第1部 第5話 赤い小箱の秘密 4
仲達は驚いた。月涼がいるとばかり思っていたからだ・・・思わず声に出た。
「誰だ!」
「えっ月涼ですけど。何か?」
ぽかんとする仲達を無視して、早く座れと促す月涼。
必死でその顔をのぞく仲達・・・
「あ、これが女人の時の私なので、ちゃんと覚えてくださいね。」
とたんたんと話す月涼だった。 声色は、月涼だったのでかろうじて仲達の頭が反応できた。
「昨日、これに少し近い形で会いましたよね。慣れてください。中人とはこんなものです。どちらにも見えるように育てられていますから。」
にんまり笑う月涼を見て、ちょっと背筋が凍る思いの仲達に対して月涼は、まぁこんな反応には慣れっこだ。
「もう一方来られるので、茶でも飲みながら待ちましょう。」
今度は、声色を涼娘娘に変えて店の者を呼び、茶と茶菓子を用意させていた。
店の者は、久しぶりに涼娘娘が来たと沸いている様だった。涼娘娘はかなりの人気芸妓のようだ。
茶を持ってきた店の者に仲達は、興味本位で涼娘娘の人気について聞いてみた。
月涼は、じっとりと仲達をにらんでいたが仲達は、全く分かっていなかった。
「そりゃあもう、滅多に表れない幻の芸妓と言われているんですよ。何しろこの美しさに加えて、楽器に唄に舞いまで完璧なんです。一度でも見たことある方は、今度はいつ現れるんだと何度も問い合わせがあるんですから。お客様の様に初めからお茶を酌み交わせる方は、滅多におられません。すごいことなんですこの妓楼では・・・。」
店の者が興奮気味に話して、どんどん話すので仕方なく月涼が割って入った。
「ありがとう。もうそれぐらいで良いよ。」
にっこり笑って下がるように伝えた。
「あっ申し訳ございません。涼娘娘。私も久しぶりに会えてうれしくて」
そう言って、店の者がそそくさと去ると同時にもう一人の客が現れた。
入るなり客人が飛んできた。
「涼麗~!!会いたかったぞ!その姿で!」
意気なり月涼に抱き着いて離れない。
仲達は、ぽかんと口を開けて見ている。
「離れてください・・・!!ったく。何しているんですか!!!しょっちゅう会っているじゃないですか。」
必死で抵抗して離れようとする月涼に対して、愛玩動物にすりすりするかの様な客人。
仲達は、誰だと思いながらも・・・どこかで聞いたことのある声と
「殿下!!!」
月涼から離れないまま、首だけ振り向き客人は言った。
「チュータ・・・外で、その声で、その呼び方で、呼ぶな!!」
少し力が弱まった瞬間、月涼はうまく身をかわして離れた。客人は、奥司書へと自分を送った依頼者その人、東宮殿下であった。
地味な格好で来ているけど・・・後光がさすよな殿下ってと思いながら月涼は、仲達に言った。
「父に連絡したんですけどね・・・来るっと言うから。とりあえず、今後の事と今までの整理をしましょうか。皆さん、お座りください。」
仲達は、なんか変に興奮しているし・・・殿下は満面の笑みで私に近寄って座ろうとするしでとてもやりにくい月涼だった。
ここに皆が集まる少し前に月涼は藍に会いに行っていた。
「おい。おい。藍、起きろ」
夕餉を食べ終わっって満腹で幸福そうに寝ている藍を起こした。
座敷牢で快適生活を送っていたらしい・・・まったく呆れるもんだ。
「藍、お前さ~拉致されてここに入れられてるんだよな?」
ちょっと寝ぼけながら
「あーそうだよ・・」
月涼だと気づいた藍はパチリと目を開けて
「
何いってんだかとあきれる月涼。
「いつ拉致されたんだ?」
とりあえず知ってるけど・・・聞いてみた。
ちょっとふてくされながら
「月と~飯くっただろ~あの後、女官だとおもうんだけど声かけられてさ。で、奥司書に新しく来られた方はあなたですか?って聞かれて違うって答えたんだ。そしたら、奥司書で本書簡が落下してきて散乱してせいで、知り合いがケガをしたかもしれないと聞いて心配でとか・・・言い出すから、誰に頼まれて探ってるんだって凄んで、言ったら後ろから布かぶせられてここにいるってわけ」
「うーん・・・」
余計わからんじゃないかというかなんで拉致されたんだ。しかもここに・・・
父は東宮殿下に聞けとかっていうし。
「女官???」
「あーあれは、絶対女官だよ。話し方とかしぐさで分かる。だてに宮中で仕事してきてないからな~」
と腕を組んで自慢げに言い放つ藍。
「女官だったんだな。分かった、また、来るから。出せるように手配するからもうちょい待ってろ。」
「おう。月、来たから安心した。もうひと眠りするよ。ここ案外快適だし。」
かなり快適らしいここの生活に満足している藍を尻目に
「あーそう・・・なんて奴だ・・・」
とぼやきながら思った。囚われているって感じじゃないよな。
保護だぜこれと月涼は思った。
ちょっと羨ましい気もするな・・・
藍と話をしたということを仲達と殿下に話をして、女官の存在を殿下に聞いてみた。
「すまん。それ東宮付女官だ・・・。お前にちょっかいかけて、馴れ馴れしいのがいるって聞いてなちょっと懲らしめてやろうと・・・」
すまなさそうに頭を垂れて話す殿下に対してなんて軽はずみなことをと怒り気味の月涼。
仲達は、あきれるやら何やらで小箱のことが完全に振り出しに戻ったように思えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます