第28話

「そう言う事なら、気兼ねなく全て持って行ったらいいさ」


 ミサからの事情説明を受けて、メイは笑顔で大きく頷いた。しかしその心中を察して、ミサが申し訳なさそうに頭を下げる。


「メイさん、本当にすみません」


「使徒さま、ヤメテおくれっ! 私が代わりに保管をしていただけで、ここにある物は全て使徒さまの私物さ。どうかお気になさらずに」


 メイはミサの背中をポンと叩くと、白い歯を見せて「ニカッ」と笑った。


「ああ、だけど…ひとつだけ我がまま良いかい?」


 そのとき何かを思い出したように、メイが少し表情を改めた。


「え、ええ、勿論」


 ミサの返事を確認すると、メイがひとりで物品庫に入って行く。そしてその後、1本の杖を抱えて戻ってきた。


 青銀に煌めく1メートル程のその杖に、心眼のタグがピンと跳ねる。


(水晶の…杖?)


「あ、それは…っ」


 その杖を見て、ミサも「ハッ」と気付いて口元を押さえた。


「そうあの日、使徒さまを使徒さまと知らず、お客として初めて店に持ち込んだモノさ」


 遠い目で微笑みながら、メイは大事そうに杖を抱き寄せる。


「これだけは手元に置いておきたくてね」


「ええ、構いません」


 同じように微笑みながら、何かを思い出すようにミサもゆっくりと目を閉じた。


「あれは確か…メイさんが私を、おつかいのお嬢ちゃんと呼んだ日の事ですよ」


「いえいえ使徒さまが私を、店番のお嬢ちゃん扱いして、店長を呼ぶように仰った日の事さ」


 そう言ってお互い顔を見合わせて、揃って満面の笑みを浮かべる。


 微笑ましい筈のその光景に、何故だか神木公平の背中を冷たい汗が流れていった。


   ~~~


 メイの再生屋には、決まった営業時間と云うものがない。彼女の都合次第で、臨時休業したり、早く閉店したりする。


 それでも客足が無くならないのは、メイの技術に一定の価値が見出されているからなのだろう。


 そして今日も店を早仕舞いする。


 それが自分たちのためだと悟り、神木公平は少し困った表情を見せた。その意図を察したメイが、少年の腰のあたりをポンと叩く。


「気にするな…と言ってもするだろうけど、これは自分のためでもあるのさ」


「メイさんの…?」


「そうさ。アンタら二人…とくにトーコがサッサと慣れてくれたら、店番を交代で回せるんだ」


 そう言って佐敷瞳子に笑顔を向ける。


「そのために雇ったんだから、期待してるよ」


「は、はい。頑張り…ます」


 少しの気後れは見せつつも、それでも佐敷瞳子はしっかりと頷いた。


「あ、あの、俺は…?」


「何言ってんだいっ! 裏方に素材集め、力仕事だって山ほどあるんだ。シッカリ働いてもらうから覚悟しときなっ!」


 パーンと思い切り背中を張られ、神木公平の呼吸が一瞬止まる。しかし徐々に笑みが込み上げると、シャキッと背筋を伸ばした。


「はい! 俺も頑張ります!」


 スッキリとした表情を見せる神木公平に、メイは大きく頷き返す。それから右手の親指で店の外を指差し、ゆっくりと口を開いた。


「それじゃ、魔法道具でも見に行こうか」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る