第388話 可笑しな連中がいる……

「せやぁ!!」


―ザシュッ


 東雲さんの掛け声で放たれた魔力の矢がモンスターに突き刺さる。


「ギシャアアアアッ!!」


 モンスターは叫び声をあげ、のたうち回った。


「スパイラルアロー!!」


 そこにさらに東雲さんのスキルを使った攻撃が突き刺さる。突き刺さった部分の肉をえぐり取って突き抜ける矢。


 モンスターはあっという間に絶命し、魔石を残して消滅した。


「東雲さん、お疲れ」

「あ、はい、ありがとうございます……」


 彼女は一日かけてなんとか自分からモンスターを倒すことが出来るようになってきた。


 最初のように消滅するまで魔力の矢を打ち続けることもなくなったし、もう少し続ければ本格的なレベル上げに移っても問題ないと思う。俺はレベルについては分からないけど、沢山モンスターを倒していればある程度目的を果たせるはずだ。


 一区切りついたところで、スマホの時計を確認すると、そろそろ夕食にちょうどいい時間だった。


「それじゃあ、そろそろいい時間だから帰るか」

「は、はい。ありがとうございました」


 俺が提案したら、東雲さんは頭を下げてくる。


「いや、気にしないでくれ。俺もいい気分転換になった」


 俺としてはダンジョン救助に関して少し気負いすぎていたと思い直しつつも、どうしても気にかかっている部分があった。


 でも、彼女に付き合うことで束の間ではあるけど、忘れることが出来て気持ちが随分と軽くなったので感謝したいのは俺の方だ。


「さ、佐藤君みたいな人でも……悩むことがあるんですか……?」


 俺の表情から何かを感じ取ったのか、東雲さんが意外そうに俺に問う。


 東雲さんは俺の事を一体なんだと思ってるんだ?

 ロボットや完璧超人じゃないんだぞ?


 そもそも中学時代の空気みたいな立ち位置から抜け出すために頑張ったのに、ステータスはないわ、高校デビューに失敗するわ、悩みまくりだっての。


「そりゃあ俺も人間だからな。悩むことだってあるさ」


 勿論具体的なことは言わないけど正直に答える。


「い、意外です……。毎日楽しそうにしていて……悩みなんてないのかと思っていました……」


 俺の答えに、まさかそんなことがあるのかとでも言いたげに東雲さんが呟く。


「そんなわけあるかよ。毎日悩んでばかりだ」

「そ、そうなんですね……。皆同じなんですね……」


 俺が肩を竦めて答えたら、東雲さんは俯いて黙ってしまった。


 やっぱり何かを抱え込んでるんだよな。


「まぁ俺の悩みなんて取るに足らないことかもだけどな。それより、東雲さんも何か悩みがあるのか?」

「い、いえ、そんなことないですよ……。魔石も回収しましたし……帰りましょうか……」


 レベル上げに付き合ってほしいと言われた時も、何やら悩んでいそうだったので再度聞いてみたけど、東雲さんはハッとした表情になった後、慌てて体の前で両手を振って否定した。


 俺達はそのまま寮へと帰還を果たした。


「あ、休みだし、実家に行くか」


 俺は暫く学校が休みなので、七海とも会いたいし、佐藤家に帰ることにする。


「ラック、実家にいくぞ」

「ウォンッ」


 俺は今日は一緒に遊べなかったラックに指示を出して、そのまま佐藤家のリビングに転移した。


「は?」


 俺は直後、目の前にいた可笑しな格好の連中に思わず素っ頓狂な声を漏らした。

 

「げ!?お兄ちゃん!?」

「え!?普人君!?」

「うそ!?佐藤君が来ちゃったの!?」


 目の前にいる、四人の真っ黒な服を着た人物たちから聞こえてきた焦ったような声は、良く聞き覚えのある声だ。

 

 三人はアワアワと慌てふためいている。


「ん」


 一人だけ焦ることなく、マイペースかつどう考えても思い当たる人物が一人しかいない女の子が、片手を上げて俺に端的に挨拶をした。


「七海と天音と零とシア……なのか?」


 俺は困惑しながらも、どう考えてもそうであろう人物たちの名前を上げて、目の前の如何にも忍者といった出で立ちの四人に尋ねる。


「これはえっと、そうあれなんだよあれ!!」

「あ、いや、これは違うのよ!?」

「そうそう!!仕方なくこの格好をしているの、うん!!」


 七海達は俺に返事をするわけでなく、言い訳を始めた。


「皆で忍者ごっこしてた。ニンニン」

『あ』


 しかし、シアが手を組みあわせて印を作り、なんのことはなく白状すると、三人は「あちゃー……」という失敗顔になる。


「はぁ……いい年して忍者ごっことか何やってんだよ……特に零……」


 俺はまさか大人の零まで忍者ごっこに興じていたことに愕然とした。


「こ、これに深ーいわけがあるのよ、深ーい」

「どんな理由だよ」

「お、乙女の秘密よ!!」

「乙女の秘密ってなんだよ!!」


 零は俺に対してその恰好をしている理由があると述べるが、その具体的な理由を聞き返したら意味不明な答えが返ってきたので、俺は思わずツッコんでしまった。


 明らかにごまかしじゃねぇか!!


「お兄ちゃん、乙女の秘密は男の人は聞いちゃいけないの。だから乙女の秘密っていうんだよ?」

「はぁ……分かった分かった。今回はそういうことにしておく。でも次に見かけたらちゃんと話を聞かせてもらうからな」

『はーい』


 七海の言葉に今回だけはその言葉に乗せられることにしてそれ以上の追及を止めた。彼女たちは覆面から覗く目元に安堵を浮かべて俺との約束に同意するのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る