公爵令嬢のプライドと友情

有沢真尋

第1話

 フランチェスカは、自分が平凡地味顔であることを比較的幼い頃に自覚した。


 キラキラ度が圧倒的に足りていないのだ。

 それはもう、四大公爵家筆頭クロフォード公爵家の長女と生まれ、物心ついたときから栄耀栄華を極めた王侯貴族に囲まれて育っていれば、多少鈍くてもわかろうというもの。

 六歳上の兄も、五歳下の妹も、まばゆいばかりの麗々しい容姿。金色の髪に緑翠の瞳で傾国の美女とうたわれた母によく似ている。


 一方のフランチェスカといえば、栗色の髪に水色の瞳で、これといって大きな欠点は無いが派手さもない平凡な外見をしていた。

 ひとつ、大変良かった点を挙げるなら、両親のうち父親側によく似ていた。このことによって、兄妹とは似ても似つかなくても、公爵夫人の不倫疑惑は回避できた。


 なお、貴族男性にしては珍しいほどの愛妻家で真面目一徹の公爵は、自分に似ていようがいまいが、子どもたちを分け隔てなく愛していた。

 無用な甘やかしこそしなかったが、フランチェスカが兄妹と比べられ、惨めな思いをすることなどないよう、大変気を配っていた。

 そうであるからこそ、フランチェスカが十五歳を迎えたときに、祝福と称して屋敷を訪れた王家の使者から受けた不快極まりない申し出も、「御冗談を」と一切取り合わずに切り捨てた。


 それは――他の公爵家に近い年代の女子が生まれなかったことから、ごく幼い頃に大人の都合で取り決められた王太子とフランチェスカとの婚約の内容変更について。

 後日改めて、公爵は王宮に呼び出され、国王から打診を受ける。


「あまりにも華やかさに欠ける王妃というのは、国民にとっても、外交の意味でも、あまり面白みがない。長子のローレンスが母親の形質をよく受け継ぎ子どもながらに麗しかったので、フランチェスカが生まれたときにも特に心配もせずに婚約を結んでしまったわけだが。こうも地味とあっては……せめて妹のマリアベルの方が王妃にふさわしいのではないかと」


 迂遠なのか直接的なのかよくわからない言い草で「つまり、婚約をスライドしてみない?」と言われた公爵は、無表情で冷ややかに言い放ったという。


「おい、ふざけるな」


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