第333話 普通が不安

「あ、佐藤くん、佐倉君、お久しぶりですね」

「おお!!これはこれは生徒会長様!!ご無沙汰しております。今日も美しいですね!!」

「佐倉君ありがとう」


 女子寮の前に辿り着くと、そこには生徒会長とその取り巻き的な女子生徒達が待っていた。しかし、今までと違って待ち伏せしていた気配はない。


 アキの奴は更なる美少女の登場に舞い上がってさらに仰々しい態度で挨拶を行い、生徒会長はそれを適当に受け流す。


「生徒会長じゃないですか。そうですね、お久しぶりです。今日はこんな所でどうしたんですか?」


 俺は生徒会長がここにいることを不思議に思って問いかけた。


「ええ、そちらのキャノンさんが入寮されるというので歓迎会をしようかと思いまして」

「ああ、なるほど。そういうことですか!!それでは俺達は失礼しますね。それじゃあ、シア、ノエル、歓迎会楽しんでな」

「おお!!生徒会長様とすぐにお別れするのは名残惜しいですが、またいずれ」


 会長の答えは俺にとっては少し意外で、しかし、それは当然と言えば当然のイベント。女子寮の入寮歓迎会であるなら俺達は関係ないと思い、シアとノエルに挨拶をして俺はその場から去ろうとした。


「佐藤君ちょっと待ってください」


 女子に背を向けて男子寮の方に歩き出そうとすると、生徒会長の声が俺の背に届く。


「えっと、どうかされましたか?」


 俺達はその声に反応して立ち止まって振り返った。


 まだ何か用でもあるんだろうか。


「何か勘違いしているようですが、彼女の歓迎会は男子も合同ですよ」

「え!?そうなんですか!?」


 思ってもみなかった答えに、俺は驚く。


 時期も時期だし、新規で入寮するのは彼女だけ。女子だけと言うことであれば歓迎会も女子だけで済ますのかと思いきや、そうでもないらしい。


「当然でしょう。女子寮でも寮生には変わりないのですから、寮全体で歓迎するに決まっているでしょう?」

「ああ、確かにそうですね。すみません、早とちりしてしまいました」


 なるほど。生徒会長に言われてみれば確かにその通りだ。


 この辺りは校風とかも関係しているだろうけど、この学校は一人だけ入寮しても全員で歓迎するのが当たり前なんだろうな。


 俺は軽く頭を下げて勘違いしたことを謝罪する。


「いえ、気にしないでください。会場は男子寮なので一緒に行きましょう」

「分かりました」


 そういうことなら否やはないので、俺は首を縦に振った。


 ただ、生徒会長があまりに普通の様子なのが俺の不安を駆り立てるけど、気のせいだと思いたい。


「葛城さんとキャノンさんは荷物を置いてすぐに戻ってきてもらえますか?」

「ん」

「分かったデスよ!!」


 ノエルは荷物の整理などがあるかと思ったけど、時間が差し迫っているのか、すぐに戻ってくるように指示を出し、二人は頷いてそそくさと女子寮の中に入っていった。


「そういえば、佐藤君と佐倉君は夏休みは楽しめましたか?」

「それはもう勿論!!仲間とダンジョンで合宿をしたり、海に行ったりして非常に楽しかったです」


 二人が戻ってくるのを待っている間の話題として夏休みを選択する生徒会長。


 聞かれた途端、アキが俺に話してくれた話をとんでもなく楽しかった風に話す。


 おいおい、教室で滅茶苦茶嘆いていたじゃないかよ……。

 その演技は尊敬に値するぞ。


「そうですか!!それはいい青春の思い出ですね!!」

「ええ、そうですね……」


 しかし、生徒会長にニッコリと返事をされると、なんとも微妙な表情を浮かべた。


 やっぱりいい思い出ではなかったらしい。

 見栄なんて張らなきゃいいのに……。


「佐藤君はどうですか?」

「ええ。海外のダンジョンに遠征に行きましたね」


 アキの話が聞けたので、今後は俺に矛先を移す生徒会長。


 俺は当り障りのない感じで答える。


「そういえば葛城さんからお土産をいただきましたね。ご一緒でしたのね?」

「そうですね。俺のパーティメンバーと一緒に行ってきました」


 シアはちゃんとお土産を渡してくれたらしい。

 言葉が少ないから伝わるか心配だったけど、どうやら大丈夫だったようだ。


「ということは天音さんも一緒ですか?」

「はい。それと妹と俺がお世話になった探索者が一人の五人で行ってきましたね」


 誰と行ったのかが気になるようなので、シアと天音以外は、具体的な紹介は控えて説明する。


「なるほど、それは楽しそうですね」


 微笑ましそうに笑う生徒会長。


 なぜだかその余りに普通の会話に、俺は不安を感じざるを得ない。

 生徒会長は一体何を考えているんだろうか。


 前も得たいが知れなかったけど、さらにその底知れなさというか不気味さが増した気がする。


 まるで嵐の前の静けさみたいだ……。


「ええ、一度は行ってみたいと思っていた観光地にも行けましたし、なかなか楽しかったです」

「へぇ、いいですねぇ。あ、二人が戻って来たようですね」


 俺の不安がむくむくと成長していく中、どうやらシアとノエルが戻って来てくれたようで俺は少し安堵した。


 シアとノエルと合流した俺達は、一緒に男子寮へと歩き出した。




 

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