気の毒な女の子
結局、私が皇帝に嫁ぐことはなかった。
そもそも偉大な皇帝陛下は、年が二十も違っている見知らぬ女の子を娶るような人物ではなかった。本人だってまだ全然若かったし、今になって思えば多分、言えないだけで市井か城内に恋仲の人でもいたのだろう。私の両親の頭がお花畑過ぎただけだったのだ。
私を嫁がせようとしたのは、皇帝が白が好きだったからだとか。私が赤ん坊の頃から、それだけを夢見ていたのにと言われても、アホかという感想しか出てこない。単に北方育ちで、雪を思い出す白が好きってだけだったらしいし。
父はこの件でかえって皇帝の機嫌を損ねたようで、酷く叱責されたと聞いている。
噂が広まると我が家は他の貴族から敬遠されるようになり、次第に没落していった。振り返ってみれば、華やかな生活など私の人生でもほんの一瞬に過ぎなかった。
私の婚姻と共に献上する予定だったらしい白銀の鎧と槍を、借金してまで特注で作ってしまったのが良くなかった。下手にプライドがある分、この目立つ恥の一式を売り払うこともできない。
そうして落ちるとこまで落ちてからはもう凄かった。
まず私は拾われた孤児で、両親とは血が繋がってないことを暴露された。別にそれで他の兄弟と扱いが変わるとかはなかったけど、前から抱いていた疎外感は一層増した。
城下町の大きなお屋敷は売ってしまって、田舎のボロ屋敷に引っ越した。口ばかりの貧乏貴族だと悪評ばかり立てられた。
使用人がいなくなったので、全部自分でやらなきゃいけない。でも、そのやり方を教えてくれる人もいない。
両親は金の工面ばかり考えるようになって、子どもたちには目もくれなくなった。兄弟たちは自分を守るので精一杯で、それで私は、自分の名前も忘れてしまった。
そのうち皇帝が殺されて、内乱が始まった。
私と結婚したかもしれない、見たこともない人が死んでしまったのは少し悲しかった。その人が一生懸命作った
白は嫌いだったけど、あの真っ白な城下町は綺麗だと思っていた。住人はみんな親切で、騎士の人たちは格好良くて、まるでぴかぴかの宝石箱。
あれをあのお城の窓から見ていた皇帝は、どれだけ誇らしい気持ちだったのだろうか。
いつの間にか、みんな醜く鉄臭くなってしまった。
十六歳になって、すかすかの倉庫から、それでも残っていた鎧と槍を持ち出して、ひとりでこっそり旅に出た。使い方なんて全然知らなかったけど。
気のいい農夫が、頑張って魔獣を追い払ったお礼にと馬を譲ってくれた。馬を手に入れたら、槍で戦うのが凄く楽になって、どんどん倒せるようになった。
気がついたら私は、西で一番有名な、誰より強い希望の騎士。
でも何かが足りなくて、大事なものを落としてしまったような気がしてならなくて、なのに、それを思い出すことすら忘れてしまった。
今の私は魔獣を殺すための兵器。原動力は善意ではなく、感謝すら必要ない。
なんというか、私の人生、皇帝のせいでめちゃくちゃなんだ。
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