第13話

「少し試して良いですか?」


 神木公平は貰ったヘッドホンを着けながら、ミサの方に顔を向けた。その表情からは、好奇心でウズウズしている様子が伺える。


「ええ、構いません」


 ミサは「フフッ」と軽く吹き出すと、ゆっくり大きく頷いた。ミサの返事を確認してから、神木公平はタッと走って距離をとる。


 向こうで手を振る神木公平の姿を見て、佐敷瞳子はゆっくりとヘッドホンを装着した。


「公平くん…聞こえますか?」


 佐敷瞳子がいつもの調子で声を出す。


 次の瞬間…


「おおーっ、聞こえるーーっ!」

「きゃっ」


 突然ヘッドホンから飛び込んできた大声に、佐敷瞳子は驚いてその場にしゃがみ込んだ。


「わ、悪いっ! 思わず声が出ちまった」


 神木公平が、ヘッドホンを首元にズラして駆け戻ってくる。それだけで佐敷瞳子のヘッドホンからは、何も声が聞こえない。どうやら二人ともが耳に当てていないと作動しないようだ。


「大丈夫か?」


 神木公平が心配そうに右手を差し出す。


「大丈夫、少しビックリ…しただけ」


 佐敷瞳子も同じようにヘッドホンを首元へとズラすと、その手をとって立ち上がった。


   ~~~


 武器やら防具やら調理器具。様々な物が所狭しと雑然に並べられた店内に、神木公平と佐敷瞳子は口をポカンと開けて立っていた。


 あの後ミサが、「移動します」と宣言してから杖をコツンと床に突くと、周りの様子が一変する。


 瞬間移動と言うべきか…まるで召喚されたあの時のようだ。


「おや、使徒さま、いらっしゃい」


 突然店内に声が響き、佐敷瞳子がビクッ身体を震わせる。


 そのとき店の奥から、ひとりの少女が姿を現した。


 かなり小柄な少女である。身長が佐敷瞳子の肩ほどくらいしかない。焦げ茶色のストレートな頭髪はツインテールに結い上げられ、「つなぎ」のような薄桃色の作業着を着用していた。


「メイさんに頼みたいことがありまして」


 ミサはメイに微笑みかけると、自身の連れへと視線を移す。


「こちらはメイさん、この店の店主です」


「え、店主? こんな小さな子が?」


 思わず飛び出た神木公平の言葉に、メイが目に見えてムスッとなった。


「公平さん、この方はドワーフ族です。こう見えても、お二人よりずっと年上なんですよ」


「あ…す、すみませんっっ」


 ミサの説明を受けて、神木公平は慌てて何度も頭を下げた。


「使徒さまのお連れでなければ、二度とこの店の敷居はまたがせないところだよ」


 言葉とは裏腹にメイは口を開けて笑顔を作ると、神木公平の前にスックと立つ。


「ようこそ、メイの再生屋へ!」


 差し出された右手を見つめ、神木公平は一瞬困惑した。風習が一緒か分からないが、おそらく握手なのだろう。神木公平はその手を握ると、自身も深々と頭を下げた。


「よ、よろしくお願いします」


 神木公平の反応に満足したのか、メイはニッコリと微笑んだ。

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