「秘密」という嘘
第5話 夢?
「麻実ちゃん、朝食できたから早く起きてねぇ~」
「は、はぁい」
……さっきのは、夢……なの……?
夢なら、すごくいいのに。あんなこともう二度と起きなくていい……。
私はみんなのもとへ向かう。
……おなかすいた。
「……おはよう……。……え、お、お母さん……?」
10席ある椅子の一つに座っていたのは紛れもなくお母さんだった。
「あら麻実。おはよう。どうしたの? すごく驚いた顔してるわよ?」
「……お母さん? い、生きてたの……?」
「何言ってるの麻実? 寝ぼけてるのかしら……?」
お母さんは不思議そうに言った。
私はその場に座り込む。
……あれは、夢だった……。
お母さんは、死んでなんかないんだ……。ってことは藍さんも生きてる? ……よかった。
「麻実? 大丈夫?」
「……あ、うん。大丈夫。怖い夢を見て混乱してただけ……」
みんな今日の私がおかしいことに疑問を持っているみたいだ。
やっぱり今日の私はおかしいのかもしれない。
けどあれが夢だったことですごく心が軽くなった……。
「お料理をお持ちしました」
使用人の二人がいつものように料理をもって入ってくる。
「……あ、藍さん……!」
私は思わず立ち上がって言った。
「……な、なんで私の名前を……?」
藍さんはおどろいた顔でこちらを見ている。
……あぁ。そっか、あれ夢だったんだ。だから名前も教えていないことになってるんだ……。
「あ、な、何でもないんです!」
私はあわててそう言って席に座る。
みんなの視線が私に向く。不思議そうに見つめていた。
でも夢で聞いたはずのことなのにはっきり覚えてた。しかも……あの使用人さんは本当に藍さんだった。夢なのにどうしてこんなに正確なんだろ……。
そして朝食が終わり私は部屋に戻った。
「はぁ~」
私はすっきりした気持ちでベットの上に座った。
もうあの夢はみたくないな。今度は絶対あの夢が現実になんてならないように……。
ちゃんと……ってあれ? 私夢で藍さんと何しゃべったっけ? 夢で藍さんが死んでしまう、この火神家につたわる大事な話をしてた気がするんだけど……。
……もう、何も覚えてない……。でも思い出したくもないや、人が死んでしまった夢なんて……。
「麻実様、紅茶をお持ちしました」
「……はい。どうぞ」
私がそういうと藍さんはドアを開けて「失礼します」とつぶやいた。
片手には紅茶を持っている。
そして藍さんはベットの横の小さな四角いテーブルに紅茶を置くと何かを思い出したようにこう言った。
「……あの、朝食の時のことなんですが……」
たぶん、名前を知っていたことだろう。
「あ……、なんだか夢に見た気がするんです。夢であなたと話して、名前を教えてもらったんです。そしたらあなたは『藍』だって……。ま、まぁ信じられないですよね」
「そう、なんですか。私は勝手に名前を名乗ってはいけないといわれておりますので……麻実様が知っていた時はすごく、驚きました…。そういうことだったんですね」
「はい……。驚かせてしまってすみません」
私は苦笑いを返しながら謝った。
「いえ、麻実様が謝ることなどございません」
「いやいや……! そんなに気を使わなくてもいいんですよ! 私の方が年下ですし……」
「でも……こうして火神家の人たちには礼儀正しく頼られるような使用人になるのが私の使命でございますので…。これは…使用人である以上私がやらなければいけないこと。こうなる運命なのです」
「……はは。夢でもそんなこと言ってた気がします。でも私には普通に接してほしいです……っていったら普通に接してくれますかね?」
私は冗談半分で言ってみる。
「それが命令だというのなら致し方ありませんが……」
藍さんはうつむきながら言った。
「……じゃ、じゃあ命令で!」
私があわてて言い直すと藍さんは驚きの表情をこちらに向ける。
「い、いいのですか私なんかが有所正しき火神家の方にそんな風に接しても……」
「はいはい。命令ですよ! それには絶対従わなければならないんでしょう?」
「……そ、そうですが……」
藍さんは申し訳なさそうに私から目を離した。
「じゃあ敬語はそのままでいいですから気遣うような言葉はなしにしてください!」
さすがに私も年上にため口使う気にはなれないから……。
「じゃ、じゃあ……はい。仕方……ないですね。麻実さんがここから出ていくまでの間だけですから…!」
藍さんは少しほほを赤らめて言った。
なんだかこういう生意気そうなこと言ってる藍さんも新鮮だ。
「また来てくださいね~」
「……はい」
藍さんが来てくれたおかげでちょっと考えることが少なくなった気がする。
藍さんと話してるのが私にとって一番楽しいことなのかも。
悩みがすっきり洗い流されてる感じ。
……ていうかあの藍さんが生意気いう姿もうちょっと見てみたいな…。今度頼んでみようかなぁ……。命令ですって……。
ふふ……楽しそう……。
私は一人妄想を膨らませていた……。
これからがちょっと楽しみになったなぁ……。
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