第1章 驚天動地〜混乱〜

出現

「まじで夢だろこれ……このステータスウィンドウも消えないし」


 テレビの画面に映るゴブリン達は、アメリカ軍の銃に苦戦しながらも、圧倒的な数で都市部を少しづつ飲み込んでいる。

 俺は未だに夢じゃないかと頬をつねるが、普通に痛い……夢じゃないな。マジか。


「今流行りの異世界転生? いや、異世界ちゃうよな。現代とWOEがくっついた感じか……?」


 今テレビに映っている常識外れなゴブリンの進軍と、たまたま出てきたこのステータスウィンドウから推察するに……つまりそういう事なのか?

 いや、それにしても流石に信じられない。

 テレビ局のドッキリでしたと言われた方がまだ信じられるが、このステータスウィンドウの説明が出来ないよな。

 それに、こんなドッキリ放送したら普通に後で大炎上しそうだ。今は何でもかんでも炎上する時代だし。

 アメリカは文字通り都市部が炎上してるし……。洒落にならん。


「どうなってんだよマジで……」


 俺は目玉焼きトーストを一気に口に頬張ると、牛乳で流し込んで昼飯を食い終えた。

 とにかく今は少しでも情報を集めた方がいいだろう。

 改めてステータスを確認する。


 アカウント名・サイタマ

 レベル ・90

 メイン職業 ・召喚術士

 サブ職業 ・精霊剣士、聖魔導師、鍛冶師

 STR255

 INT255

 DEX255

 VIT255

 AGI255

 魔法防御255

 属性耐性255


 職外スキル ・ストレージ、メニュー、パーティ編成、調合

 etc......


 WOEの現在のレベルキャップは90。職業を上位職まで複数カンストしている場合は、ステータス上限が255だ。


 うむ、普通のWOEの仕様だな。

 てかストレージとかどうなってんだ……言ったら反応するのか?


「ストレージ」



 ブォン



 出ましたわ……。ステータスに重なるようにストレージ欄が出てきた。ほんとゲームの世界やんけ。


「おっ、触れようと思えば触れられるのか。……ってこれ……。倉庫のアイテムも全部入ってんな。すげぇ量……」


 ストレージ欄を軽く見てみると、キャラ本体が持っていたアイテムの他にも、倉庫や雇っていたNPCのアイテムも含め全て入っている。

 生産職もカンストしていた俺のアイテム量は、消耗薬品、武器や防具その他素材アイテムなど一般戦闘職の者の比ではない。軽く7〜8倍はあるだろう。


「これ取り出せるのか……?」


 試しに回復ポーションを出してみる。選択して、取り出しっと。


「出たわ……」


 そこに現れたのは透き通った青色の菱形の瓶。栓はコルクで塞がれていて中には液体が入っている。

いきなり何も無い空間から出てきたので、危うく落としそうになったが、ちゃんと取り出した者の手に収まる仕様らしい。


 飲んでみるか……。


 キュポン。……ゴクッゴク。


「なんか……ミントみたいな味だな……。それになんか体が軽くなった気が……」


 普通に美味かった。だがこれで確定した。



「これは夢じゃない。んで、何故かわからんけどWOEの仕様が現代に現れてる。まぁ原因はどう考えてもタイミング的に……地震? なのか……?」


 今ある情報ではそうとしか考えられない。そうなると昨夜起こった地震も只の地震では無い……と考えるのが普通のような気がする。



「……もう少し色々試すか」


 どうせ今は無職で暇だしな、アメリカではモンスターが現れてる。ってことは日本もそうなる可能性はあるよな……。こっわ……。

 今の内に試せることはやっといた方が良さそうだ。



 ――――――


 東京 防衛省・市ヶ谷中央指揮所



「状況は?」


「富士米軍キャンプより、V―22 オスプレイが5機発進しました。アメリカ軍基地からの通信は依然途絶えたままですが、官邸にホワイトハウスより入電があったそうです。現在は指令があるまで待機せよとの事です」


「アメリカ沿岸部の被害状況は?」


「そちらも依然として詳しいことは分かっておりませんが……、現地の報道では津波と謎の生物により壊滅的な被害が出ている、と……」



 自衛隊一等陸佐、長谷部利伸は苦虫を噛み潰したような顔でソファに身を沈めた。

 現在進行形で起きている大惨事、原因は不明だが、長谷部の頭を痛めているのは謎の生物の存在である。

 突如として現れたその謎の生物は、圧倒的な数でアメリカ沿岸部を飲み込んだ。生き残りの民間人も、軍隊も等しく飲み込んだ。

 本来こんな事は有り得べからざる事だが、津波により都市機能が麻痺していたのが大きい。軍はまともな対応ができなかったのであろう。

 これが日本で起きたとしたら……考えるだけで寒気がする。なんなのだあれは。



「把握した。各隊いつでも出動できるようにしておけよ!」


「了解!」



 敬礼して部屋から早足で出ていった部下を見送った長谷部は、額に手を当て溜め息を吐くと、未だに山積しているアメリカでの被害の報告書に目を通し始めるのであった。



 ――――――


 静岡県 熱海市


 夏休みには多くの海水浴客で賑わう熱海だが、春の桜が散る今現在では砂浜にも人がまばらだ。

 それに加え、昨夜からの大地震による報道のせいかスーパーやホームセンター、薬局などで既に買い占めラッシュが始まっており、一部を除いて人通りが少ない。


 実家の両親が旅館を経営する吉田さくらは、家の手伝いで近くの馴染みの八百屋へ買い物に出かけていた。

 高低差のある熱海の道を下に降りていき、海岸沿いのメインストリートを一本横に逸れ、古い造りの八百屋が見えてくる。


「あぁ、さくらちゃん。買い物かい?」


「こんにちはおばさん! 厨房でほうれん草切らしちゃって、10束貰えますか?」


「あいよ。いつもありがとうね」


 さくらはビニール袋に入れられたほうれん草を受け取ると代金を渡した。

 すると、海岸の方を見て



「うわぁ、今日は随分と人がいますね。まだ海も冷たいだろうに。サーファーさんの集まりかなんかですか?」


「えぇ? そんな話は聞いてないけどねぇ。さっきまで人なんてまばらだったよ?」


「え、じゃああれは……?」


 疑問に思い、砂浜に目を凝らすさくら。





 そこに居たのは、海岸を埋め尽くすほどの大量のゴブリンだった。





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