急行列車 ダンジョン行き

カナンモフ

第一章 石棚

ダンジョン行き

ガタン、ガタン、と揺れる列車にはコスプレにも見える格好をした男女が4人。全員が200年前に突如出現した、宝の眠るダンジョンと呼ばれるものの一つへ向かっている。


 「ええと、自己紹介でもしますか?」


 軽量の革鎧に身を包む男が、今回組むことになった[パーティ]に問いかける。全員が無言で頷いた。


 「私は今回の計画立案者である、三井です。得物はこの、長剣ですね」

 

 三井が鞘に入れられた立派な剣を少し上に持ち上げながら言った。


 「俺は吉村、得物は斧だ。ブランクが5年、宜しく」

 「いえいえ、よく手入れされている斧ではないですか。頼りになりますよ」


 この会話は礼儀のようなものだ。一度切りのパーティでも、空気を悪くすると仲間割れになりかねない。


 「わ、わたしはパトリシア! とくいなことはゆみなの! よろしくね!」


 狩人のような服を着た少女が、緊張を隠せていない震え声で言う。


 「おや? 君はちゃんと募集要項を読んだかな? 成人以上に絞った筈なんだが」

 「死ぬ危険もあるようなもんなんだぜ? お嬢ちゃん、帰るんだったら今だぞ」

 「お、おうちにはおかねがないから… わたしがはたらくしかないの… 」

 「まぁ、乗ってしまったものは仕方がない、危険だと思ったら直ぐに逃げるんだぞ」


 三井は渋々納得し、少女の肩を叩く。3人は最後の1人を見る。強化剤を大量に背中のシリンダーへ刺し、西洋甲冑を着た大男を。


 「最後はアンタだ。自己紹介を」

 「キイルトースだ。何階層まで行くんだ?」

 「ぼちぼち4階層ですかね、同僚もいるでしょうし」

 「そうか、じゃあ着いたら起こしてくれ。体の調整をする」


 そう言って、キイルトースは眠りについた。


 「中毒者か、危ねぇ奴だな」

 「あんまり言わない方が良いですよ、理性はありそうです」

 「ちゅうどくって、なに?」

 「その年じゃあまだ知らない方がいい、大人になってからだな」


 三井はダンジョンの現構造を携帯端末を使い調べている。怪物は恐ろしいが、情報を駆使すれば倒すことは出来る。何事も下準備が大切なのだ。


 「ダンジョンに行ったら、何が欲しい?」

 「さらに良い長剣を仕入れたいですね、何本か売買用のも」

 「まほうのつえがほしいの! すてきなおうちをいもうとにたててあげる!」

 「はっはっはっ! 素敵なプレゼントになるだろうなぁ」


 電車が停止する。ダンジョンのベースキャンプへ到着したのだ。


 「起きろ、着いたぞ」

 「ん? ああ、今強化剤を取る」


 キイルトースの背中についた強化剤がテンポ良く抜けていく、甲冑に引かれた擬似血管が稼働する。


 「擬似血管じゃねぇか、身が普段の10倍は軽くなるってやつだろ?」

 「手に入れるのには苦労をした。良し、準備完了だ」

 「では、まずは各自必要なもの、付け足したいものを邪魔にならない程度に補給してください。2時間後に中央広場にて集合しましょう」


 三井がそう言うと、4人はそれぞれ補給場に向かう。危険な遠足の下準備だ。

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