転生した最強の魔法使いはトップアイドルを目指します

僧侶A

第1話

「そりゃあ勿論。運動やってますから」


 教室に入り、いつも通りの挨拶をして、自分の席に座る。


 私の名前は星野アリス。2021年の日本を生きる女子高生。


 しかし!私はただの女子高生ではない!


 私は!500年以上前、今でいう室町時代に、この日本にて世界を席巻していた大魔法使いである。


 そう。生きていたのは500年以上前。つまるところ、私は転生したのだ。


 何の変哲もない星野家の一員として生まれ、ここまですくすくと育ってきた。


 にしては口調が普通じゃないかって?

 そりゃあ16年もこの世界を生きてきたら現代に染まるってものよ。


 それに、転生してよく分かったけれど精神は肉体に思いっきり引っ張られる。


 ということもあり普通に私は現代日本を生きていますとも。


 運動神経は少し残念だけれど、頭脳明晰で見た目も麗しい。そんな完璧な女子高生、それが私。


 けれど一つ残念なことがあるの。私にとって人生といっても過言ではない、魔法が使えないの。


 別の世界からやってきたわけでもなく、単に昔の人間が未来に来ただけだから普通使えるべきなのだけれど。


 不可解に思った私は、とある事実に気が付いてしまった。


 この世界の人間、神を真面目に信仰していない。


 魔法を使うためには、神に対する信仰の濃度が必要。


 昔は、世界中の全ての人が何かしらの神を信じていたから問題なかったのだけれど、大半の人間が信じていない。


 人口が増えた分、総量は確かに上がっているのかもしれないが、平均の信仰量が減っている。


 だから使えないらしい。まだ江戸時代ではギリギリ使えていたようだけれど、鎖国を辞めた明治時代には使えなくなっていて、魔法に関する記述が途絶えていた。


 魔法を愛し、魔法の為に生きてきた私にとってそれは死活問題。


 だから魔法を使えるようにしたいのだけれど、信仰濃度を上げるなんて不可能。


 そして、もう一つの手段である、自らが信仰を集めること。これも無理。


 自分に対する信仰の場合、濃度とかは関係ないから世界の人口を考えると比較的楽なんだけれど、宗教に対する風当たりが厳しいのよね……


 ただの女子高生が開いた所で信者なんて集まらないわ。ほんと悪事を働いた過去のカルト教祖を憎むわ。


 ということもあり、諦めて普通に生きています。


「おい、昨日のテレビ見たか?」


「勿論、AK坂39凄かったよな!」


 男子が、昨日テレビでやっていたアイドルの話をしている。


 普通アイドルと言えば一桁の人数が多いのだけれど、そのグループは遥かに上回る39人。そこまで詳しくないから分からないのだけれど、実際にはもっといるらしい。


 10人とかだったら好みが居なくても、一クラスを超えるくらいの美女が集まっていたら一人くらい好みが見つかるらしく、それもあって大人気となっていた。


「相変わらず人気だねえ」


 私の友人、秋こと横山秋がアイドルについて話している男達を見てそう話しかけてきた。


「男は可愛い人には目が無いからね。仕方ないよ」


 男は性質上、美人に滅法弱い。実際私が生きていた時代もそれが原因で戦争に発展したことだって何度もある。


「そんなもんかなあ」


「そういうものだよ」


「それでも信者になって金をつぎ込みまくるのはどうかと思うよ」


「信者?アイドルでしょ?」


 アイドルは宗教じゃないわよ?


「聞いたことなかった?信者ってのは、特定のアイドルとかに入れ込みまくって、金や時間を無限につぎ込みまくる人の事だよ。その姿がもはや宗教みたいだから信者って言われてる」


 確かにその光景は宗教かもしれないわね。


「ということはアイドルになれば信仰が集まるということ?」


「まあそういうことになるね。ちなみにアリスなら確実になれると思うよ。可愛いし」


 アイドル……まさかこんな身近な所に魔法を使うための方法があるとは。


 私はその夜、家に帰って部屋に籠り、アイドルのなり方について調べていた。


「ふむふむ、アイドルになるにはオーディションに合格しなければならないのか」


 検索で出てきたサイトには、アイドルになるにはオーディションに合格し事務所に所属する必要があると書いてあった。


 もう一つの方法として、スカウトを受けると書いてあったけれど、田舎なので無理です。基本都会じゃなきゃ無いらしいしね。


 それに、


「私の可愛さなら、どんな事務所も合格確実だもの」


 前世の記憶がある分、自分の顔に対しては客観的に見れているはず。それでも美人なのだから完璧じゃない。


「ということで履歴書送付~♪」


 ものすごく軽い気持ちで送ってみた。


 そして数週間後、


「アリス、よく分からない所から封筒が届いていたわよ。グリーンエージェンシーってところから?」


 やべ、何も言ってなかった。


「ありがとう。一人で開けるね」


「分かったけれど、変な詐欺にかかっていないでしょうね?」


「そんなわけないでしょ!私だよ!」


 色々誤魔化してどうにか自分の部屋に持ち込むことが出来た。


「いくら天下のAK坂と言えども、運営している会社の名前はそこまで知られていなくて良かったわ」


 じゃなきゃ今頃どうなっていたか。


「それよりも結果よ」


 私は恐る恐る封筒を開けてみた。


 結果は合格。


「よし!」


 私は思わずガッツポーズした。いくら合格すると分かっていても合格という響きが嬉しくないわけがない。


「えっと、次の試験がっと……あ」


 無慈悲にも東京に来てくださいと記されていた。


「交通費支給するとは書いてあるけれどさ……」


 東京に向かうってことは日帰りじゃすまないわけで。どこかで一泊しなきゃいけない。


 クレジットカードとかいう便利な板を持っているわけでは無いし、成人もしていない私がどこかに泊まるなんて不可能なわけで……


「お願いします!許してください!」


 両親に頼み込むことになりました。突然の事に困惑する両親。


 そりゃあそうだ。突然自慢の愛娘がアイドルになりたいとか言い出したのだ。


「アリスってアイドルになりたいだなんて話したことはあったかしら?」


 お母さんによる真っ当な疑問。それはそうだ。だって今日なりたいと思ったんだから。


「学校とかはどうするんだ?」


 お父さんは学業の心配をしていた。わざわざ県内有数の進学校に来て、成績トップを飾り続けているからでしょう。


 そのまま進んだ方が未来は安定しているし、稼げる可能性が高いものね


「それに関しては心配なく。大学には行くし、成績も大丈夫よ」


 現代のアイドルは大学に行くことが割と多いらしい。だから進学することに支障は無いし、私の頭脳をもってすれば両立は容易よ。現役で受かってストレートで卒業して見せるわ。


「アイドルになること自体は難易度が高くないかもしれないけれど、生き残っていくのは難しいわよ。それでもやるの?」


 お母さんの目は真剣だった。私の事を大切に思ってくれているのね。


「大丈夫。問題ない。何があっても乗り越えて見せるわ」


「そうか、なら自由にやりなさい」


「お父さん!」


 お父さんの独断で許してもらえることになった。


 お母さんはまだ迷っていたから止めようとしたけれど。


「ま、この話も受かってからだけれどな」


 お父さんがそう言って締めた。


 どうにか許しを得たのだから、ちゃんと合格しないとね。

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