南へ 3
翌朝──
目を覚ましても、ダリュスカインの頭の中からは昨晩の啓示が離れなかった。
思えばなんの確信も持てない、ただの予感のようなものだ。それが本当だとして、どうやって
<有り得ないこともない、か>
食事の時も何処か上の空なダリュスカインを、隣にいる
「南へは……」
言ってから、少しばかり視線を彷徨わせる。
「もう山は冬の気候だから、超えられたものではなかろうな」
結迦は少し驚き、困ったように、
「探しものは、南にあるのかね?」
どこかのんびりした口調で、宗埜が尋ねる。
「そんな気が、するのです」
「──ほう」
結迦は、心の奥がざわめくのを感じながら、その横顔を見つめた。落ち着いてはいるが、張り詰めた空気が辺りにうっすらと漂っている。それに、南とは──
「まあ、山を越えるのは、今のお前さんには一層無理だろうし、船に乗るにも港が遠すぎるな」
「……」
分かりきった答えだ。ダリュスカインは、片手でも食べやすいようにと、結迦が作った握り飯を口に運びながら、また自身の考えの中に戻った。どちらにしろ、この身体状況ではまだ静養が必要だ。片腕での生活にも、もう少し慣れなければ。宗埜は、険しい表情になった彼を汁物を啜りながら眺めていたが、やがて口を開いた。
「方法が、ないわけでもないがな」
突然の言葉に、ダリュスカインは顔を上げる。
「
「……いや」
初めて聞く名称だ。だが隣で、結迦の肩がピクリと、微かに震えたのにダリュスカインは気づいた。
「山脈を越えた南の"
ダリュスカインは眉を顰めた。
「そんな現実味のない話を、なぜ?」
「お前さんが、一級の魔術師と見たからさ」
見返した宗埜の瞳は、呑気な雰囲気とは裏腹に鋭い光をちらつかせている。どういうことだろう。ダリュスカインは考えを巡らせた。
「──魔術師なら、渡れるとでも?」
「いいや。ただ、その祠を造ったのは、上級魔術師だったそうな。そして──どうやら同等の腕を持つ魔術師なら、磁場の変動に飲まれずに通り抜けられるそうな」
ダリュスカインの眉がわずかに動いた。自分は、それに相応しい力の魔術師と言えるだろうか。
「私と結迦がいた
「何──」
思わず身を乗り出した傍で、結迦が目を逸らし黙って俯いている。まるで、この会話から逃げるように。しかし、それを気に掛ける以上に、ダリュスカインは宗埜の話に興味を惹かれた。
「ここから、近いのですか」
「そうさね。二、三時間ほども歩けば──とりあえず、見に行ってみるかね?」
試すような眼差しを向け、宗埜が言った。
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