第4話 フィリップ殿下の事情
「ボーム侯爵、お可愛らしいご令嬢に失礼を働いたと皆様から思われたら、誠に心外だ」
僕は重々しく口を切った。
「このような私と婚約などと……」
ボーム侯爵は大げさに驚いた。こいつ、いつも思うが芝居が下手だな。
「このようななどと。殿下ほど高貴なご身分のお方はこの世のどこにもおわしませぬ。両陛下をのぞけば」
いや、そんなこと知っているから。お世辞にも何にもならないから。それより、僕の腕をギリギリ締め上げてる、あんたのとこの娘、どうにかしてよ。
「私には婚約者がいる。私は、婚約者がいる男の婚約者を名乗らせるような失礼な人間ではない」
周回回って、僕が悪いように話を盛っていったのですが、理解していただけましたかな? 侯爵。
とりあえず、この女を回収してくれ。この女はどうせ頭空っぽなんだから、僕の言葉の真意なんて読めないに決まっているんだから。
「殿下ぁ」
手を持っていくのは、止めてください。僕、あなたの胸に興味ありませんから。
ロザリンダ嬢に関して文句があるとすれば、ちっとも、なんにも気がついていないということだ。
ご両親が亡くなられたことは本当にお気の毒だった。
だからこそ、頼って欲しかった。
本当に頼って欲しかった。
チャンスだった。頼って欲しかった。
僕の胸に飛び込んで、心の重荷をおろして欲しかっただけだ。僕なら君を楽にしてあげられる。
公爵家の財産は相当なものだ。君のような華奢で愛らしい少女が担う荷物ではない。僕は君より年上だ。優秀な側近だってついているのだ。
一時的に、手元不如意になったとも聞く。君が商人どもなんかと商談をしていると聞いた時は、胸が締め付けられた。
君のドレスくらい何着でも届けさせよう。喪中なので不用だと、目つきの悪いチビ公爵に断られてしまったが。
昨夜は、夜会であの姉弟を見かけた。
なんてことだ! あれほど、夜会などに出席する時には連絡が欲しいと返す返すも頼んでおいたのに!
せっかく王室席から降りて、君のところまで行きたいのに、重臣の娘だとか、軽くあしらえない家格の娘たちが、わらわら湧いて出て、たどり着けない。しかも、君のところのあの目つきの悪いチビ公爵は何なんだ。
僕があのまとわりつく令嬢どもを何とか躱して、君のそばに行こうとすると、するりと移動する。
それも、間に令嬢どもの山を挟むように工夫しやがる。
この間は、側近が小耳にはさんだとか言う話を聞いたぞ。
「姉様、どうして殿下はあんなにも令嬢方と仲がよろしいのでしょう? いつ見ても周りには、若い令嬢方がおいでです。僕は心配です。殿下はもしかしてほかの令嬢がお好きなのではないでしょうか」
まだ、子どものような口ぶりで、ロザリンダに甘えやがって。そして余計な疑いを持たせやがって。この悪魔。イライラする。
まるで見計らったように場所を移動するお前のせいだよ!
おかげで労力ばかりかかり、ちっとも近づけない。それに、もう書いた手紙は五十通ほどにもなるのに、返事がない。
絶対、あの悪魔が隠し持っているんだ。
だがな、かわいらしい弟のふりしてられるのも今のうちだ。
たかが公爵家が何ができると思っているのだ。
それに大体、ロザリンダを見る時の目つきがおかしい。
ロザリンダは絶世の美少女だ。
だからって、ロザリンダを見る時の、その目はなんだ。
僕を見る時は、ゴキブリを見つけたみたいな目つきになるくせに。
この一年間、あの手この手を尽くしたが、喪中ということもあって、お茶会にもパーティーにも誘えなかった。
学園でも、あのチビ公爵がことごとく邪魔しにきやがった。
小さいころから知っているが、僕がロザリンダ嬢に少しでも近づこうとすると、なんだかんだと理由を付けて追い払うのだ。天才的だな。だが、ロザリンダ嬢の前では完ぺきにばれないように、かわいい弟のネコをかぶっているが、僕の目はごまかせないぞ。
もう容赦しない。
そもそも、あんなチビはどうでもいいのだ。
昨夜、母上にお願いした。
手紙がダメなら、使者を遣わすだけさ。
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