《修行中の半亜人》:円卓会議②
「恥を知りなさい」
鋼鉄よりも硬質で、氷河よりも冷たい一声が優秀な冒険者たちの心臓を鷲掴みにする。
円卓にいる者たちでさえも、ある者は冷や汗をかき、ある者は呼吸を荒げている。
それはまるで屠殺場を前にして無力に震える子羊のようだ。
「特に、あなたとあなた」
いつの間にか、プラーグと音羽の間に立っていた背の高い女が、二人の肩に手をかけ、その行動を戒めるように軽く叩いた。
先程より、幾分か優しい声音になり、悪さをした我が子を叱るような母性愛のようなものさえも感じられる。
しかし、それがまやかしに過ぎないことを当事者であるプラーグと音羽は良く理解している。
外面に留まらず、内面までをも見透かさんとする冷え切り、観察するような瞳。
形の整った唇に笑みはあらず、その口角は一切上がっておらず、表情筋は動きを止めている。
近くにいるだけでも感じる、圧倒的な暴力的なまでの魔力。
嵐の中に立ちすくむ子供のように音羽は怯えた表情をし、肩を震わせる。
気丈に振る舞っているプラーグではあるが、魔力の乱れに加えて定まらない焦点が彼の内情を明確に表していた。
「遅れてしまい申し訳ない。そのせいで、この惨状が起きているなら私の責任という事になるのかしら」
「いいえ、クリスティーナ様の責任ではないかと」
「あら、チャリオット、あなたも来ていたのね。最近、忙しくてお互いに会えていなくて残念だわ。今度、ギルド間交流も兼ねて、うちでホームパーティーでもいかがかしら」
「喜んで、ちょうど私の方からもお願いしようとしていた所です。メンバーも喜びます」
「良かったわ。詳細については追って連絡しますね」
気さくな性格なのだろうか、、このクリスティーナ・デンという人物は。
最上級ギルド《クラヴィエール》のギルドマスターであるチャリオット・ライファに対して接する態度は慈愛に満ち溢れ、聖女の眼差しと微笑みで優しく話しかけている。
尊顔を仰いでいる者たちは息を呑み、種族を超越した美しさを宿した人物をただ傍観することしかできない。
「クリスティーナ様……ようこそ、円卓会議へ」
円卓会議の議長は最上級ギルドの間で一回ごとにくじ引きで決められ、今年の議長を務めている最上級ギルド《ディアレスト》のギルドマスター、ダークエルフであるエンハウス・バビロンが歓迎の言葉を述べる。
「ありがとう、バビロン。あなたが議長を務めてくれるなら、公正な判断が下されるのでしょうね」
ただ、言葉通りの意味を意図しての発言ではあったものの、中立を保ち続けている《ディアレスト》に対して、《ディアマンテ》派か《ルベリオロス》派という二大派閥への旗幟を鮮明にせよと迫っているかのように感じたエンハウスは苦笑いを浮かべる。
「いつまで呆けた顔をしているの。時間が惜しいわ、早く席に着きなさい」
プラーグと音羽の戦闘により破壊された円卓を押しのけると、魔法で玉座を創り上げたクリスティーナが他の者たちに促した。
もはや誰も驚きはしない。
プラーグは瞳に憎しみを浮かべて席に座し、音羽は感情を宿さない表情で椅子に腰掛ける。
「ここに集いしギルドは要塞都市、ひいては世界を代表する冒険者である。ここでの決定事項は今後五年間の道筋を示す重大な決議であることを忘れること無がないように。冒険者としての矜持を持ち、人としての常識を持ち、人々を導くために働く全ての冒険者に感謝を捧げ、ここに円卓会議の開催を、議長エンハウス・バビロンの名によって宣言する!」
議長であるエンハウスが円卓会議を始動した。
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