第414話 宿泊研修
「急だが、週明け宿泊研修に行くぞ~。準備しておけよ~」
学校が再開して一週間後、先生がホームルームでそんなことを言う。
どうやらうちの学校では九月に宿泊研修という一泊二日間をクラスメイトとともにするという行事があったらしい。
しかし、様々なごたごたによって開催が十月になり、発表が今日になったようだ。
入学してまだ一年も経っていないわけだけど、すでに色々起こりすぎてるから発表が結構ギリギリになってしまうのも無理はない。
スケジュールは、登山して、バーベキューして、下山して、皆で夕食作って食べて、キャンプファイヤーをして、バンガローに泊まって、帰るらしい。
本来であれば、テントを張ってのキャンプになるはずだったんだけど、十月の半ばにずれたことによって気温の影響でバンガローに変更になったということだ。
宿泊研修というよりは林間学校という方が近いかもしれない。
それにしても同級生との宿泊研修か。
寮生として探索者として一日中同年代の人間と一緒にいるというのはいつもやっていることだから、あまり変わらないかな。
そしてのその日はあっという間にやってきた。
「これより宿泊研修を始めます……」
教師によって挨拶と一連の流れの説明を受けて、俺たちはバスに乗車して目的地である埼玉の千メートル弱の山に向かう。約二時間ほどの旅路だ。
「それにしても今更宿泊研修って言ってもな」
「まぁわからないでもない」
「探索者はいつもパーティで泊りがけでダンジョンに潜ったりするからな」
「ん。日常」
「私も国では仲間とよく何日もダンジョンに潜りました」
俺たちは空気四人組でグループを組み、なぜか一番後ろの席を独占している。アキが俺が思ったのと同じような疑問を呈するので、俺たちは同意した。
「でも、探索者じゃない人間も多いし、ダンジョンとは全く別の場所に行くわけだから、また少し違うんじゃないか?」
「そうかもしれないな」
ただ、登山なんて普段はやらないし、キャンプファイヤーもやらない。それに、バンガローにも泊まったこともないからダンジョンとはまた違った一泊になると思う。
俺たちは先生の指示に従い、バス内でレクリエーションをいくつか行うと、気付けば目的地についていた。
「この山結構高くね?」
「私登れるかなぁ?」
「どうしようもなくなったら俺が負ぶってやるよ」
「えぇ~やだぁ」
千メートル弱とはいえ、一般人には登るのはそこそこ大変だ。俺たちは全員探索者だから全く問題ないけど、他の班は基本的に一般人と探索者の混合の班が多いので、ちらほらと男の探索者が一般生徒の女子にかっこつけるそんな話をしているのが聞こえる。
「あぁ~!!俺も一般人女子にあんな風に言いたかった!!」
その会話をアキも耳聡く聞いていたらしく、滅茶苦茶悔しがっていた。
確かに探索者との有用性を存分にアピールできる今回のチャンスを逃したのは痛いかもしれないな。ただでさえ普段女っ気のない生活をしているからなアキは。
「それじゃあ、今からでも別の班に行くか?」
「バカ!!バカ!!今から行ったってもう輪が出来上がってるんだから無理だっての!!」
俺の提案に唾を思いきり飛ばしながら突っかかってくるアキに、俺は探索者の身体能力を駆使してすべてを躱した。
「まぁな」
「そんなことはいいから早速登るぞ」
「へいへい」
アキの言い分に肩をすくめてヤレヤレと頷くと、俺たちは山を登り始めた。
「一瞬」
「そうだな」
シア山頂で言った言葉に同意する。
本来であれば二時間~三時間ほどかかる登山だったけど、班員全員探索者の俺たちにとっては散歩となにも変わらないので、一時間もかからずに登り切ってしまった。
全クラスで一番乗りだった。
他の班は一般人にスピードを合わせなければならないので、ほかの人間がここにやってくるのはしばらく先になるだろう。
「とりあえず横になる」
「私もするデスよ~」
先生もいないから何もすることがない。
シアは草原に寝ころんでぼーっと空を見つめる。地上と比べて雲のスピードが速い。
「あ、あれは魔法少女のステッキに似ているデスよ!!あっちはクジラっぽいデスよ!!」
「ん」
ノエルが雲を指さしながらその形を指摘している。シアはそれに付き合い始めた。
「することもないし、俺たちも寝っ転がるか」
「そうだな」
俺とアキも特に何もすることがないので、ひとまず二人と同じように草原に寝転がり、しばらく空を眺めているのであった。
気付けば気持ちのいい風に吹かれて心地よい眠りに誘われてしまった。
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