第4話

 たった今起こったことを、ありのまま話そう。



 突如として現れたハニワの形をした謎の物体Xを、俺は手に取って持ち上げたんだ。



 そして、この物体Xが最後のチュートリアルの報酬である【ハニワんず】じゃないかって呟いた瞬間、あろうことかそのハニワが動いて返事をしたんだ。



 急な出来事と不意を突かれたことにより、プチパニックに陥った俺は、手に持っていたハニワを悲鳴と共に地面に叩きつけたんだ。



 そしたら、カエルの潰れたような声を出してそのまま動かなくなってしまったんだ。



「……死んだか?」


「生きてるニワ! 勝手に殺すんじゃないニワ!!」


「うわっ、なんだお前は!?」


「ボキかい? ボキは【ハニワんず】だ」


「だから、そのハニワんずってのは何なんだ?」


「ハニワんずはハニワんずニワ。それ以外のなにものでもないニワ」


「まさか、説明なしの丸投げなのか?」



 あまりに不明瞭な物言いに若干の困惑を禁じ得ないでいると、ハニワんずの言葉を補足するようにインフォメーションが表示される。



《【ハニワんず】を獲得しました。ハニワんずは、あなたの生産のサポートを行う助手兼【メイク・オア・アドベント・オンライン】のマスコットキャラクターでもあります。与える指示によって様々な形態に進化していきますので、詳細につきましては実際に指示を出しながら確認をしてください》



 ということらしい……。



「お前が、このゲームのマスコットキャラクターだと!?」


「そうニワよ」


「全然ファンシーじゃないんですけど!」


「かわいいのがマスコットキャラクターとは限らないニワよ!」


「まあ、マスコットキャラクターに関しては正直どうでもいいとして、次なにをすればいいんだ?」



 肝心なのは、このキャラクターがどれだけ役に立つかであって、マスコットキャラクターとして相応しいのかというのはどうでもいい。



 目の前にいるオーパーツ然とした物体に対し、次の行動方針を聞いてみた結果このような答えが返ってきた。



「え? 好きなことをすればいいんじゃないかニワ?」


「お前、絶対サポートキャラじゃねぇだろ!!」


「冗談ニワ。ちょっとした茶目っ気ニワ」


「そんなことは誰も求めてないから、さっさと指示をくれないか?」


「ボキのご主人は冗談の通じない人ニワね。じゃあ、ショップから【鉄の巨石】っていうアイテムを購入してみるニワ」



 見た目が、冗談かなにかかと小一時間問い詰めたくなるような奴にそんなことを言われて内心で憤慨の念を抱きながらも、ハニワんずの提案した通りショップから【鉄の巨石】というアイテムを探してみる。



 その前にショップの機能について説明すると、まず【売却】と【購入】という機能があり、その名の通りプレイヤーが所持しているアイテムや装備品などを売り買いすることができるというものだ。



 売却するアイテムと購入するアイテムの金額は、あらかじめ1:10という比率に設定されており、例を挙げるなら10マニーで売れる【木のスコップ】をショップで購入しようとすると、その10倍の100マニーが購入額となる。



 その比率だけ聞けば、生産職のプレイヤーはともかく戦闘職のプレイヤーに不利ではないかと思う人間も出てくるだろうが、その点については問題ない。



 ショップで売られているアイテムや装備品などを購入するのは、主に戦闘職のプレイヤーだが、彼らの場合モンスターの素材を売却することで、簡単に装備品購入のための資金を得ることができてしまう。



 一定時間が経過しなければ素材を入手することができない生産職と違い、際限なく湧いてくるモンスターを倒して素材を入手できる戦闘職の方が、お金稼ぎに向いているといえる。



 であるからして、売却と購入の対比が1:10でもなんら支障は出ないということになる。むしろ、1:1にしてしまう方が問題になる可能性すらあるのだ。



 ちなみに、【納品ボックス】と【売却】の違いは、納品ボックスに入れたアイテムや装備品は特定の決まったプレイヤー一人に対してしか販売されず、【売却】の場合は不特定多数に対して販売することができるというものだ。



 加えて言えば、納品ボックスの場合販売できるプレイヤーもランダムでも特定個人でも両方設定が可能という機能も付いている。



 次に【オークション】という機能だが、アイテムをプレイヤーが任意の価格で出品することで開始され、競売方式にてアイテムや装備品を競り落とすというもので、当然提示した価格の高いプレイヤーに購入する権利が与えられる。



 先の【売却】と【購入】の相違点としては、販売する価格とオークション開始の時間と終了の時間を個別に指定することができることだ。



 これにより【タイムセール】や【期間限定販売】などといった販売方式を明確に取ることができ、仮に売れ残った場合でも価格を下げて【売却】に出すことで売れ残りがないようにする対策も取られている。



 尤も【売却】と【購入】の機能でも、プレイヤー自ら掲示板などで告知をしてから販売すれば限定販売はできるため、限定的な販売についてはどちらも可能であるという認識が正しい。



 ショップについての説明はこれくらいにして、ハニワんずの言っていた【鉄の巨石】というアイテムを見つけたので、詳細を確認してみた。





【鉄の巨石】:一定時間経過で【鉄鉱石】を入手することができる。だたし、入手にはピッケルを使って採掘する必要がある。 価格:3000マニー





 ふむふむ、これは早くも石器時代から鉄器時代に移り変わるのだろうか? いやだから、時代の移り変わりが早すぎやしませんかね、運営さん?



 内心で運営に対して悪態を付きつつも、さっそく購入する。現在の所持金は、チュートリアルと納品ボックスで納品した道具の売却で、約4500マニーほどになっているのでなんとか購入は可能だった。



 購入してすぐに設置しようとしたが、再びどこに設置するのか迷った挙句、砂地の中心部に置いておくことにした。



「おし、これでピッケルを使えば【鉄鉱石】が手に入るんだな」


「そうニワよ。ピッケルは持ってるニワか?」


「そういえば、納品したから在庫がなかったな。じゃあ、作るか」



 ハニワんずの言葉に従い、一からピッケルを製作する。さらに追加情報として、木材を入手する時は斧を使った方が一度に入手できる個数が増えるということを教えてくれた。



 とりあえず、木材を確保するためしばらく木こりの真似事を繰り返して木材の在庫を増やしていく。ハニワんずの情報通り、木の斧を使って木材を入手すると、一度に入手できる木材と木の苗木の個数が何も使わない時よりもいくらか増えることが確認できた。



「ほんとに増えた。たまには役に立つことを言うんだな、お前」


「それはなにげに酷い物言いニワ! これでもご主人の生産活動を補助するマスコットキャラクターニワ!!」


「お前がサポートキャラだということは認めてやるが、マスコットキャラであることは断じて認めん!!」


「なんでニワ!? こんなにかわいいのに!!」


「かわいいだと? 不気味の間違いだろ」



 やれやれ、まったくもってうるさいやつがやってきたものだ。俺はこんなのっぺらとした表情をした奴と漫才をやるつもりで、このゲームを始めたわけではないんだがな。



 ハニワんずのことは放っておいて木材でピッケルを作製をしていると、俺の周りを周回しながら妙な踊りを踊っていたので、奴が後ろを向いた瞬間に後頭部を叩いたら、またカエルが潰れたような声を出して動かなくなった。



 すぐにむくりと起き上がると、俺に抗議の声を上げてきたが、人が作業に集中している時にそんなことをすれば誰でも苛立つと思うぞと言ってやったら、自覚があったのか言葉を詰まらせて押し黙った。



「おし、これで完成だな。じゃあ鉄鉱石をいただくとしようか」



 ピッケルを使って先ほど設置した【鉄の巨石】にピッケルを打ち付け鉄鉱石を採掘する。手に入れた鉄鉱石を鑑定してみた鑑定結果はこんな感じだ。




【鉄鉱石】:鉄を含んだ鉱石。あらゆる鉄製品の原材料となる。 レア度:コモン 品質:最低




 まだこのゲームを始めて一日も経過していないのにも関わらず、早くも鉄鉱石を入手できてしまった。個人的にはもう少し先でも問題なかったのだが、さくさくゲームを進められるのはプレイヤーの立場としてもいいことなので、心の中で納得しておく。





《特定条件を満たしました。プレイヤー【スケゾー】は【初級採掘】を獲得しました》





 ピッケルを使って採掘したことがトリガーとなり【初級採掘】のスキルをゲットした。



 いよいよ、鉄系統のアイテムを作製するため、さっそくプロダクトを使って作成しようとしたところ、なぜか失敗に終わってしまう。



 その後もいろんなことを試してみたが、結局次のステップに進むことができずに詰みを迎えてしまった。



「なんでできないんだ?」


「鉄鉱石を加工するには、【工房】が必要になるニワよ?」


「……なんだと?」


「だから、鉄鉱石をかこ――いたたたたたた!!」


「お前、俺が今まで悪戦苦闘してるの見てたよな? なんでそれを早く言わないんだ!」


「いたいいたいいたい、ちょ、ちょっとご主人、ボキの顔がミシミシ言ってるから! アイアンクローはやめてニワ!!」



 俺のアイアンクローに苦悶の声を上げながら、奴が抗議する。



 勘違いしているかもしれないから一言言っておくが、俺は決して相手に痛みを与えることで興奮する特殊な性癖などは持ち合わせてはいない。



 しかし、自分に非があるにも関わらずそれを省みない相手に対し、肉体的な罰を与えているに過ぎないということだけは言っておきたい。



 鉄鉱石を加工するため、ショップから【工房】の施設を購入しようとして値段を見た瞬間に目を見開いて驚いた。



「え、30000マニーって、高すぎんだろ!?」


「それだけ、必要性の高いものだってことニワよ」


「マジかよ」



 いきなりの高額な請求額に顔を顰めつつも、今までさくさくとゲームを進めてきたので、ここで少しハードルの高い課題をこなすのもいいかと自分に言い聞かせる。



 とりあえず、次の目標を【工房】の購入とし、ここで新たにもう一つの生産方法である手作業による生産をやってみることにした。



「まずは、手作業でやるための道具の作製だな」


「ららららー、るるるるー」



 手作業による生産を行うためには、道具が必要であると判断し、最初にプロダクトで以下の道具を作製する。その間ハニワんずというと、謎の踊りを踊りながら鼻歌を歌っていたので無視しておいた。




【石の作業用ナイフ】:手作業で生産するために必要な道具。加工できる対象は木製品のみ。 レア度:コモン 耐久度:70 / 70 品質:最低




 さらに追加で【石の作業用トンカチ】・【石の作業用ノミ】・【石のヤスリ】といった道具を生み出していく。



 まずは木材から生み出した道具を使って【木の柄】を作製していく。



 木材からの作業のため、自動的に生産できるプロダクトとは異なり、かなりの時間が掛かったが、以下のようなものが完成した。




【木の柄】:木の道具を生産するために必要なパーツ。 レア度:コモン 品質:普通




 ここにきて、ようやく品質が最低から普通になったことに喜びを感じる。それから、手作業に慣れるべくひたすら木の柄を生み出していった結果、最終的に品質が【中質】にまで向上させることに成功した。



 言い忘れていたが、このゲームの品質は九段階あり、低い順から【最低】・【劣化】・【低質】・【普通】・【中質】・【高質】・【良質】・【上等】・【最高】となっている。



 様々な条件によって質が高くも低くもなるため、プレイヤーはその条件を見極めていかなければならない。



 ちなみに、当然のことだが自動で生産するプロダクトよりも手作業で行った方が、高品質な品物が出来易い。それとは別に、所持しているスキルレベルが高いと、プロダクトで生産した時でも質の高いものが生まれてくることがわかった。



 そのまま作業に没頭していると、いつのまにか腹具合を表すメーターが減っていたため【携帯食料】で腹を満たす。味自体は薄味のクラッカーのような味をしており、あまり美味いとは言い難いものであったが、今はこれしかないため我慢しながら作業にのめり込んでいった。

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