第二百六十一話 高橋悠里は颯太の恋のアシストをして要と寄り道をして帰ることになる
短縮時間の部活が終わり、悠里がアルトサックスをサックスケースに片づけていると颯太が声を掛けてきた。
「高橋。一緒に帰ろうぜ。家まで送る」
颯太の言葉を聞き咎めた要が剣呑な視線を向けるが、颯太の顔を見ていた悠里は気づかない。
萌花は自分のスマホを手にして美羽とメッセージのやり取りをしている。
悠里は颯太が、悠里といつも一緒に帰っている幼なじみの晴菜と帰りたいんだなと察した。
颯太と晴菜を二人きりにさせるための口実を考えながら、悠里は口を開く。
「あー。えっと、私、ちょっと寄るところがあって……。だから相原くんは、はるちゃんを送ってあげて」
「なんで俺が松本を送らなくちゃいけないんだよ」
不満そうに颯太が言う。
せっかくの!! 恋のアシストを!! 無駄にするのか!!
悠里は苛立ちながら口を開いた。
「相原くんがこの前言ったんじゃないっ。はるちゃんは美人だから一人で帰らせると危ないって……っ」
「俺、そんなこと言った?」
「言いました!!」
悠里と颯太が言い合いをしているところに要が歩み寄る。
「高橋さん。高橋さんの寄り道には俺が付き合うよ。そうすれば高橋さんも松本さんも一人にならないよね?」
「お願いしますっ」
颯太の恋愛の邪魔をしたくない悠里はノータイムで要の提案に飛びついた。
「じゃあ、俺も一緒に」
「相原くん。今、はるちゃんに『今日は相原くんに家まで送ってもらってね』ってメッセージ送るからねっ」
「ちょ、待て、勝手に……っ」
「相原。松本さんのことは任せた。高橋さんのことは俺がちゃんと家まで送るから」
悠里を止めようとする颯太に、要が圧が強い笑顔を向けて言った。
悠里は鞄からスマホを取り出して晴菜にメッセージを送り、要と颯太は言い合いを始める。
美羽とのメッセージのやり取りを終えた萌花は教室内のカオスな様子を見て首を傾げた。
悠里は晴菜にメッセージを送った後、アルトサックスの片づけを終えた。
要も颯太と言い合いをしながらアルトサックスをしまい終えた。
颯太は悠里に話しかけたり、要と言い合いをする方に気を取られてテナーサックスの片づけが進んでいない。
悠里はマスクケースに入れていたマスクをつけて、マスクケースをゴミ箱に捨てる。
要もマスクケースに入れていたマスクをつけて、マスクケースをゴミ箱に捨てた。
「高橋さん。楽器をしまいに音楽準備室に行こう」
「はいっ」
要に促され、悠里は自分のアルトサックスのサックスケースと通学鞄を持った。
要も自分のアルトサックスのサックスケースと通学鞄を持つ。
颯太は焦って自分のテナーサックスを片づけているが、教室を出て行く悠里と要を追いかけることができない。
「要ちゃんと高橋ちゃん、親密だよねえ。……美羽先輩はキツいだろうなあ」
教室を出て行く要と悠里を見送った萌花は小さな声で呟き、自分のバリトンサックスを片づけ始めた。
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