第8話
「殿下、女性に興味がなくて。いや、男に興味があるとかそういう意味でもなくて。単純に恋愛をはじめとした『戦闘以外のこと』に特に興味がなくて。その状態でずーっときたものだから、陛下が『本当に女性に興味が全然なかったらどうしよう。すごい美人ならその気になるかな』と言い出して」
「たしかに、将来的にはすごい美人になりそうですけど、マリアベル嬢はまだ十歳ですよ」
「殿下が女性に興味を持つのもあと数年はかかりそうだったから、フランチェスカ様だと婚期を逃すほどにお待たせしそうだったんですが。その妹御なら、ちょうど良いかなと。陛下が」
婚約を妹にスライドさせよう案件の真相を、リノスはララに微笑みながら明かした。
特に微笑ましい内容ではなかったが、すでに公爵は国王から真意を聞いており、その上で「あほ」という罵倒を可能な限り慇懃な形で伝えているとのこと。
リノスによれば、事実を知らなかったのはフランチェスカばかりであったらしい。とはいえ、詳しく説明しようとした公爵の話を遮って飛び出していき、聞くのを拒否していたとのことで、フランチェスカなりにかなり傷ついていたのだろう、と。
「だから、ご自身で殿下に会って確認したいという申し出があったときに、お父上も好きにやらせるようにとのことでしたので……。結果的に殿下とは良い出会い方をしたみたいですね?」
年齢的にはフランチェスカの兄くらいであろうか、落ち着いた態度でリノスはそう言って笑った。
実際に、訓練の場におけるトラブルの後、カールはフランチェスカに興味津々で「どうしても話したい」と熱烈に言ってきかなかったのである。
それをあしらいつつ、フランチェスカはララに「ねえ、これって浮気にカウントすべき? 婚約者以外の女にここまで言い寄る男性、あなたなら許せる?」と耳打ちをしてきたものの。
「年頃といい、魔力の強さといい、該当するのはクロフォード公爵家の我が婚約者の君しか思い当たらない。それにしては、俺が覚えている彼女と髪と目の色が違う。面影はあるようだが」
子どもの頃の記憶のわりにやけにきっぱりとカールに言い切られて、フランチェスカは観念して素性を認めることになった。
そのまま王宮のどこかへ連行されて行ってしまった。
「お二人はきっと、うまくいくでしょうね。だって殿下の目には、フランチェスカしか映っていませんでしたから」
「僕もあのお二人はうまくいくと信じています。とても似ていますから。ところであなたはお嬢様にここまで引っ張ってこられて、ずいぶんと付き合いが良いですね」
「……親友、なので……」
(でもきっと、これからは一歩ひいた関係でしょうか。フランチェスカは殿下にとられてしまいそうな気がしますけど、仕方ないですね)
やっぱり寂しいなと思いつつ、ララは笑って言った。
「私なんか、婚約もまだです。フランチェスカがうらやましいです。どこかにいないでしょうかね、殿下ほどではないにせよ、仕事一辺倒で恋人も婚約者もいないような男性。男爵家の娘ですのでお相手に贅沢な理想もないんですけど。まずは出会いですね」
世間話のつもりだった。
それを聞いていたリノスは、薄く笑って「奇遇ですね、僕も同じことを考えていました。僕はどうですか?」と言った。
世間話だと思いながら、ララも笑っていいですね、と答える。
「フランチェスカが王太子妃になった暁には、私も侍女として王宮に上がれるかもしれませんからね。そしたら職場内結婚でしょうか」
「なるほど。ではまず就職に備えて王宮内でもご案内しましょう」
意気投合して、王宮内を適当に散策して帰宅。
後日。
ララのもとへ、リノスから婚約を申し入れる箔押しの手紙が届くことになる。
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