第7話

 私たちは来る本番に向けて入念にチェックを行った。


 その10分後、ライブがそろそろ始まるので舞台裏へと移動するように指示された。


 とは言っても私たちの出番は『YAMA』の二つ前。最後から3番目だった。


 出番までは相当に時間があったので、二人は余計に緊張しているようだった。


 そんな中私は他のアイドルに対する反応を見て、今回はどう動くかを考えつつ順番を舞台裏で待っていた。



「「「頑張って!!」」」


「ひゃあっ!?」


 突然私たちは背後から抱きしめられ、翼が声を上げた。


 振り返ると、『YAMA』の3人だった。


「突然何するんですか」


 別に文句は無いけど、突然何をしたかったのだろう。


「凜ちゃんと翼ちゃんが緊張してたから」


 ヒミコさんは当然のように言った。他のメンバーも付き合っているあたり、頻繁にこういうことをやっているらしい。


「じゃあ私に抱き着いた意味って?」


 ヒミコさんはそう言っているが、二人を抱きしめたのはサクラさんとココロさんだ。この人は私を抱きしめた。


「そりゃあもう可愛いから。二人も可愛いんだけど、何というか気になっちゃって」


「後は私が凜ちゃん、ココロは翼ちゃんが好みだったから」


 サクラさんが本音を漏らした。


「目的ってもしかしてそっちですか?」


 可愛い子を抱きしめたいから緊張を口実に使っただけよね。


「バレたか」


 ココロさんはいたずらがバレた子供のように下を出して笑った。


 思わず私はため息をつく。


「でも緊張はとれたでしょう?頑張ってね」


 二人を見ると、ヒミコさんの言う通り緊張は解れている様子。


「「はい!頑張ります!」」


 私たちは3人の応援を背にステージへと向かった。


『『『magic starsです!よろしくお願いします!!!』』』


 当然ライブは大成功。流石私達ね。



 ライブ終了後、打ち上げに行く直前に私はヒミコさんに呼びだされた。


「何の用ですか?」


「勿論これの話をしたくて」


 ヒミコさんがそう言いながら見せたのは先程の魔法陣。


「それがどうかしたんですか?」


 この魔法陣は戦闘用ではないため現状は危険性は無いけれど、念のためとぼけておく。


「知っているんでしょ?これが何か」


 良く知っているわ。それは生活の為に大規模な魔法を使い環境を強引に整えるために使われていた魔法。私の時代は戦争の際に好き勝手に使うと異常気象でお互いの民が困るからって理由で禁止されていた。



「まあ警戒するよねえ。可愛い!」


 何故か突然抱きしめられた。この人は何がしたいのだろうか。


「警察呼びますよ」


 この人元男とかじゃないだろうか。


「私はトップアイドル!新人と仲良くしてるだけだから問題なし!」


「知名度を悪用する芸能人じゃないですか」


 女同士だから問題なさそうだけど、異性だったら大問題に発展しているわよ。立場を利用してセクハラしたトップアイドル。紙面に確実に乗るわ。


「そうだよ?」


 何の悪びれもせずに言ったよこの人。


「時間が無いんですから早くしてください」


 打ち上げ前の合間を縫ってきているのよ。


「むー。分かったよ」


 ヒミコさんは残念そうな顔をしてはいたが無事離れてくれた。


「ねえアリスちゃん。魔法使いだよね?」


 ストレートな物言いだった。


「そうよ」


 これまでの経緯から全く敵意を感じられなかったので、私は認めることにした。


 仮に敵意を向けていたとしても今持っている魔法陣が空を晴らすというこの快晴の日に何の役にも立たないものである時点で警戒する必要が感じられない。


「お願い、魔法を私に教えてください!」


 目の前の魔法使いは、魔法使いに魔法を教わりたかったらしい。



「はい?」


 あんな大規模な魔法陣を描ける人が魔法を教わる必要があるのかしら?それも魔法使いということしか分からない相手に対して。


「何を言っているか分からないのはよく分かる。でも、私は魔法を教わりたいの」


「それはどうして?」


「私、魔法が使えないの」


「使えているじゃない」


 目の前の魔法陣が立派な証拠。


「私、前世は弥生時代に生きていたの」


「なるほど。魔法陣を使用した大規模な天候変化の魔法以外は使っていなかった時代ね」


「あなたの前世を調べたら、室町時代出身というじゃない」


 どうやって調べたのか分からないけれど、彼女の魔法か何かなのだろう。


「合っているわね」


「文献を見る限り、生活に根差した小回りの利く魔法や、戦闘に使える実践向きの魔法が栄えていると聞いているわ。それを教えて欲しいの」


「それでこの天才の私に相談したというわけね」


 どこまで調べたのかは分からないけど、私に目を付けたヒミコは見る目があるわね。


「魔法に関しても天才なのね」


「勿論。私は何事においても天才よ。付いてきなさい!」


「はい!」


 私は現代で初めての弟子を獲得した。





「魔法を使う時は結果をしっかりイメージして!」


「はい!」


 師弟関係が生まれた後、定期的にヒミコと会うようになっていた。お互い忙しいので月1くらいしかまともな時間を作れないけれど、元々魔法陣を使用していたこともあり、飲み込みは初修者より速かった。


「魔力を出す場所は極力絞ったら威力が出るわ。ホースの水と同じね」


「魔法陣とは逆なんだね」


「アレは魔法陣の線に魔力を行き渡らせることが大事だから範囲を広くしているのよ」


「そうなんだ」


 私はヒミコに室町時代の魔法を教える代わりに、文献から消え去ってしまった魔法陣を教わったり、他の魔法使いに関する情報などを教えてもらったりした。


「そういえばおめでとう」


「何のこと?」


「魔法使えるようになったんでしょ?」


 実は、ここ最近アイドルとして人気が出てきたおかげで信者をある程度獲得できた。そのお陰で魔法を使えるようになった。


「そうね。まだ全盛期には遠く及ばないけれど、この位あればそこらの魔法使いには負けないわ」


 衰えて魔力量が減った時の対策として、独自に魔法の効率化をしていて良かったわ。


「私が全力でやっても勝てないものね」


「年季が違うもの」


 それでも順調にヒミコは魔法が使えるようになっている。


 ここ最近では洗濯物を魔法で乾かすことが出来たらしく、嬉しそうに報告してきたわ。


 そろそろコントロールも良くなってきたし、攻撃用の魔法を教えてあげようかしら。ヒミコが言うには結構な数の魔法使いが芸能界にはいるらしいから。


「あ、次の仕事の時間だ」


「もうそんな時間なのね」


 そんなことを考えていたら、ヒミコが仕事の時間らしい。


「いってらっしゃい」


「いってきます!」


 私はヒミコを見送った後、次のライブに向けての準備を始めた。


「事務所の差ね……」


 ヒミコの事務所は割と大きい所らしいのでマネージャーが全てをやってくれるらしいけど、ウチはそうもいかない。


 まあ人気に合わせたライブの箱をすぐに用意してくれるのはありがたいけれど。ヒミコが言うには大手だと難しいらしい。実際ヒミコと私たちが同じライブに立てたのはそれが大きな理由なわけだし。


 こういう所をしっかり言ってくれればちゃんと大原さんも尊敬されるのにね。


 もし自分の口で言ったら頭叩くけど。


 そんな事より次のライブの心配ね。ヒミコが言うには私たちの次出るライブ位から魔法使いが出てくるらしいのよね。


 大体SNSのフォロワーが5千人を超えたあたりからチラホラ出てきて、2万人を超えたあたりから急増するらしい。とは言っても現代の魔法使いは昔の時代から転生してきた人しかいないらしいからそこまでは居ないらしいけど。


 今回のライブは2万人が大体のラインとのこと。


 私はそれを結構前に超えているんだけどって話をしたら、アイドルとしてライブ活動をメインに稼いだファンとSNSを主軸に稼いだファンとでは密度が違うらしい。


 これまで何組ものOurTuberと仕事をしてきたらしいけれど、魔法を使える人は最低でも20万を超えないといないようだ。


 だから私は使えなかったみたいだけど、ここ最近のライブによって熱烈なファンを多数確保できたらしい。


「とにかく、魔法をもっと使えるようになるために頑張らないと」


 私には目標があるんだから。

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