第37話 21日目:事後処理
目下の悩みと言えば、ルミナスへの対応力……ではなくヘレネーシュトーゲン皇国についてだ。……もちろんルミナスとの夫婦関係においても悩みしかないけど。
俺は馬鹿だ。
政治云々に詳しいわけでも、そこまで頭が働くわけでもない(戦いを除く)。戦闘力が売りの脳筋戦士をあまり舐めないでもらいたいぜ。
そんなわけで、俺はカマエル王に大体を任せて戦後の事後処理にあたっているのだ。
無論、全て任せきりにするつもりはない。
状況が状況とはいえ、上層部が悪くとも皇国の国民自体に罪は無い。
というより徹底した箝口令で、国民そもそもに状況が行き渡っていない。
そこでカマエル王は、皇国と同盟を組みリング王国と関係の深い一族の長を皇帝にすげ替えた。実質上の属国化である。
捕らえてある元皇帝は、下克上を警戒してか自分の親戚一同皆殺しにしていたので、そもそも拒否権はなかった。
頭良いなぁ……。
頭のよさには感嘆しか抱かないが、これでも俺は次期国王である。そんなこと言ってられないっていうね。
勉強も兼ねての事後処理だし、カマエル王の『やればできる』的な熱い、もとい重い期待が非常に心苦しい。
それはともかく、事後処理としては実に簡単なことだ。
国民に対する王国のイメージ回復としてあるシナリオを用意したのだ。
まず、王城が崩壊した原因を、
『とある魔族の襲撃が起き、城内にいた皇帝と宰相及び部下が殺された。しかし、異変を察知し近くにいた魔剣士が魔族を撃破した。その魔剣士は王国と懇ろにあるため、感謝の意を表明し王国と同盟を組むことになった』という、簡単でありそんな都合の良いことが起こるのかよ、と疑問にも思うシナリオだ。
懇ろ=婚約がバレてしまったことで更に外堀が埋まった気配を感じたけど、もう俺知らないもん。
そのシナリオだが、『魔剣士』の威光は強く、『まあ、あの最強が言うなら……』的な感じで信じた。
いや、馬鹿かよ。
ご都合主義にも程がある……けど、英雄(他称)の名は思ったよりでかい。
本当に信じきってるし。なんだか騙してるようで胸が痛いが、悪いのは皇帝と宰相だしヘイトはあちらに全部どうぞ。
「先生、どうしました?」
「ん? いや、何でもない」
思案に耽る俺に、いつの間にか隣にいたルミナスが声をかける。
軽く手を振って応えた俺に訝しげな目線が刺さるが、ルミナスはため息を吐いてジト目を俺に向けた。
「また何か抱え込んでますよね……。先生だって体は一つなんですから、私に相談してください。……夫婦ですし」
仄かに頬を赤らめたルミナスは、まるで子どもを叱る母親のような口調で俺を嗜めた。
いまだに夫婦と口に出すことに恥じらうルミナスだが、それもまたいじらしく愛おしいというもの。くそ、デレたルミナスが可愛すぎる……っ!
「あぁ、ありがとな。でも、大丈夫。ルミナスはルミナスでやることは多いだろ? こっちは心配しなくても何とかなるからさ」
内心の『ルミナス可愛すぎる』オーラを隠して、ポンと煌めく銀髪に手を置いた。
「もう……」
プクっと頬を膨らまして、不満をアピールしながらも俺の胸に頭を押し付けたルミナス。そんなルミナスの髪を撫で続けた。
あー……まじ天使。
可愛さ、愛おしさ、美しさを超え、俺の脳内には『尊い』の二文字しか無い。
苦労してるように見えて、ルミナスに癒されてプラス値変換されてる俺のストレス。
「……仕事ばかりする先生に罰として、私の修行を見る約束を取り付けます」
「お前どれだけ強くなる気だよ。もう、単騎で国滅ぼせるぞ!?」
「足りません」
拐われたせいか、魔法の修行に念を置いてるルミナスの実力といえば、わりかし俺を超えそうである。先生としての面目がァ……。
心・技・体、揃っての魔法の修行が最も効率良いが、今のルミナスといえば心(500%)・技(100%)・体(30%)状態だ。……運動音痴だもんね、しゃーないか。
それを加味しても強くなろうとする『心』がえげつない。
鬼気迫るとはまさにこのことか。
俺も止めようとしたが、すでに諦めた。
だって、無理してるわけじゃねーし。
きちんと、自分の体力と力量を鑑みた上で最高に効率のいい修行法を取っている。……止められるわけがねぇ……。
「最低でも世界を滅ぼせる程度の力を得ませんと、先生の妻としては相応しくありませんから」
「魔王かっ!!」
「……いっそのこと?」
「おい!?」
「ふふ、冗談ですよ」
俺から距離を取り、真面目に悩むルミナスに叫ぶが、決して冗談とは言い難い強い視線のまま笑う。
……やばいやばい、このままじゃ俺の妻が魔王になる。
「……あのなぁ。お前を守りきれなかった俺が言うのも何だがな。妻を守るのは夫の役目だ。そのためだったら何でもしてやろうと思うさ。だから安心しろとは言わないが、極度に力を求めるのはやめろ。自分の身を滅ぼすことになるし、余計な火種を生む。その結果ルミナスが傷つくのは……嫌だ」
最後は子どもっぽくなってしまったが、『嫌だ』というその一言こそ俺の本心だ。
ルミナスには今まで笑えなかった分、精一杯笑って幸せに暮らしてほしい。
「先生……」
ハッとルミナスが俺を見る。
しかし、それは次の瞬間愛おしげで強かな視線へと変わっていた。
「でも……。強さを求めるだけが私の目的ではありません」
「え?」
呆けた声をあげる俺。
ルミナスは自分の胸に両手を当てて、懐かしむように嬉しそうに笑う。
「魔法は……私と先生の繋がりです。私の希望の象徴です。だから、それを鍛えることこそが先生に近づける唯一の方法。私は誓ったんです。守られ続ける王女でも妻でもなく、先生の隣に立てる。そんな存在であろうと」
「ルミナス……お前……」
今度は俺がハッとさせられる番だった。
気付いたようで気付いていなかった。
ルミナスは守られたいんじゃない。
共に立ち続けたいのだと。
「そうか。ルミナスは強いもんな」
「私なんて……」
「心だよ。強くあろうとする心。お前は誰よりも心が強いんだ。だから、力に溺れることなく真摯に魔法に打ち込める。……分かっていなかったのは俺の方か」
決めた。
ルミナスには俺の隣に立ってもらう。
そのために俺の全ての技と力を持って応えようではないか。
「先生、私を
答えは分かりきっているくせに、ルミナスは俺の口からその言葉を引き出そうとしてきた。
勿論俺は、
「あぁ、
と力強く頷いた。
「じゃあ、先生の仕事が早く終わるように全力で教えますね!」
「え」
「1日五時間は修行ですよ!」
「え」
「ほら、なに惚けてるんですか。魔法の修行ですよ、修行」
イキイキし始めたルミナスを見て、『やっぱり単に魔法狂いなだけなのでは……』と思ったのは内緒である。
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次は戦闘回ですが、来週の日曜日午前0時に投稿します。
早く見たいという方は、サポーター限定で先行公開していますので、もしよろしければサポーターになっていただければな、と思います。
ギフトを頂ければめちゃくちゃ喜ぶので、もしよければお願いします笑
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