3月14日 苦くて甘い、忘れられない味

 中学一年生の今日は熱にうなされて、学校に行きたいのに行けないもどかしさの中、布団にくるまっていた。


 バレンタインに渡したチョコレート。

 小学五年生から片思いしてた彼への贈り物。

 いざ、前にして恥ずかしさのあまり「いつもお世話になってるお礼」だなんて、意気地無しだなって。

 心臓が高鳴って、声が若干上ずって、耳まで真っ赤になって、顔が熱くて、彼の目は見ることが出来なかったけれども。

 それでも、いちばん綺麗に出来たチョコレートを震える手で渡した時自分、人生で一番勇気を出したと思う。


 律儀な彼だから、何かお返し用意してるんじゃないか。

 もしかしたら、私が言えなかった言葉を彼が言ってくれるんじゃないか。


 鼻が詰まって、頭が痛くて、熱が下がらず、涙が滲む。


「お世話になっている」も間違いじゃない。

 あの日、ちゃんと自分の想いを伝えられたのならば。

 貴方が好きだから、貴方に構ってもらいたいが故に勉強してるんだよ。「どっちが先に記録出せるか」って貴方が言ったからグラウンドの隅で一人黙々と練習できるんだよ。

 そんな事実を貴方に打ち明けられたのなら。


 翌日は微熱があったけど、無理を押して登校した。


「何で昨日休んだんだよ、渡す相手がいないとか俺どうしようもないじゃん」って軽く不満をぶつくさ言われて。

 一ヶ月前の出来事を無かったことにしなかった彼がやっぱり好きだなーって思って。

「ごめん、熱出ちゃって来れなかった」ってヒドイ鼻声で言えば、「仕方ないなー」って照れくさそうにちっちゃい封筒サイズの紙袋をもらった。

「お大事になー」って席に戻っていった彼。あの時多分熱上がってた。


 バレンタインの日、ついでであげた幼なじみからは何ももらえなかった。

 一部始終を見ていた幼なじみの彼は「お前ほんと毎年、この時期んなると寝込むよな」ってニマニマしながら言われて、「うるっさいわ」って反抗した私の声は鼻声すぎて、もはや濁音を発しただけのようだった、はず。


 告白なんて結局卒業式の日ですら出来なかった。

 後悔ばっかりで苦い思い出。思い返せば少し酸っぱくて甘い、弾けるような恋の味。


 十八年間の人生で、一番愛しいと思った人。

 高校で失恋した相手も、元彼へもこんな夢中になんてなれなかった。

 新潟駅でばったり会えるなんて、もう無いでしょう。


 いつか会えたらあの日の気持ちを伝えるね。


 忘れられない、私のタカラモノ。


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