第3話 世の中間違ってるよな
あれから数日経った。
徹子ちゃんに励まされた当日は精神が持ち直した感覚があって、次の日にハローワークに行ってみようかという気になっていたんだけど。
当日になったらどうしてもその気力が湧かなかった。
とんでもないブラック企業を紹介されてしまったらどうしようとか。
相談員にため息を吐かれてしまったらどうしようとか。
そういう事を考えてしまって、足が向かない。
どうすればいいんだ……
かつて俺は仕事をしていたけど。
どうやってその仕事に就くことができたのか、それが分からなくなってきた。
俺、運よく会社員やれてただけなのかも……
気が付いたら、前の公園でまたブランコに腰掛けて呆けていた。
心の片隅で、また徹子ちゃんに会えはしないかと思っていたのかもしれない。
彼女は優しかった。
俺の事を理解しようとしてくれて、心の底から励ましてくれた。
徹子ちゃん……
今の俺の姿を見たら、彼女は何て言うだろう?
また励ましてくれるだろうか?
それとも……
呆れられるだろうか?
「まだ燻っているんですか。情けないですね」
こんな感じで。
……ダメだ。
悪い事ばかり考えてしまう。
ここにいる限り、事態は好転しない。
それは分かって居るんだけど。
俺はどうしても、ここから動けない……
頭の中がぐるぐると、そんな答えの出ない思考のループに陥ってしまったとき。
また、俺に声が掛けられたんだ。
「お兄さん、どうしたのそんなところで」
俺に声を掛けて来たのはジャージの男性だった。
髪は金髪。
短めに刈り上げていて、痩せていた。
「どうって……呆けてます」
答えに詰まり、間抜けな返答を返す俺。
「何かあった?」
俺の隣のブランコに腰を下ろし、その男性は俺に話しかける。
え……? と思った。
「……分かるんですか?」
「分かるよ。人生に迷った顔してるもの」
男性は小さく笑いながら俺の言葉を肯定した。
俺は、自分の事を受け入れてもらえたような気になった。
気になってしまったんだ。
だから……
「実は、俺、失業したんです」
俺はまた、言ってしまった。
見ず知らずの会ったばかりの人に。
親には言えて無いのにな。
すると。
「そっか」
男性はそう応えて。
「世の中、間違ってるよな」
そう続けて来た。
「アンタみたいな人、いっぱいいるよ。理不尽に社会に放り出された迷い人……」
いっぱいいる……俺だけじゃない……
男性の言葉は俺の胸に響いた。
「俺もそうだったんだよ」
キイ、とブランコを揺らしながら、男性。
その言葉に、俺は男性に親近感のようなものを感じた。
「どうしたんですか……?」
俺は思わず聞いてしまった。
そうだった、と過去形で話したのが気になって。
「仕事を見つけたんだよ」
キイ、キイとブランコを揺らして。
男性は続ける。
「どんな仕事なんですか……?」
「世の中のバランスを取る仕事さ」
そこまで言って、こう続けて来た。
「なぁ、アンタもやらないか? 歩合制だけど、かなり稼げるぜ?」
キイ、とブランコを揺らすのを止めて、男性はこちらを向いて言ってくる。
仕事を紹介……?
降って湧いてきたこの話に、俺は驚きと喜びを覚える。
「俺でも出来るんでしょうか……?」
「やる気さえあれば誰でも出来るよ」
そうなのか……。
俺は身体の奥から気力が復活して来るのを感じた。
色々あったけど、俺にまた仕事が降って来た。
これはきっと運命だ! 頑張ろう!
俺は男性を見据えて、頷く。
「是非、やらせてください! 俺の名前は佐伯須流造って言います!」
右手を差し出しながら。
「俺は
有卦子さんは俺の手をガッチリと握り返してくれた。
頑張ろう!
新しい世界で、また頑張ろう!
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