第二百三話 高橋悠里は豆乳鍋を食べて、後片づけをする



悠里が目を開けると真っ暗だった。

自分が強制ログアウトをして自室のベッドに寝ていることを把握した悠里は思わず叫ぶ。


「クエストの佳境で強制ログアウトとか有り得ないんですけど……っ!!」


だがログイン制限時間になってしまったのだから、今日はもうゲームを再プレイすることはできない。

しばらくベッドに横になっていると悠里の目が暗さに慣れてきた。

悠里は横たわっていたベッドから起き上がり、ヘッドギアを外して電源を切る。

それからゲーム機の電源を切った。

ヘッドギアとゲームをつなぐコードは、とりあえずそのままにしておく。


「部屋の電気つけよう……」


悠里はベッドから下りて、部屋の電気をつけた。部屋の中が明るくなる。


「明るいうちにゲームを始めて夜になると、部屋、真っ暗になっちゃうんだよね……」


でも、まだ明るいのに部屋の電気をつけてゲームをつけるわけにはいかない。


「……充電しておこう」


悠里はコードを外してゲーム機器が入っていた段ボール箱にしまい、ヘッドギアとゲーム機を充電した。


「あれから話し合いがどうなったのかめっちゃ気になる……っ。あとマリーと真珠の身体がどうなっているのかも気になるっ。強制ログアウトとかしてごめんね。真珠……っ」


悠里の声が部屋に響く。……愚痴をこぼしてもむなしい。

迷惑をかけてしまった要にお詫びのメッセージを送信した直後、悠里のお腹が鳴った。


「晩ご飯、食べに行こう」


晩ご飯は豆乳鍋のはずだ。

祖母は晩ご飯の時間に遅れても、悠里の分は取っておくと言ってくれていた。

悠里は自室を出てダイニングに向かう。


ダイニングでは祖母が本を読んでいた。祖母以外の家族の姿は無い。

祖母以外の家族はすでに晩ご飯を食べ終えているようだ。

テーブルの上にはガスコンロと蓋をした土鍋があり、悠里の席には空の小鉢と箸置きに置かれた悠里の箸がある。


「お祖母ちゃん。晩ご飯食べに来たんだけど……」


祖母の読書の邪魔をするのは気が引けたけれど、祖母に何も言わずに席に着くのが気まずかったので悠里は遠慮がちに声を掛けた。

祖母は本のページから顔を上げ、悠里に視線を向けて微笑む。


「悠里。今、ガスコンロに火をつけるわね」


「うん。ありがとう」


祖母は読んでいた本をテーブルに置き、土鍋が置かれたガスコンロに火をつける。


「お祖母ちゃん。私、麦茶を飲むけどお祖母ちゃんも飲む?」


「そうね。貰おうかしら」


「わかった」


悠里はダイニングを出てキッチンに向かう。


冷蔵庫から冷えた麦茶が入った容器を取り出してダイニングに戻ると、祖母がグラスを二つ用意してくれていた。

悠里はそれぞれのグラスに冷たい麦茶を注いで、冷蔵庫に麦茶の容器を戻しに行く。

その後、ダイニングに戻った悠里は祖母が作ってくれた豆乳鍋を堪能した後、締めのうどんを一人前食べて晩ご飯を終えた。


「お祖母ちゃん。後片付けは私がやるよ。本の続き、気になるでしょう?」


満腹になった悠里は祖母に言う。

祖母はいつ晩ご飯を食べに来るのかわからない悠里を待っていてくれた。

そして嫌な顔をしないで悠里のために豆乳鍋を温め、締めのうどんを作ってくれて、悠里が晩ご飯を食べ終えるまで一緒にいてくれた。

感謝の気持ちを示すためにも、後片づけは悠里が頑張りたい。


「この本は一度読み終えたものだから、続きが気になるということは無いのよ」


「いいからいいから。本を読まないのなら、テレビとか見てきてっ。豆乳鍋がおいしかったから、後片付けはそのお礼も兼ねてるの」


「そう? ありがとう。悠里」


祖母は悠里に微笑んで、本を持ってダイニングを出て行った。

ダイニングに一人残った悠里は気合を入れて、まずは自分が食べ終えた食器を持ってキッチンのシンクへと向かった。



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