第11話「使命」500文字【陰、プロポーズ、輝く剣】

「我らが秘宝を取り戻し、必ずや国を再建す」

 使命に燃え、B国に侵入した男装の女は、得意の剣術を披露して、王子の護身隊に雇われた。


 王子は心優しい青年だった。

 平和な国づくりの構想に、女は心が和んだ。

 このお方だったら私の国を襲うことも無かっただろう。そして、こうして出会うことも。

 皮肉な巡り合わせを哀しみ、使命も男を装うことも葛藤しつつ、陰に徹して王子に仕えた。


 やがて、B国王が亡くなる。

 葬儀の後、とうとう秘宝を見つけた。革紐と麻布をほどくと、つばに赤い石が輝く剣が現れた。

『城を出る』

 支度を始めると忍びの気配がする。女は剣を握った。

 現れたのは王子だった。

 彼の口から出たのは、想像さえしなかったプロポーズ。

 男装はとうに見抜かれていた。

 

 女は運命さだめを呪った。背後に隠した剣を持つ手が震える。

 一度鞘さやを抜いたら、命獲るまで、この手から剣は離れない。

 秘宝、それは血を吸い続ける闘いの呪い。

「私は魔族の王女なり」

 女の頬を涙がつたう。

 

『もう、よい』

 女は自らの胸を突く。

 平和を見たひととき、愛しさを知った喜び。

 生き残りの役目は、闘いを終えること。


 亡骸と共に剣は砕け、色を失った石が転がる。

 王子は女を抱きしめて、むせび泣いた。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る