第17回 ミコト編④
かつての顔なじみと別れた私は、狩人ギルドへと向かった。目的はクエストを受けてお金稼ぎをすることだ。
このMOAOにおいて戦闘職プレーヤーがお金を稼ぐ手段は二つあり、一つ目はMOBがドロップするアイテムを売却すること。もう一つが、ギルドから出されるクエストを攻略することで貰える報酬の二つだ。
もう少し細分化すれば他にも手段はなくはないが、メインのお金稼ぎの方法としてはこの二つが挙げられる。
私も例に漏れずお金を稼ぐべく、狩人ギルドへとやってきた。
ギルド内はこれといって特質すべきものはないので言及はしないが、一部のプレイヤーが新人のプレイヤーに絡んでいく“異世界ロールプレイ”なる遊びのようなことをやっていた。……お前ら、クエスト受けろよ。
幸いと言うべきかそれとも私のことを知っていたのかはわからないが、そいつらが私自身に絡んでくることはなかったので、早々に受付カウンターへと向かう。
「いらっしゃいませ、狩人ギルドへようこそ。本日はどのようなご用向きですか?」
「クエストを受けたいのと、あとはフィールドで手に入れたアイテムを換金したいんだけど」
「畏まりました。その前にギルドカードの提示をお願いします……確認しました。ではミコト様、どのアイテムをお売りいただけますでしょうか?」
受付嬢が言い終わるとすぐにウインドウが表示され、現在所持しているアイテム一覧が表示される。
とりあえず、今回手に入れた素材全てを選択し、確認ボタンをタップする。
「合計で3000マニーになりますが、よろしいですか」
「オーケーよ」
相場がわからないため、売却額が適正価格か不明だが、公共の施設であるギルドがそのような不正をするとは思えないので、素直に頷く。……大丈夫だよね?
これで現在の所持金は、チュートリアルで入手した報酬も含めて4500マニーほどになった。
《ショップが使えるようになりました》
どうやら何かのトリガーを引いたらしく【ショップ】という機能が使えるようになったらしい。
「おめでとうございます。ショップについてのご説明は必要でしょうか?」
「お願い」
新しい機能が追加された時は、ちゃんとその説明を聞くというのが私のポリシーだ。あとになって「そんなの聞いていない」などという醜態を晒さないようにするためにもだ。
彼女の説明によれば【ショップ】という機能はその名の通り、アイテムや装備を売買できるシステムで、RPGでいう所の道具屋や装備屋といった所だ。
フィールドで入手したアイテムはギルドで引き取ってもらうことができるが、場合によっては戦闘中だったり、単純に行くのが面倒などと思うプレイヤーは少なくない。
だが【ショップ】であればいついかなる時も使用可能であり、ギルドへ行かなくともフィールドで手に入れたアイテムをそのまま売却することも可能だ。
「戦闘リザルトのあとに出る“売却しますか?”とどう違うの?」
「そちらも【ショップ】の機能の一部となっております。今回ギルドで直接取引を行ったことで、完全な形で【ショップ】を利用できるようになりました」
「なるほど」
どうやらMOBからドロップアイテムを手に入れる度に出ていたあれは【ショップ】機能の一部であったらしい。……それにしても、毎回聞いてくるから正直ウザかったんだよねー。
「これって設定でオフにできないの? 毎回出てきて鬱陶しいのだけれど」
「そちらも今回から設定で通知をオフにできるようになっておりますので、設定していただければ毎回出ることはなくなります」
「そう」
「次に【オークション】についてですが……」
それからショップ機能の中に競売方式で行われる売買や、特定のプレイヤーを指名して取引することができる機能もあると説明を受けた。
一応話を聞いてみたが、一度で理解できるほど私の頭は良くないので、使っていくうちに覚えるだろうという結論に至った。
「以上で説明は終わりですが、なにかご不明な点はおありでしょうか?」
「大丈夫よ、問題ないわ」
「では次にクエストについてですが、以前ご登録いただいた時にも説明を受けているはずですが改めて説明させていただきます」
クエストについては他のゲームと同じく、特定の目的を達成すると報酬が貰えるミッションのようなものだ。
ギルドに登録した時は「チュートリアルがクリアできていないため、クエストを受けられませんので、お先にチュートリアルをクリアしてきてください」とギルドを追い出された。……まあ、直接的には追い出されてはいないけど。
クエストにはランクによって管理され、難易度が高いものほど高ランクに振り分けられ、特定のランクを持っていないと受けることができない場合がある。
ちなみにギルドランクは木級 (ウッド)から始まり、石級 (ストーン)、鉄級 (アイアン)と続くらしい。らしいというのは、現在判明しているランクがその三つのみということで、それ以上のランクは解析班や運営の情報解禁待ちだということだ。
「ギルドランクを上げるにはどうすればいいの?」
「はい、ギルドのランクはクエストのクリアした回数と、ギルド独自で出されるポイントを特定数獲得した方のみが昇級することができます。また、一定数のランクからは先の条件に加えてギルドが指定するクエストをクリアした方のみが、上位のランクに昇級する資格が与えられます」
「ふーん、ちなみにランクの数ってどれだけあるの?」
「……それはギルドの秘匿事項に引っかかりますので、お答えできません」
「そう、わかったわ。じゃあ今の私が受けられるクエストを教えて」
「現在ミコト様のランクは最低ランクの木級ですので、一つ上のランクである石級のクエストまでであれば自由に受けることが可能です。受注可能リストはこちらになります」
彼女がそう言うと、ウインドウが表示されそこにはクエストが記載されていた。低ランクということもあって、クエストの内容は大したことはなかったが、これもこのゲームを楽しむ余興だと思ってクエストを受けた。
受けたクエストの詳細は主にMOBの討伐系クエストで【スライム三匹の討伐】・【まんまるリス五匹の討伐】・【コモンウルフ三頭の討伐】の三つだ。
報酬もそれほど高額ではなく、平均250マニーというショボいものだったが、クエストを受けてから依頼を達成するまでの流れを確認するためにも、簡単な方がいいという理由からこのクエストを受けることにした。
ちなみにクエストの期限はなく、失敗しても違約金などの発生はない。ただし、高ランクのクエストになればその限りではないというのは受付嬢の談だ。
「クエストの受付を完了しました。お気を付けていってらっしゃいませー」
彼女の言葉を背中に受けながら、私は狩人ギルドをあとにする。
そのままフィールドに赴きたいところだが、せっかくお金が手に入ったのだ。何かに使いたいところだが……。
「そうか、こういう時に【ショップ】か……どれどれ」
ギルドの受付嬢に教えられた通り、さっそく【ショップ】の機能を活用してみることにした。
するとそこには回復アイテムやドロップアイテムはもちろんのこと武器なども販売されていた。しかしながら、どれもNPCの店で売っているものと同等のものしかなく、これでは買ってもほとんど意味がない。
「うーん……うん? これは?」
それは他の武器とは見た目からして違う武器だった。他の武器はそのほとんどが木の剣だったが、私の目に留まった剣は石でできていたのだ。
他の武器とは明らかに毛色の異なる武器に思わず、詳細を確認する。
【石の剣】:どこにでもあるありふれた石製の剣。木製と比べて耐久力と攻撃力は向上しているものの、全体的には物足りない。 レア度:コモン 耐久度:80 / 80 効果:【STR 上昇 極小】品質:最低
「他に目ぼしい武器もなさそうだし、これを買っておこう」
これ以上の武器があるかもしれないが、なんとなくこれがいいと感じ迷わず購入した。値段は300マニーと手ごろだが、耐久度があるためあまり無茶な使い方はできない。
他に何かいいものはないかと探してみたところ、製作者が同じタイミングで売りに出したばかりなのか【石の槍】・【石のナイフ】・【木のバックラ】も見つかりソッコーで購入する。
「合計で1450マニーか、決して少ない出費じゃないわね。それに初期武器以外は耐久度があるから、次からはそれにも気を付けなきゃいけないわね」
早速手に入れた装備品を装着しステータスを確認する。詳細はこちら。
【武器】:石の剣(【STR上昇 極小】耐久度80)
【頭】:なし
【胴】:ビギナーズシャツ(【VIT上昇 最小】耐久度∞)
【腰】:ビギナーズパンツ(【VIT上昇 最小】耐久度∞)
【腕】:木のバックラ(【HP+10】、【VIT上昇 最小】耐久度60)
【脚】:ビギナーズシューズ(【AGI上昇 最小】 耐久度∞)
【装飾品】:なし
ちなみに石の槍と石のナイフも同じく【STR上昇 極小】が付いており、H+だったSTRが今ではG-になっていた。
所持金に余裕があったので、防具を探してみたがほとんどが武器だったため、防具は諦め回復アイテムを補充するに留めた。
装備が強化されたところで、さっそくフィールドへと赴き、クエストで指定されたMOBたちを狩っていく。
「そうだ、新しく覚えたアーツを試してみよう」
【初級剣術】がレベル5に上がった時に覚えた【スラッシュ】というアーツを使ってみたが、簡単に言えばクリティカルヒットのような攻撃を当てている感じだ。
通常の攻撃よりもダメージを与えている感覚があり、当たった時に爽快な効果音がする攻撃……ね? クリティカルヒットみたいでしょ?
もう一つの【鑑定精度上昇Ⅰ】に関しては、常時発動しているパッシブ系のアーツとのことだったので、試しにMOBやドロップしたアイテムなどを鑑定してみると、最初に鑑定した時よりも詳細な情報が得られた。
といっても、まだまだその精度は高くないらしく、精々が手に入れた場所などが追加されている程度であった。
しばらくそのままMOBたちと戦い続け、ドロップアイテムと経験値を稼ぎ続けた。その集大成をご覧いただこう。
【名前】:ミコト
【職業】:戦闘職
【ステータス】
HP 90 レベルアップまであと260
MP 17 レベルアップまであと30
STR G レベルアップまであと228
VIT G レベルアップまであと76
AGI H+ レベルアップまであと89
DEX H レベルアップまであと96
INT H レベルアップまであと88
MND H レベルアップまであと95
LUK H- レベルアップまであと40
【スキル】:初級剣術Lv7、初級鑑定Lv6、初級槍術Lv3、初級短剣術Lv2、初級盾術Lv2
【称号】:なし
各ステータスが一段階上昇し、HPとSTRに至っては二段階目を突破することができた。……どうだまいったか!
……あー、コホン。と、とにかくだ。さらに強くなることに成功したのは確実だろう。しかしながらちょっとやり過ぎた感も否めないとは思っている。
槍やナイフなども使い回してみた結果【初級槍術】・【初級短剣術】・【初級盾術】という新しいスキルを手に入れることができた。
ウインドウに表示された戦果に満足気に頷いていたが、よく見たら空が夕方になりかけていることに今になって気付く。街を出る前に補充した回復アイテムもすっからかんだ。
「一旦戻るか? ……いや、たしかショップで売却と購入はできるんだったな、ならば突撃あるのみだ!」
私は【ショップ】の機能を使って手に入れたドロップアイテムを売り、回復アイテムを補充するとそのままの勢いに乗って次のエリアに進んでみることにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます