第18話 予感なんて当たるはずがない
……いくら待っても藍さんはやってこない。
仕事が忙しいのだろうか。それなら仕方ないけど、私は少し気分が下がってしまう。でもこれは仕方がないことなのだから私はおとなしくベットに倒れこんで天井でも見上げていよう。
どうせこの悪い予感も当たるはずがないのだから。
「……久しぶりでございますわね」
「……」
この声は絶対にカガミ様だ。
なんでこんな時に。会いたくないのに。
「……なんで今来るんですか」
「ふっ……ふふ。私がいつ来るかなんてあなたには関係ないですわよね」
「それでも……今は会いたくない」
私はうつむいてそうつぶやいた。
「もう会ってしまったんですから仕方がないですわねぇ? 話でも聞かせていただきましょう」
カガミ様は不敵な笑みを浮かべている。
カガミ様は毎回こんな不気味な表情をして、私を不安にさせる。
「あの、言いたいことがあるんですけど……」
私はもうどうでもよくなってきいてみることにした。
……お母さんのことを。
「なに……?」
「お母さんを殺したこと。これだけは絶対に許しませんがほかのみんながあんなに反応なくすなんておかしいですよ。こんなこと言ってもしょうがないかもしれんません。……けどあれを元通りにするくらいあなたにはできますよね? 神様なら」
私はあおるようにそう聞いた。
カガミ様は不満そうな顔を浮かべていたけど、すぐにおもしろそうだという顔でこちらをにやにやしながら見つめていた。
なぜそんなにもすぐに表情を切り替えることができるのだろう。私にはそんなこと到底できない。
「実際私は殺してませんけどね。……ま、そんなことでいいならやってあげますわよ……すごく面白そうですしね。」
実際は殺していないという言葉に引っかかったけど、どうせ嘘だろうと私はカガミ様にせかすように言った。
「……じゃあ早く……」
「私がタダでやってくれると思っていますの?」
カガミ様は私を馬鹿にしたような口調でこちらを見て言った。
「条件があるのは当たり前ですわよね?」
「条件……って?」
「何にしてほしいですの?……まぁでも私が楽しむものですから私が決めていいですわよね」
カガミ様はそういうと「う~ん」と悩むようなそぶりを見せると、何かを思いついたのか満面の笑みになってこう言った。
「じゃあ……逃げられないようここの周りに結界でもはっておきますわ。それなら私はずっとこれを楽しむことができますものね」
カガミ様はにやにやと笑う。
……そんなことされたら藍さんとの計画が台無しになってしまう。もしかしてカガミ様はこれを知って……?
けど何で知ってるの? 私は藍さんしかいない部屋ではなしていたはずなのに……。
「それで……いいです」
それを知っていたのだとしてもわざわざ言ってしまって、もしも知らないなんてことだったらもう後戻りできないから……。
それならカガミ様が結界をはっていないというわずかな可能性にかけるしかない。それに、これを引き受けた方が私への疑いは少なくなるだろう。
まぁ、カガミ様が人の心を読む力がなかった場合だけ。
「ふふ……わかりましたわ。……なら、引き受けましょう」
「……お願いします」
私がそういったとたん、カガミ様は何か魔法をかけるようなしぐさを見せたが周りには何の影響もなく、カガミ様は満足そうな表情を浮かべていた。
多分これでもう二人は元気になった、元通りだということだろう。
……これが本当なら、すごくうれしい。
「もう元通りだと思いますわ。これで満足?」
「……はい。あともう一つお願いがあります。……もう、私の前に姿を現さないでください」
「ふふ、それは無理ですわねぇ。だってあなたはすごく面白いんですもの。やめられませんわ……ふふ」
カガミ様はすごくうれしそうに言った。
私はたいして何もやっていないのになぜこんなにもカガミ様は私から離れようとしないのだろう。
「……そう、ですか。私はあなたがいると気持ちが落ち込むし気分が悪くなる。…もう会いたくもなかったのに」
私は小さくつぶやいた。
でもそれはカガミ様には聞こえていたようで、カガミ様はにやにやと笑いながら私をもてあそんでいるようだった。
そんなに私の精神をぼろぼろにして楽しいのだろうか。私にはまったくわからない感情だ。
「別に私は気分が悪くなってたってどうでもいいですわ。だってあなたと遊んでられるんですもの。……そうだ。次の犠牲者をあなたに選んでもらいましょうか」
「……次の……犠牲者?」
まだ殺す気なの…? もういい加減にしてよ。
……こんなに殺したって面白くもなんともないじゃない。ただ私たちが絶望するだけ。何の得も得られやしないのに。
誰も助けてくれないし誰も慰めてくれない。孤独感に満ち溢れたこの場所で私が生きていくなんてできる気がしない。
だからこの場所から一刻も早く逃げ出さなければ……!
私は突然立ち上がり、部屋を飛び出していった。
流石のカガミ様もこれには驚いているみたいだった。
なんで……なんで……もうこんなところ嫌だ。助けてほしい。みつけてほしい。
だれもいないの?
「……誰か……! お父さん、おばあちゃん……」
私はもう状況も何も理解できなかった。ただただこの場から抜け出したくて。
……みんな私を嫌ってるから来てくれないの? そうなの?
被害妄想にとりつかれる。
情緒が不安定だっていうのはわかってた。
でもこの状況で冷静なふりを通せるわけがない。
また、意識が遠のいた。
かすかに聞こえたのは、カガミ様の声。
「あなたは一生私から逃げることはできないんですのよ」
もう、いやだ。
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