第426話 お出迎え

お待たせしました。


■■■



 寮の前で待っていたのは一時は俺を凄まじく悩ませてくれた人物。


「あ、生徒会長。こんにちは。今日は無理を言ってしまってすみませんでした。お待たせしてしまいましたか?」

「佐藤君こんにちは。いいえ、今来たところです。それに、全然無理なんかじゃないですよ。それと、私はもう生徒会長じゃありませんよ?」

「あ、そうでしたね。時音先輩。今日はありがとうございます」

「はい、よくできました。ふふふっ」


 それは、元生徒会長の北条時音先輩だった。


 先輩はにこやかに笑って返事をしてくれる。以前の恐怖を感じられない。いや、油断したところでばくんって言うのはよくある話だ。気を付けないといけない。


 それはそうと、お屋敷と聞いてすぐに思いついたのが彼女だった。


 元々態度や立ち振る舞いに気品があるのでお嬢様だとは思っていたけど、聞こえてくる噂では本当にそうらしいということは知っていた。そのため、無理は承知で頼んでみたら、なんとあっさりと了承してくれたというわけだ。


「時音先輩。今日もお美しい。ご機嫌麗しゅう」

「あら、佐倉君、ありがとう。葛城さんとキャロさんもこんにちは」

「ん」

「こんにちは。今日はよろしくお願いしますデスよ!!」


 アキが謎のキラキライケメンモードで挨拶をすると、時音先輩は適当に受け流して、シアやノエルとも挨拶を交わす。


「それでは早速行きましょうか」

「はい」


 俺たちは時音先輩の指示で歩き出した。


「え?あれってまさか……」

「すっご……」

「ん」

「リムジン。国ではよく乗ったデスよ」

「ふふふっ。皆さんが来るということで迎えを呼んでおきましたの」


 学校の入り口付近にはリムジンが止まっていた。まさかと思ったらまさかで、時音先輩が呼んだ迎えだった。


 俺とアキが驚いているのに対して、シアとノエルは全然驚いていない。そういえばシアはなんだかんだ高ランク探索者の裕福な家で育った女の子だし、ノエルに至っては元々国では国賓的な扱いを受ける探索者だ。


 リムジンくらい見ることは少なくなかったみたいだ。それに対して俺とアキは一般人。見るだけで少しドキドキしてしまう。辺りを通る人たちも珍しさと驚きで写真をとったり、興味深そうにじろじろと見ていたりした。


「お嬢様」


 俺たちが車に近づくと、一人の好々爺然とした男性が下りてきて時音先輩に呼びかけた。その人は、執事服に身を包み、その服の通りの仕事をしていそうな雰囲気を醸し出している。


「爺、今日はありがとう」

「いえいえなんの。お嬢様のためならばいつでもお迎えにあがります。それでこちらの方々が?」


 二人の様子から気の置けない関係であることが窺えた。


「ええ。実家のお屋敷らしい品物を借りたいみたいだからよろしくね」

「お任せくださいませ。皆さま、お初にお目にかかります。お嬢様の世話役をしておりました。古畑と申します。本日は本邸までご案内させていただきます。よろしくお願いいたします」


 時音先輩との挨拶を終えると、古畑さんは俺たちの方を向き直り、恭しく頭を下げる。


「佐藤と申します。よろしくお願いします」

「佐倉と申します。よろしくお願いします」

「葛城。よろしく」

「ノエル・キャロ!!よろしくお願いしますデスよ!!」


 俺たちもつられて自己紹介しつつ挨拶をした。


「あなたが佐藤さんですか。ご噂はかねがね」

「え?」


 古畑さんは俺が挨拶するなり目を細めて見定めるようにして見つめながら、聞き捨てならないことを言われた。


 俺の噂ってなんだ?

 先輩から何か聞いたのか?


 先輩が何かを言ったのだとしたら物凄く気になる。


「いえ、なんでもございません。それではお乗りください」


 しかし、それも一瞬だった。次の瞬間には先ほどの優しい雰囲気のお爺さんに戻り、今垣間見せた剣呑とした気配はどこかに消えてしまった。


 古畑さんは、後部座席の扉を開け、俺たちに乗るように促す。俺たちは時音先輩が乗るのに合わせて、車に乗り込んだ。


 中は、数人掛けのソファみたいな感じになっていたので、奥から女性陣と男性陣という具合に分かれて座った。


「ひぇ~、これがリムジン。初めて乗ったけど、すっごいな」

「それな」


 アキは度肝を抜かれたせいか、キラキライケメンモードは霧散していた。俺もこんな凄い車に乗るのは初めてなので、そわそわする。


 それに比べてノエルや先輩は自然体そのものだし、シアに至っては王者の風格を感じさせる振る舞いをしていた。


「それでは北条家の本邸に向かいます」


 古畑さんも運転席に乗り込み、俺たちに声を掛けると、すぐに発進する。


「そちらにあるお飲み物はお好きに飲んでいただいて構いませんよ」

「ありがとうございます」

「うっす」


 時音先輩からはそんな風に言われたけど、バーカウンターっぽいところにある飲み物に触れるのが怖くて生返事を返すことしかできない。


「遠慮なくいただきますデスよ」

「ん」


 しかし、何でもない風に適当にジュースを取って飲み始める二人。やはりこの二人は大物であった。


「間もなく到着いたします」


 それから二十分ほど雑談をしていると、古畑さんから声がかかる。


 時音先輩の実家にたどり着いたらしい。

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