕方がない。5人の約束。結婚する時は、披露宴で余興をする。まさか、本当にやることになるなんて、思ってもみなかった。
ふとテーブルを見る。紙飛行機だ。希を見ると、紙を広げろとジェスチャーを送ってくる。ひかりは、懐かしいなと感じた。授業中の密談。紙飛行機に書いて、友達に渡し合う。携帯の使用を禁止されていた校則への対抗策。
『よろしくね~(^^)v』
紙飛行機には、そう書かれてていた。楽しんでいるなと、ひかりは思う。他の皆も笑いながら、紙飛行機に書かれた言葉を読んでいた。
「それではここで、新婦希様のダンス部御友人達による、余興をお願いいたします」
司会者の台詞と共に、周りからは拍手が湧く。
「それじゃ、一発かましますか!」
全員で笑いながら、ダンス前の鼓舞を口にした。希は、こちらを見ながら、ニヤリと笑って手を振っている。みんなが大好きだった曲が流れだす。暫くの間、ひかり達は、高校生に戻っていた。
紙飛行機は、音楽を奏でた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます