【三題噺】 500文字 vs 140文字

小箱エイト

第1話「報復の花」500文字【高架橋、図鑑、テロリスト】

 高架橋の下で時を待つ。

 次の電車が通過したら目的地へ向かう。

 ここは幼い頃によく遊んだ草地だ。腰を下ろし、コンクリートの橋桁に身を擡げた。

 

 刺された脇腹に血が滲む。追手はもうすぐ俺を見つけるだろう。その前に仕事を終わらせる。

 土を掘り起こし金属製のケースを開ける。『報復』という名の爆弾。テロリストという言葉が相応しいとは思わないが、俺はそれを胸に巻きつけていく。


 アザミの花が揺れた。

 昔、幼馴染みの女の子が持ってきた花図鑑の一頁を破って捨てたことがある。「もう絶交!」泣き叫び去ったきり、そのまま一家は引っ越してしまった。

 アザミの花が好きだった彼女。花言葉は報復。俺はその文字を追放したかった。

 

 二十年以上が経ち、彼女は結婚して再び町に戻っていた。

 引き寄せられるように出くわしたこの場所で、アザミはまだ咲いてないね、と微笑んだ顔が美しかった。


 数週間後、彼女の死体がここで見つかった。惨殺を伝える報道に俺は正気を捨てた。町を駆け廻り、幾度か危険な目に遭いながら、殺めた連中とアジトを突き止めた。


 電車が来た。

 俺はアザミの花を握り締め、主犯格が現れる家へと走り出す。

 もう一人の幼馴染み、つまり彼女の夫の元へ。

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