ノーマル

いとかくし

今日の事[1]  10/15

 四時間目も終って、購買で買ったアップルパイを頬張りながら、5時間目のテストに付け焼き刃の暗記をしていた。近くに座るバンド仲間の「帆波」が、Wordの使い方が分からないと言うから、帆波のスマホを操作していた時


「デート誘うの失敗か」


と通知が落ちてきた。送信主は同じバンドのドラム担当の男子、帆波の彼氏からだ。

 何か見てしまって申し訳なく思って、押し返すように、「私もわからない」なんて言った。


 その出来事から数時間。未だに頭の中に巣食うのは羨望に似た型を取った嫉妬以外の何物でもない。

 どっちから告白したんだろ。

 詰まらない英語の授業、私の方がマシじゃないかと悪態を付きながらも、ずっとそんな感じの事を考えていた。

 勇気を出すコツとかあるんだろうか。聞くつもりは全く無いけど。というか何で私の恋はここまで叶わないのだろう。こんなにも愛しているのに。


 私には、好きな人が居る。

 心の底から好きな人。

 愛しくてたまらない人。

 幼げな笑顔から、眉をひそめ怒った顔、少しお母さんじみた所、でもちょっと抜けてるところ、何から何まで愛おしい。

 なのに。何で。


 何で私の恋はここまで実らないんだろう。


 それもそのはずだ、と割り切っている。


 150程度の低めの身長、大きな金縁の丸眼鏡、頬に散るそばかすに、癖毛の髪をいつも手櫛で解いている。可愛らしい唇はいつでも仄かに色付いて見えた。

 特徴を思えば思う程、その存在が同性であることは一目瞭然とでも言えようか。



 桜。

 



 私は彼女が好きだった。



 彼女との進展の無い関係を目の当たりにするほど苦しくて、今、こうやって筆を取っている。誰かに評価されたいとか、認めてほしいんじゃなくて、ただ、誰でもいいから、この胸に痞える何かをわかって欲しい。誰かが共感してくれることを望んでいる。ただそれだけ。

 いつかこの話が、いい思い出となって心にしまえるようになるまで。

 私は日記のように書き綴ろうと思います。


 ㍶の前で、そんな事を打ち込みながら聞くラブソングはいやに攻撃的に聞こえて、すぐさま曲を変えた。

 貴方の笑顔を思うと、ふと笑顔になって、抱きしめたいと強く思う。その笑顔が自分の物になったらどれほどいいか。


 そんな事あるはずないのに。


 でも私には一つ、決めている事がある。

 高校を卒業して、彼女と会うのが最後になる時、ちゃんとこの気持ちを伝えようって、彼女が好きなんだと気付いてから決めていた。


 それまでの辛抱ではないかと、言い聞かせて、明日も貴方に会って、他愛ない会話ができますようにと、願っている。

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