第3話

 月神を見ているとイライラしてくる。女の様な端麗な顔立ちに腰まで伸びた髪先を三編みで束ねた様は、客観的に見れば美しいのだろう。しかし、鼻が潰れた今の顔は無様だ。それがまた俺を苛立たせる。

 部屋で二人だけになった後、俺は月神に殴りかかった。とりあえず、顔を殴る。目の少し下の頬骨に拳が当たった。続けて前蹴り。うぇ、と嗚咽をもらし月神は蹲る。さらに蹴る。爪先を立てて突き刺すように。 

 苛つく。蹴るたびにそれは強くなる。この気持ちを晴らすためにさらに蹴る。骨が折れる感触がした。肋骨か鎖骨だろう。

 クックックッ、と俺の声が漏れる。そして、伏した月神を踏みつけた。踵で体重を乗せたそれは、月神の肉を越して骨をきしませる。月神の吐血が畳を汚す。

 

 馬乗になって月神を殴り続けていた。

「ひ…ぐる…ま。くる…ぞ」

 と、弱々しく月神が口に出し窓を指さした。

「お楽しみのところ悪いな」

「躾がなってねえな」

 俺は振り向いて窓から入ってきたそいつに言った。

「この匂い、同類か。見逃してやってもいいぞ」

「当たりかよ。月神出番だ」

 月神は俺の声を聞くと立ち上がった。その脚はふらつき今にも倒れそうであった。

「こいつは、6番だった。お前の番号はいくつだ?まさか、2桁でそこまで調子に乗ってるわけではあるまい」

「15番だ。そういうお前は、何番だったんだよ」

「300番」

「3桁なんて聞いたこともない。落ちこぼれかよ」

「その通りだ。今のお前には関係ないがな」

 月神は前に出ていく。おぼつかない足で歩くだけで精一杯なようだ。

 15番か。十中八九、下級の鬼のなんかだろう。侵入者の拳が月神を貫いていた。月神は吐血しながらもそいつにしがみつく。

「よくもまあ、ここまでボコったよ。しかもそいつに戦わせるなんてよ。次はお前だ。」

「そいつが何か教えてやる。吸血鬼だ」

 月神は牙をたてそいつの首に噛みついた。

「クソが!」

 月神の手が自らの首を締める。そいつはその空きに腕を引き抜いた。

「くびり鬼だったか」

 俺はアタッシュケースを開けて杭を取り出す。首を噛みつかれているそいつは、まだ月神を離せていない。

 俺は月神ごとそいつを杭で刺し殺した。

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