第14話 夕 好きです! 黄色

黄色




 大学三年生の冬。就活が始まる頃。私は悩んでいた。




「ねぇ、私、どんな職業が似合うと思う」




 繁華街の外れにある彼のアパート。彼の部屋は1DKの六畳間。部屋の中央にはコタツがあり、そこに二人で温んでいた。彼は横になりながら音楽雑誌を読んでおり、私は彼の向かい側で座りながら、就活情報雑誌を読んでいた。




 彼は私の問いには反応せずにページを進める。




「ねぇ、貴方がちゃんとしてくれれば、お嫁さんでもいいのにな」




 私は自分が読んでいるものから彼に目を移し、いたずらっぽく微笑みかける。彼は雑誌を閉じ、むくっと起き上がるとひと言だけ発っした。




「飯」




 私は表情を戻し、すっと立ち上がる。キッチンに行くと、いつもみたいに夕食の支度を始めた。




 彼はテレビを点け、机に肘を当てながら頬を手に乗せ、好きな番組を探し始めた。




「何がいい~」




 キッチンからいたずらっぽい甘い声で聞いてみる。




「任せる」




 彼は短くそう言いながら好きな番組を見つけたらしい、チャンネルが変わる音が無くなった。若いお姉さんとお兄さんが高い声を出している。楽しそうな子供達の声が聞こえてくる。子ども番組みたいだ。私は右手に持った包丁が少し荒々しく動く中、左手は温かく食材をしっかりと包み込むようにして押さえるようにした。途中、塩と砂糖がわからなくなったりしたが、平気な顔をして作りきった。




 食卓に料理を運ぶ。




「できたよ~」




 明るく、弾んだ声で私は彼に呼びかける。簡単な野菜炒めだ。おかずはそれだけで、あとはご飯があるだけ。




「ごめん、材料少なくて」




 彼は箸を取らずにテレビをぼーっと見ていた。番組は終わりに近いらしく、お姉さん達が子供達と踊りながら戯れて、円を描きながら移動している。




 私はニヤっと笑みを浮かべる。




「子供つくろっかぁ~」




 彼はチラッと私の方を見て、すぐに食卓のご飯を見る。そのまま何も言わずに箸を取った。




「いただきます」




 ぼそっとした声で彼はそう言った。私は表情を戻し、大きなため息をついた。彼はもくもくと食事を摂る。少しして、自分の荷物をまとめ始めながら彼にこう告げる。




「じゃ、私帰るね」




 すると彼は口に運びかけていたご飯をお椀に戻し、箸を置く。そして、帰宅準備をする私とともに外に出る支度を始める。




「どこか行くの」




 首を傾けながら彼に聞く。




「帰るんだろ。送るよ」




 彼はさも当たり前のことのようにそう言った。




 少しだけ嬉しかった。


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